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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ヨン-
38/66

code:4「集合」

弥生たちが基地へ戻った時に。掛けられた第一声が。


「あら?弥生ちゃんの恋人?」


これだった。

金髪ですらりと長く伸びたポニテの軍人がニヤりとしながら言っていた。

軍人の片方の肩脇には、歩行補助器具である松葉杖が挟まっていて。

その肩の袖からは、包帯が見え隠れしている。


「た、隊長さん。何を言ってるんですか!?」


それに対して弥生がすかさず否定した。

隣では未来が軽く溜息を尽いている。


「・・・・・冗談ですよ。弥生ちゃん。それより彼は何で生きてるのですか?」


隊長の言う彼。というのは煤野木の事だろう。

目配せというか。話の流れ的に。


「隊長さん。彼はちょっと個人的な理由があるので。

放って置いては貰えませんか?」


右腕を弥生の前へと出して、弥生の斜め前へと体を出す形で。

未来が弥生と隊長の会話に入って来た。

しかも、暗黙に「関わるな」と言っているのだが。


「・・・・・・・・」


黙ったまま隊長は未来の瞳の奥底を見詰め続けていた。


「・・・・・お願いします」


未来の重々しく(しぼ)り出したその言葉。

押し黙った空気の中。未来が噛み付くような視線で隊長を見詰める。

隊長は無表情のまま。溜息を着いた。

そして言う。


「はい。未来ちゃんがそこまで言うなら私は関わりません」


特に否定するわけでもなく。隊長は引き下がる。

隊長は少し笑顔が増したぐらいで。怒ったりはしなかった。

その笑みは、母親が娘を見詰めるような優しい笑み。


「ありがとうございます。・・・・じゃ。煤野木さん。

そういう訳でここで生活していいらしいですよ。良かったですね」


一方的に話して。打ち切る未来に対して。


「・・・・・そんな適当でいいのか?」


それが煤野木の返事だった。

しかし、未来は相変わらず事務的に返事をする。


「ええ。私は私のやる事がありますし。貴方は貴方でやる事があるんですよね?

なら私が関わったり、無駄に感傷的になっても仕方がないですからね」


空気が何となく重くなったが。煤野木はとりあえず。


「・・・・・まぁいいが」


納得する事にしたらしい。

そんな空気の中。明らかに浮いている声が割く。

しかも滅茶苦茶に拒否っている声。


「あ、弥生帰って来たんだ・・・・・」


小柄の、赤とピンクの制服を着た緑色の髪の少女。

その少女は弥生を見詰めながら、物凄く嫌そうな顔をしている。


「さ、佐伯・・・・・・・・」


対して弥生も佐伯と同じような顔をして返していた。

何とも陳腐(ちんぷ)な睨み合いをしていたのだが。

佐伯の表情がある境でふと変わった。


「・・・・・・あれ?その人は誰?」


佐伯の視線の先には煤野木が映っている。


「男の人ですよ」


弥生の至って適当な生返事。


「いや、男の人は分かるよ。私もそこまで馬鹿じゃないよ?」


佐伯が両手を組みながら溜息を尽いていると。


「え・・・・・」


弥生が驚愕(きょうがく)のポーズを取りながらそう言った。

顔は何かどや顔のような。眉間を寄せて口元は釣りあがっている。


「ちょっと待ってね弥生。今すぐカミカゼ起動してきて。

その物凄く残念な物を見るような顔を破壊するから」


にこにこにこ。と引き笑いしながら佐伯が告げる。


「そこまでにした方がいいわよ」


どこからか、二人の会話へと割ってきた声がした。

いつの間にかその輪の端に参加している青年が二人。

一人は黒髪長髪のツインで赤と白の巫女服を着た青年。

両腕を組みながら、壁へと体重を掛けていた。

もう一人は純色である青色の髪の青年。

西洋のドレスのような服を着ており、人形の印象を受ける。

髪と同じように真っ青な瞳は、どこか虚空を見詰めていた。

ぺたりと両手を膝の上に置きながら、長椅子へと座っている。

割ってきたのは前者である黒髪の青年だろうと簡単に分かった。

組んでいた両手を(ほど)き、かつかつかつとその輪に入っていく。


「・・・・それ以上やると。隊長さんに怒られるわ」


ぼそりと呟いたそれに弥生と佐伯が恐る恐る隊長の方を見る。

隊長の顔は確かに笑っていた。

確かに笑っていた。が。

瞳はどこか冷え切っており、余っている手を頬に当てている。

危険。そう。危険だった。


「ご、ごめんなさぁああああい!」


佐伯が速攻で土下座で謝る。


「す、すいません!」


弥生も続いて隊長に御辞儀する形で謝った。

そして数十秒無言のまま経って、おそるおそる頭を上げると。

隊長の。冷徹な恐ろしい笑み。

あまりの恐ろしさにそのまま小刻みに震える弥生と佐伯。

そんな様子を見ていた未来が呆れ顔で。


「・・・・・毎度通り貴方達は()りないからですよ・・・・。

まぁ、貴方達なら仕方がないんですがね」


溜息を尽きながら言う未来。

すると、隊長が弥生達の方から未来の方へと方向転換した。

見れば笑みが。怒りの顔へと変わっている。

焦る未来。


「え。いや。え?私何か地雷でも踏みましたっけ?

いや、あの・・・・・その・・・・。怒られるような事・・・・・・・」


しどろもどろに。言う未来に対して。


「未来さんッ!!!」


隊長の一閃。

飛び上がるように、驚く未来。


「は、はい!何ですか!?いや、何でしょう!?」


未来の脳内では怒られるような要因などは浮かばない。

しかし答えは案外単純な物だった。


「彼女達よりも年上なのですから、注意したりする事はないんですか!?」


注意不足。要は監督不届き。


「え、あ・・・・・。すいません」


あまりにも単純すぎる答えに。少し安堵する未来。

だが、それすら甘かった。


「正座しなさい!」


鬼のように怒る隊長。


「は、はい!」


あまりの鬼気迫る気迫に圧倒され、その場ですぐ正座する未来。


「私の注意不足もありますが・・・・。

私よりも彼女達によく接する貴方だからこそですよ!

ちょっと年上としての自覚が足りないのではないですか!?」


ガミガミガミと一方的に怒られる未来は。


(おっしゃ)る通りです・・・・」


同じ単語を繰り返し繰り返し呟いている。

いつもの捻くれた態度などは皆無になっており。

完全に意気消沈している。

そんな出来事を見ながら、弥生は更に震えていた。


(す、凄い勢い・・・・・)


ちらりと、弥生が横を見てみれば。

隣に正座したままの佐伯も、同じように震えている。

そしてとりあえず周りを見始めた弥生。

壁沿いの端ではどこかを見ている青色の青年。

ふと、弥生はそれで気づいた。


(あれ・・・・?揖宿さんと煤野木さん・・・・?)


あの二人がこちらを見ながら何か話し合っているのだ。


(・・・・揖宿さんが積極的に動くなんて・・・・)


少し驚く弥生。

何故なら。揖宿が話す所を見た事があまりなかったからだ。


(・・・・話してる内容が気になりますが・・・。

それよりもこっちが先決ですね・・・・・)


くるりと前に振り返る弥生。その先には隊長が怒っており。

未来がしょぼくれている。


「・・・・・弥生。・・・・・長くなりそうだね」


隣で壮絶な説教を見ている佐伯が。そう呟いた。


「・・・・・うん」


弥生も特に反論する事が無い。




ようやく隊長の怒りが静まったのは。

これから一時間も経った後だった。

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