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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ヨン-
37/66

code:3「初見」

扉の影から姿を現したのは。学生服を着た青年。


(・・・・高校生。身長は揖宿さんぐらいでしょうか?

それに、凄く何か、彼から感じるのは。安堵感・・・・・・?)


それが弥生の第一印象だった。

端から見れば高校生くらいの好青年を見た未来は。


「・・・・・煤野木・・・・」


呼びなれているように。止まっていた口から言葉が漏れた。

続けて未来が喋り繋いでいく。


「・・・・・・何故、貴方がここにいるのですか?」


未来は、詮索するように煤野木を問い詰めるが。


「・・・・・待て。何で俺の名前を知っている?」


未来と同様に動揺している煤野木。

お互いがお互いを見詰めた状態のまま静止していると。

ぽつり。ぽつり。と肌に小さな水が乗ってきた。


「未来さん・・・。その。雨降って来てますよ・・・・?」


もじもじと。躊躇(ためら)いながら弥生が言っている内に。

更に雨の勢いが増してくる。

明るかった教会内は次第に暗くなっていき。

日差しは閉ざされていった。

ただでさえ虚弱の弥生が濡れてしまったら。

あっという間に熱を出してしまうのは明らかだろう。


「・・・・・・近くに。建物があるんで。そこで雨宿りしましょう」


凄く疲れたような顔をしながら、未来は再び車椅子を掴んだ。

そして弥生の前へと差し出し、弥生がゆっくりと乗る。

少しずつ強くなってくる雨。未来は力強く車椅子を押した。


「・・・・・・・貴方も。着いて来て下さい」


出入り口付近で青年とすれ違う様、未来が呟く。

それは雨で消えてしまいそうな、小さくとても弱い声だった。

今回の移動する速度は通常よりも速い。

雨が降っている為。急いでいる為。という理由もあったのだろうが。


(・・・・・あの青年さんに何かあるのでしょうか・・・?)


弥生としてはそっちの方が気になってしまった。

しかし弥生が後ろを向いて未来の顔を見るのも気が引ける。

地面はただでさえ地盤がしっかりしていない為。

踏めば後が残りそうなくらいに柔らかくなっているのが見える。

現に押している未来も少し辛そうだ。

車輪が地面に減り込んだりするので、通常よりも負担が大きい。

しかし苦労した甲斐があり、何とか雨を防げる適当な建物へと入れた。

一階部分だけが入る事が出来る。まるで空洞のような場所。

四角い場所に。ところどころに瓦礫が落ちていたり。

崩れている部分があったりするが。屋根に穴は開いていない。


「・・・・・凄い降りっぷりだな」


一緒について来た青年が、外を見ながら言った。

ざぁざぁ。と雨が地面を打つ音が建物内に響く。


「まさか雨が降ってくるとは思いませんでした・・・・。

これなら傘でも持ってくれば、良かったですね・・・・」


弥生はびしょびしょに濡れている服を掴み、軽く絞る。

すると、未来が青年の方へ顔を向けながら言った。


「・・・・・・そんな事より。貴方ですよ。貴方。

何でここに居るんで・・・・・・」


不意に。未来の途中まで続いていた言葉が途切れる。

彼女はどこか煤野木の肩付近を見ていながら、目を丸くしていた。

そして、その表情は少しずつ険しくなり。


「・・・・・・β。貴方ですか・・・・・・・」


未来が聞き慣れない単語を発した。

その言葉に対して青年が過剰に反応する。


「な、見えてるのか・・・βが・・・!?」


しかし、一方では頭を傾げている弥生の姿もあった。


(べーた?英語か何かでしょうか?)


弥生にはそんな単語を聞いた覚えもないし、初めて聞く。


「まぁ・・・・そういう事だったら。仕方が無いですが・・・・」


青年の質問を無視して、未来は勝手に完結する。

そして未来は近くにあった丁度いい瓦礫(がれき)の上へと座った。

青年は、溜息を尽きながら。

これ以上勘ぐる事が出来ないと判断したらしく。

外で降る雨を見詰め始めた。


(・・・・後ろから見える彼の姿は大きいですが・・・。

なんだか、物凄く悲しそうですね・・・・)


そんな青年の様子を見ながら、弥生は心の底からそう思う。

(しわ)くちゃに伸びた半袖のシャツに。どこか荒くなった黒色のズボン。

先程顔を合わせた時に見えた。彼の瞳。


(・・・・・あれは。自分自身に一切の自信がなかった・・・・)


どこか違う場所を見ていて、それは決して自分を見る事がない。

見ても。絶対に一人称から逃れる事が出来ない。

自分自身を本当に自分でしか見ない。

第三者の視点などを決して考えず、自分は駄目だ。などと言う。


(・・・・神に仕える身なのですから。何か出来る事はないでしょうか)


ふと、弥生にはそんな感情が沸き上がる。

この心情もまた。弥生という人物を示していた。


「すいません・・・・」


弥生は自分の乗る車椅子を手回しで移動させて、青年に話しかける。


「・・・・・何だ?」


青年は相変わらず連鎖的に落ちる水の大群を見詰めていた時と。

対して変わらない表情で、弥生の方を向いた。


「・・・・・何か。お困りだったら。言って貰えませんか?」


単刀直入に弥生は言ったが。

当然弥生自身も直に言って貰えるとは思ってもいない。

あくまで、心の負担を軽くするためであって。

最後の心の拠り所として作っておくつもりだったのだが。


「・・・・・カミカゼだ」


青年が答える。

弥生は、答えた事にかなり驚いた後に。

すぐにそれは微笑みへと変わる。


「・・・そうですか。貴方は悩んでいるんですね」


優しく。ゆっくりと悟りかけるような口調。

だが青年は特に表情を変えずに。淡々と告げる。


「いや、違う。・・・・正確に言うならカミカゼでは悩んではいない。

・・・・・理解出来ない事が一つある。それだけだ」


冷たい返事。感情を一切込めないように思えさえする。

だが。後半部分では。少し感情が籠もっていた。


(・・・・・まるで。未来さんみたいに不器用な人ですね・・・)


なんとなく。弥生はそう感じた。

だから弥生は少し迷っていた感情を振り払い。答える事にする。


「弥生です」

「ん?」


青年は、まさか弥生が返事するとは思わなかったらしく。

拍子抜けしたような声が出ていた。


「私は弥生って呼ばれています。で、あの人は未来さん」


最初は自分に指を指し、次に座っている未来へと指す。


「あのですね・・・。人に指を指さないで下さい。

常識なんですから。いや、常識ですから。止めてくださいよ」


未来がジト目をしながら、弥生の方を見詰めてきた。


「え。いや・・・その・・・・すいません」


反射的に謝ってしまう弥生。

それを見ていた青年が。少し笑った。

笑いながら、弥生へと手を差し出してくる。


「俺は煤野木だ。よろしく」


先程とは打って変わったような豹変振りに。弥生は。

軽く戸惑いはしたものの。満面の笑みで。煤野木の出した手を掴んだ。




雨は。もう止んでいた。

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