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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ヨン-
35/66

code:1「再来」

小柄の少女は。ふと眼が覚める。

ゆっくりと体を起こすと、寝ていた場所は自分の部屋。

寝具があり家具があり普通がある。

眼を擦りそうになってしまった手を、思いとどまらせ。

欠伸をしながらふと考えていると。


「・・・・・あ」


少女の寝ぼけた頭が。ある事を確信した。


「か、か、か、かかか神様にお祈りしなきゃぁああああああああああ!」


急いで立ち上がろうとした少女は。

勢い余って。ではなく自身の体重に耐え切れず前へと倒れこむ。

そのまま地面に顔を打ちそうになったが。

誰かに。その体を支えられた。

と同時に声が後ろから聞こえる。


「・・・・・あのですね。無理な行動はしないで下さいよ」


いつの間にかその場にいた青年が少女を支えていた。


「弥生さん。貴方は虚弱なんですから」


弥生(やよい)。そう。少女はそう呼ばれている。

弥生の着ている服は寝具用の服で、熊の模様が書かれている。

寝相でぼさぼさとなるはずの髪は一切荒れていない。

その髪は少し普通というか。短髪でも長髪でもない長さの茶髪だ。

しかし未だ発展途上中なので、背丈はあまり高くは無かった。


(・・・・佐伯に比べればマシです・・・)


そう心の中で一瞬思ってしまった弥生である。


「すいません、未来(みく)さん。迷惑を掛けてしまって・・・・」


ぺこり。とその場でお辞儀をする弥生。

未来と呼ばれた青年は。

高校生の女子が着る黒色一色の上着に。

赤と黒の入り混じったスカートを身に着けていて。

そこまで届いているのは、黒と緑の中間とでも言うべき深緑の髪だった。

未来は少し顔を(しか)めた後に、弥生のお礼に答える。


「好きでやってるのですから、こっちとしては気にしないで欲しいのですがね・・・」


そして、未来は少し後ろに下がったかと思えば。

部屋の隅にある銀色に(いろど)られた車椅子を引いて来た。

弥生の移動手段である物。

同時に。弥生を縛り付けている物。

弥生は笑顔を作った後に、車椅子へと近づいて座った。

車椅子の座るところはどこか冷たい。


「・・・・・いつもの場所でいいんですよね?」


弥生の後ろから、取っ手を掴んでいる未来の声が聞こえる。

どこか。少しトーンが低くなっていたので。


「はい!」


弥生は元気良く嬉しそうに答えた。

その声を聞いた未来は軽く笑った後に。


「・・・・・子供に気を使われる程。私は甘くなんてないですよ?」


捻くれた事を言った。

そんな事をしながら未来は車椅子を押していった。

きこ。きこ。と少し()びた部分が車椅子から漏れる。

金属が擦れて不協和音を生み出しているのだろうが。

逆に何だか弥生にはそれが心地よい。

部屋を出て行って、通路をある程度抜けていくと。

外へ出る昇降機の出入り口までたどり着く。

ゆっくりと弥生を支える車椅子の動きは遅くなり、最終的には止まった。

後ろで取っ手を掴んでいる未来が昇降機の前へと移動して。

昇降機の出入り口扉横についているボタンを押す。

がごん。という重々しい音がそこに響いた。


「・・・・はぁー。疲れますね」


未来の溜息が聞こえた弥生は。ある一言に過剰に反応する。


(疲れる。疲れる・・・・つかれ。疲れる重さ?おもい。重い?何が?いや、誰が?)


そして至った結論は。


「こ、これでも佐伯よりは痩せてますー!」


突拍子に両手を前に出して何かの意思表示をしているが。


「・・・・・何を言ってるんですか?」


当然未来には理解出来ない。


(あ・・・・・)


とんでもない勘違いをしてしまったのを気づいた弥生の顔は引きつり。

未来は「いつもの事か」と納得して特に気にしていない。

そうこうしていると、昇降機がやってきて扉が開いた。


「・・・・良く分からないですが。まぁ行きますよ」


茹蛸(ゆでだこ)のように顔を真っ赤にしている弥生に対して。未来は冷静に言った。

そしてそのまま弥生の後ろへと回り、車椅子を押し始める。

入る前に位置関係を変えて、後ろ向きのまま昇降機へと入った。

昇降機の中は、四角い電話ボックスをそのまま大きくしたような場所。

丁度真ん中で車椅子は止められる。

弥生は、手を伸ばしてボタンを押そうとしたが。届かない。

それでも少し体を前に出してボタンを押そうとする弥生。

ぴくぴくと指先が震えて、背筋は伸びきる。


(・・・・あと少し・・・)


伸ばせば届きそうな距離まで来たと思えば。

後ろから手が伸びてきて、代わりにボタンを押される。

出入り口の扉はゆっくりと閉まり。

昇降機内が小さい揺れに襲われた後に、体が浮くような感覚。

弥生が頬を膨らませながら、後ろを見ると。


「・・・・そんなに恨めしそうな顔で見ないで下さいよ」


未来が苦笑いしながら、答えたので。


「むー」


弥生は更に頬を膨らませて、前を向いた。

昇降機が地上へと出る為に動き出している。

反響した音が外から聞こえるが、弥生はそれを見ながら。

何故かカミカゼと多重らせる。


(・・・・・・まるで、私達を乗せる箱舟のよう・・・)


旧約聖書に出てくるノアの箱舟。

罪人である人間を罰する為に大洪水で綺麗に浄化。

しかし、善人であったノアの一族だけは生き残る事を許された。


(船は船でも、死の船・・・・)


がこん。がこんと昇降機が動く中。

弥生は一人そう思っていた。

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