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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ゴオ-
33/66

First.end:「リスタート」

朦朧と(もうろう)した意識が煤野木が感じた最初の印象だった。


「う・・・あ・・・・・う?」


声を出そうとしても、うめき声しか出ず。体は反応しない。


(・・・・・何が・・・・あった?)


何とか眼を開いてみると、居るのはモニター室。

だが。見える視界は半分が地面で。半分は全ての物が垂直になっている。


(俺は・・・・今地面に伏せている・・・・のか)


煤野木は断片的な意識を繋ぎ、何とか考えをまとめようとした。

しかし頭は未だぼんやりとしており、まともらしい思考はやりずらい。

ようやく意識がしっかりと保てるようになってきた頃には。

体の方も調子が戻っていた。

とりあえずはすぐさま立ち上がる煤野木。


(・・・・周りは。これといって変化がない・・・・)


未だ呆けている頭を叩き、なんとか手をつく形で地面に座れた。


「・・・・β。何があった・・・・・?」


特に誰も居ない、閑散(かんさん)とした部屋で煤野木は呟く。

すると、一人の小柄な少女が空中に現れた。


「煤野木は、睡眠薬を飲まされたみたいです・・・。即効性で深く眠るタイプの・・・。

ただ、薬による後遺症の方は心配ないようです・・・・」


すぐさま煤野木の疑問に対して、簡潔に答えを出してくれるが。


「・・・・・揖宿か」


それによって出た答えは。それだった。


(・・・・あまりにも簡単に俺の要望を受け入れすぎていた・・・・。

そうか、最初からこうするつもりだったのか・・・・)


揖宿の態度を思い出していると、ふとついでに思い出す。


「そうだ・・・奴らはまだ・・・・残っているはずだ・・・・!」


ふらつく足を奮い立たせ、何とか精密機械への前へと移動する。

そこに表示されているのは。


「・・・・・・反応、なし・・・・?」


煤野木は急いで再度検索するも、表示されるのは同じ内容。


「バカな・・・・。一千万だぞ・・・・・。一人で片付けられる訳が・・・・」


機械の冷静な答えに。煤野木は現実を受け入れられなかった。

その事実を否定する為に。今度はモニターを見上げる煤野木。

だが、モニターに映っているのは。


「・・・・・・これは・・・・」


いつも見えている崩壊した都市ではなかった。

いや、厳密に言うなら。煤野木が知っている半壊や倒壊。

それら全てを含んで、まだ都市としての原型は確かに残っていた。

しかし今見えるのは文字通りの崩壊。

一つとしてまともに立っているビルや建物はなく、横たわっているか。

瓦礫となって崩れ落ちているかのどちからだ。

反射的に、煤野木はモニター前から駆け出す。


「煤野木っ!?」


βの驚いたような声が聞こえたが。

それを無視して煤野木はモニター室から出て行った。

煤野木は駆ける。

まったく変わらない風景の廊下を。

機械的で、特にこれといって特徴がない事が特徴の廊下。

無機質な冷たい廊下を一歩一歩を踏みしめて駆ける。


「・・・・・・くそ」


荒い息を吐き出ししながら、煤野木は揖宿の事を思い出していた。


『・・・・貴方は。隊長の願いしか聞き入れないのね』


未だ煤野木にはその意味が分からない。


「・・・・・くそ・・・」


そして何故か走馬灯のように。煤野木は揖宿の言葉を思い出していく。


『・・・・・殴りたければ殴ればいい。それで気が済むならやればいい。

私は受け入れる。それが理不尽であっても。

そして、貴方は足りない。気づかない。最後までそうしているつもりなのかしら?』


あの時の強い意志と共に感じた何か。

煤野木にはあってないような。――いや、そもそも煤野木自体の考えとは違うような。

彼女に何かがあった。


「・・・・・くそっ!」


気づけない。そして情けない自分に憎悪すら感じる。

そうしていくと。通路が登り道になった。

通常基地は地下に埋まっている形となっているので。

外に出る方法は二つしかない。

エレベーターなどの昇降機を使って外へ出るか。

通路などを使って地味に上っていくか。

外に出る時は、早くて簡単なエレベーターを使って出るのだが。

煤野木はわざわざ通路を選択した。

そうしてまた駆けながら斜面を登っていく。

斜面は急ではないが。そもそも非常用や食料などの経由で使われる為。

人に対しての配慮が無かった。

だが、煤野木は登っていく。

そうやって上っていると、ふと煤野木は最初の頃を思い出していた。


『・・・・また、面倒なのがやってきたわね』


(・・・・佐伯に誘われて初めて会った時の彼女は、もしかしたら。

こうなる事が分かっていたから。そう言ったのか・・・・・?)


しかし、そうは思っても。

唯一確認する事を出来る本人はいなかった。

何故ならつい先ほど。といっても煤野木自身分からないのだが。

彼女は戦った。

味方一人もいないこの場所で。

全てを何もかもありとあらゆる事を背負いながら

敵の大群へと突っ込んで行き、消えた。

本当の本当に何も残さず。


「ふざけるな・・・・・」


つい、煤野木の口から漏れた。


(・・・・どうして。誰一人として人を頼らない・・・・!)


辛い。人生を送ってきた彼女達。

煤野木には理解できない。ただ。煤野木はせめて助けたかった。

最後の結果がこれだ。


「ふざけるなッ・・・・!」


着々と出口へと近づくにつれ、それは大きく確かなものに。


「ふざけるなッ!!」


大きく息が切れて、体は悲鳴を上げる。

だが、煤野木は外へ出る為に一心不乱に登った。

ようやく外の光と共に、外へ出る事が出来た煤野木は。

目の前の光景を見て驚く。

モニター越しで見たあの光景はほんの一部だと思っていた煤野木。

だが、その光景は見える限り全てが。そうなっていた。

土煙は立っていない事から。時間が経った事を示している。

建物は完膚なきまでに叩き壊されて。(えぐ)られて。

一部だけが浸水していた都市部は、大半がもう既に陥没していた。

煤野木が以前見た時も、あまり水は綺麗ではなかったが。

都市部の泥と、荒々しく破壊された土地の土とか混ざりに混ざり。

綺麗などとは程遠い。

そして煤野木はゆっくりと歩き出す。

同時に気づいた。

土や水。はては木や火が完全に滅亡したこの世界で。

空だけが、神々しく晴れている事に。

雲が、円を描くようにこの場所だけ削り取られていた。

なので太陽の光が遮られていない。


(・・・・・日の光が水に反射している)


わりとどうでもいい事を思いながら、煤野木は以前変わらず進み続ける。

びちゃ。びちゃとぬかるんだ土を踏みしめながら。

煤野木は歩きながら気づいた、胸付近に感じる違和感に。

そこには茶色で長方形の封筒。

達筆の日本語でこう書いてあった。


【煤野木へ】


(・・・・・・)


無言のまま煤野木は封筒を横に切り、中身を取り出す。

それは、白色の。しかしどこか青色を感じるような色の手紙。

折りたたんであったそれを広げ、煤野木は文を読んだ。


【この手紙を読んでいる時には。おそらく私は生きていない。

貴方には伝えたい事があるの。

まず一つ目。貴方を裏切る形で悪かったと思っている。謝るわ。

次に二つ目。貴方は覚悟したのでしょう?・・・・死ぬ。覚悟を。

カミカゼを使ってこの世界を守るという覚悟。

私は絶対にそんな事は許さない。貴方に死ぬ資格なんて物はないのだから。

生きる意味を知らない人の覚悟は。

軽い。そして。重くてもそれは偽者だから。

それはただ自殺志願と。大して変わらない。

だから貴方は絶対に生かすつもりだった。


そして三つ目。  ・・・・・貴方を一人にして。


  ・・・・ごめんなさい】


細い文字で書かれていたそれは、そこで終わっていた。

煤野木は手紙の端を少し強く握り締めて、ある言葉を思い出す。


『私は二度。同じ事は言わない』


その中にどれほどの覚悟があったのか。


(・・・最初に。乗るって。確かに言ってたな・・・・)


今更ながら。本当に今更やっと気づいた煤野木。

そして、そんな煤野木の後ろには、やっと追いついたβ。

煤野木に手をかけようとしたが、煤野木が少し震えている事に気づいて。

その手をそっと止めながら、βは後ろから見守っていた。

煤野木は手紙をたたんだ後に、封筒へと再度入れ直して。

口を動かした。


「過去に戻ろう」


ぼそりと呟いたそれにβが過剰に反応した。


「煤野木!?」


切羽詰るように。信じられない。というような。

しかし煤野木は続けて喋る。


「・・・・未来を変えなきゃいけない。

それに、一切分かってない事ばかりだ。

・・・・生きる意味も。未だ見つけ切れてないしな」


(うつむ)きながら言う煤野木に。βは真剣な眼差しで見詰める。

しかし、彼女の瞳の奥底では。否定して欲しそうな。

何とも言えない感情があった。


「・・・・・本当に。・・・・戻るの?」


βはしどろもどろに聞きながら、顔を少し濁らす。

どうしても、答えを聞きたくないかのように。

だが。煤野木はハッキリと言った。


「あぁ、過去に戻ってこの未来を変える」


煤野木の迷いのない。()んだ一声に。

βは諦めた表情をして。また一瞬で笑顔へと戻した。


「うん。・・・・でも、エネルギー的に半分程度しか戻れないよ。

それでも煤野木は過去に戻りたい?」


βの問いに煤野木は左拳を力強く握り締めながら答える。


「・・・・あぁ。変えてみせる。この未来を。必ず」




そして戦いは過去へ。

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