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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ゴオ-
32/66

Last.code:2「最後」

けたたましいサイレンの音と共に、赤灯色のランプが明かりを発する。


「・・・・・ついにですか」


揖宿は偶発的に。ではないが必然的に自分の部屋にいて。

すぐさま椅子から立ち上がり、自分自身の部屋を後にした。


相変わらず特に変化のない、半永久的に同じような模様の廊下。

揖宿は少し遅い足取りを速め、モニター室へと急ぐ。


何度も何度も同じような景色を見た後に、ようやく着くその部屋には。

煤野木が既に待っていた。

彼の服装は。当時ここにやってきた時と同じような。

高校生の半袖、黒ズボンの制服だ。

黒髪短髪の、至ってどこにでもいそうな学生。

彼自身の瞳はどこか威圧感があるが、中身はまるで()もっていない。

例えるなら。ただ大きいだけの特に異色の物がない。とでも言えばいいのだろうか。


(・・・・彼自身の覚悟は確かにたいした物なのだけれど)


揖宿は自嘲気味に笑い、とりあえずはモニターへと近づく。

モニターの前には、どこか大国の情報機関を予想させそうな精密機械達。

それら一つ一つは各自に役割があり、揖宿はその一つへと眼を付けた。

世間一般的に言えば、生命探知機(レーダー)。と呼ばれている物だ。

しかし従来の物とはまったく形状や性質。精密度は異なっている。


揖宿はその機械の前へと行き、とりあえずは敵の位置。つまりは座標を調べた。

横から、煤野木が覗いて来る。

そして彼は、そこに示された数字を見て絶句した。


「・・・・・一千万体!?」


今までの敵の数は、最低最高で。つまりは変わらなく一体。

だが。今機械上に示されているのは。その一千万倍。


「・・・・・最初から。勝てない。戦いだってのか」


横元から煤野木の歯軋りする音が聞こえた。

対して揖宿は、至極冷静に。端的に事務的に状況を判断する。


(・・・・・一千万体)


通常敵一体に消費される人生は。人間一人分。

一千万体となれば、一千万人分。

生物が彼ら以外に死滅したこの世界で。

そもそもそんな大量の人生を準備できる訳が無かったが。

揖宿は、いつもより少し感情を表に出しながら。結論を述べる。


(・・・・ギリギリいけるでしょうね)


どこからそんな根拠は来るのか。


そして揖宿はその場で顔を横に向け、煤野木と眼を合わせて。


「・・・・・煤野木さん。少し飲み物を飲んで落ち着きませんか?」


煤野木は揖宿の意外な提案に、少し驚いたが。


「・・・・・こんな時に。か」


すぐさま落胆した様子を見せながら。

今はそれどころじゃないだろう。とでも言いたげな返答をする。


「こんな時だから」


だが揖宿は、特に表情を変えずに答える。

そしてそのまま半ターンしながら、歩き出した。


彼女の向かう先は、すぐ近くにあるテーブル。

その上にはインスタントが入っている箱と。供給用のポット。

箱に入っている飲み物の元と、紙コップを取り出し。

揖宿はポットに入っているお湯を入れて、即席の飲み物を作った。


しかし、確かに作りは作ったのだが。

作る途中で、揖宿はポッケにある小型の紙袋を取り出し、紙を破って。

煤野木から死角に当たる場所から、片方に紙袋の中身を注ぎ込んだ。

そして両方とも捨て置きタイプのスプーンを使い混ぜ込む。

最後に中身を入れた方の飲み物を、煤野木へと手渡す。


「・・・・・予定道理。貴方が乗るのでしょう?」


熱い飲み物が入った紙コップを掴みながら、揖宿は喋る。


「・・・・あぁ。覚悟は出来ている」


煤野木は飲み物を飲みながら、強い口調にしっかりとした顔付きで答えたが。

その返答に。揖宿は特に表情を変えなかった。


揖宿はそのまま熱いお茶を口に含み、体の芯から温かくなるのを実感する。

煤野木は続けて答えようとしたが。


「・・・・・・任せろ・・・かなら・・・・・ず」


呂律(ろれつ)。というより言葉が途中で途切れたのは。

煤野木の力が急に抜け、地面へと倒れこもうとしたからだ。

揖宿はそんな彼の身体を支え、地面へと倒れるのを前もって防ぐ。


「・・・・・ええ。貴方はここで寝ていて下さい」


揖宿は既に意識が刈り取られている煤野木にそう呟いた。

そしてゆっくりと煤野木の身体を地面へと横たわらせ、自身の懐へと手をやる。

出てきたのは一つの封筒。


それを煤野木の胸ポケットへと入れて、揖宿はまた後ろを向く。

向かう先はカミカゼ。の置いてある部屋。

全ての始まりであり、全ての終わりである究極兵器に近い物。


(・・・・そして、煤野木さん)


「・・・・・貴方は。全てを受け継ぐべき」


独り言なのか。それとも誰かに言っているのだろうか。

最後の最後まで何かを呟いた後に。

リズムよく足踏みしながら歩きながら、揖宿は部屋を出て行き。

隣接しているカミカゼの部屋へと入っていった。

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