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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ゴオ-
31/66

Last.code:1「交渉」

揖宿は、ハープを持ちながら基地へと戻った。

そして基地内で適当に歩いていると、ふと煤野木と出会う。

途端に。両方の足踏みが止まった。

少し沈黙が空間を支配したが。


「・・・・何も告げないで出て行ってしまって。謝るわ」


揖宿はその場で直ぐに謝る事により、緩和的になる。

すると、煤野木は返事にこう言った。


「ここで話すのもなんだ。俺の部屋に行こう」


煤野木は反転し、長い廊下を歩き出す。

煤野木のどこか悲しげな背中を見詰めながら。


(・・・・・覚悟の雰囲気がする)


直感的に揖宿はそう思った。

この前の。誰が犠牲になったかは忘れてしまった戦いの後。

彼は犠牲になった人物の。全てを受け止めていた。

だが。


(・・・・その覚悟は。私は絶対に認める訳にはいかない)


揖宿はそう思いながら。煤野木の後を追うようにして歩く。

かつかつ。かつ。両方の靴が地面を蹴る音が廊下に響いている。

様々な部屋や曲がり角。倉庫と思わしき場所まで。

色々な物が途中で見えながら。ようやく煤野木の部屋の前へと辿り着いた。


「・・・・・ここだ」


分かりきっているのに。改めて煤野木は口に出す。

扉は至って普通で。市役所辺りにでも見そうな印象を受ける。

煤野木は、銀色にながらもどこか傷がついたりしているドアノブを回し。

何時も通り。といってもそれは煤野木からしてであって。

揖宿がここに入ったのは初めてだった。

その部屋は。殺風景。第一印象がそれだ。

ベッド以外殆ど目ぼしい物がない。

白色の壁紙。白色のベッド。白色のシーツ。白色の....

部屋は閑散としており、妙に小奇麗で。だが。どこか汚れている。

確かに。衣装をかけるためのクローゼットはあるはあるものの。

それも白色で。まるで新品のようだ。


(・・・・・彼は。本当に・・・)


揖宿は。確信した。

煤野木はベッドに近づき、座り込む。

揖宿は近くにあった折りたたみのパイプ椅子を使い、そこに座る。

ぎしり。という椅子が(きし)む音が響く。

恐らくは誰かが使った後、そのまま置いておいたのだろう。


(・・・・誰。なのかはもう覚えていないですが・・・)


揖宿以外の誰かが。ここに座り。

煤野木と楽しく語り合ったり、共に悲しみを分かち合ったり。

様々な。思い出や記憶が合ったのだろうが。

全て消えた。


(・・・・いえ。消えたというのは語弊(ごへい)ね。

彼以外は全て消えた・・・が正しいのかしら?)


揖宿がそんなどうでもいいような事を考えていると。

煤野木が急に喋った。


「・・・・揖宿さん。単刀直入に言っていいか?」


真剣。だがどこか間の抜けたというか。気の抜けた。というか。

少し声が()もっていない。

それに対して揖宿は芯の籠もった返事をする。


「カミカゼ。なのでしょう?」


こくり。と煤野木が返事をする。

そして彼は続けて喋っていった。その全ての覚悟を。


「・・・・・俺が先に使わせて貰えないか?」


煤野木の瞳にはしっかりとした覚悟。

覚悟としては申し分なかった。が。


(・・・・彼は理解出来ていない)


揖宿としては残念で仕方が無かった。


「分かりました。ですが。決して無駄にはしないで下さい」


揖宿が適当に返事をすると。


「ほ、本当なのか!?」


信じられない。というように立ち上がって声を荒げる煤野木。

その眼には。一つの希望。

だが。


(・・・・・それは。希望ではない。絶望なのだと。理解出来ていない)


揖宿には見えていた。


「私は二度。同じ事は言わない」


話を切り上げて、パイプ椅子から立ち上がる揖宿。

またその時に。メキィイイ。と軋む音。


「・・・・そうか。悪い」


煤野木は力が抜けたように、ベッドへ座り込む。

揖宿はそのままパイプ椅子を折りたたみ、元あった場所へと戻した。

そして、部屋の出口へと歩き。ドアノブに手をかける。


「・・・・・・・・」


ぼそぼそ。と。壁に向かって揖宿は喋った。

だが。それはあまりにも小さすぎる声だった為。煤野木へと届かない。

ドアノブを捻り、揖宿は煤野木の部屋を後にした。

そしてまた同じような廊下。


(・・・・まるで迷宮のように彼らを迷わせる)


ゆっくりと歩き出す揖宿。

その足取りは軽くなく。いや、逆に重すぎる。

彼女も又。全てを抱えていた。

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