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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ゼロ-
3/66

code:2「道筋」

午前だけの補習は、それほど長くはなかった。

そのお陰からか煤野木は学校近くの自販機でジュースを買い、飲むことが出来る。



「美味い」



煤野木の純粋な気持ちだった。

無駄に暑苦しかった補習は終了し、ようやく自由の身を手に入れた。

そこから冷えたジュース。

誰であろうと、美味い。と言えただろう。

同様に。後ろで同じ賛美(さんび)




「美味しい!」




空中にふらりと浮いている缶から、何故か声がする。

何故、空中に浮いているのだろうか?と普通の人は考える。

超常現象?異能力乱闘?そういう考えに至る人物もいるだろう。


しかし結論としてはどれにも当てはまらない。

煤野木以外の視点では見えない。だけである。


煤野木本人の眼には、小さな少女がいた。

その姿は、まるで妖精とも(とら)えられるだろう。

しかし身体は至ってところどころに小型の機械を取り付けており、それが違うことが分かる。

衣服は現代の服とは大いに違い、SF物を想像させそうな物だった。

髪は綺麗な水の色をしており、さらりと空中で風に流されている。

機械は、柔らかそうな肌に癒着(ゆちゃく)するように着いていた。


「・・・・そんなに飲んで大丈夫なのか?」


煤野木が苦笑いしていると、少女は少し頬を(ふく)らませて怒る。


「馬鹿にしないで下さい。私はこれでも近未来型生体ロボなのですよ!?」


ふわふわと浮いている上に、小柄の身体なのだから。

まず信じられる訳がない。

こんな小さな物が未来のロボットなどと。


「はは。まぁそう言うなβ。長い付き合いだろ」


煤野木が笑うと、余計にβの頬が膨れていく。

煤野木とβは実際に長い付き合いだった。


βと煤野木が出会ったのは5年前の本格的な夏場。

当時の煤野木はβと出会った時はかなり疑ったりしていたりしたが。

今では特に気兼ねなく話す事が出来ている。



(そういや、βが他の人に見えなかったのも。当時驚いたもんな)



ふとジュースを飲みながら過去を思い出す煤野木。

そうなのだ。

βは他の人物には一切見えない。

理由は分からない上に。β本人から聞き出そうにも、本人もあまり乗り気ではない。

なので煤野木は深く追求していないのだが。



(まぁ、βがどんな奴かは別に気にする事じゃないからな)



適当にジュースを飲むのを止め、煤野木はβに話しかける。


「家に帰りながら飲むか」


意識が他に行っていたのだろうか、βはビクッと体を震わせた後に。


「あ、はい」


少し抜けた返事をして、自販機の前を離れる煤野木の後を追う。

異常に熱くなっているアスファルトを蹴り歩きながら。煤野木は気づいた。



(・・・・β。あれ、凄く遅いな・・・)



「んしょ・・・んしょ・・・・」



どこか昔の漫画辺りにでも出て来そうな顔をしながら。

必死に缶を持ち歩こうとしていた。

元々暑い天候の上に、身体の数倍はある物を持っているのだから。

当然といえば当然なのである。

それを見た煤野木は溜息を尽いた後に、βから缶を取り上げる。


「あっ」


何か大事なものを取られたかのような、子供の顔をするβ。


「あっ。じゃない。・・・・最初から持たずに"手伝ってください"と言えばいい」


一瞬煤野木はこつん。と叩こうかなと思ったがやめた。



(・・・・こつん。は確実にボディーブロー以上の威力になるだろうからな)



軽く。でも小柄なβでは簡単にノックアウトしてしまうだろう。

蒸し暑い路地を、ぐびぐびと喉仏(のどぼとけ)を鳴らしながらジュースを一気飲みする煤野木。


「ふぅ、美味い」


煤野木が飲み終える頃には思わず息が出る程だった。


「煤野木はよくもそんなに飲めますよね・・・。あ、ちょっと貰えます?」


ジュースを持つという重荷から外れたからか、意気揚々と飛ぶβ。

それを見ながら煤野木は。


(・・・・・何度見ても思うが、羽や機械なしで人が飛んでる姿って。

シュールすぎて何も言えないな)


若干じろじろとβを見た後に、持っているもう片方のジュースを渡す。


「ほら」


受け取ったβは嬉しそうにしながら煤野木からジュースを受け取った。

ちょびちょび口を付けながら飲むβに、煤野木は先ほどの疑問に答える。


「体格差があるだろう」


煤野木の話を聞きながら、βは煤野木へと缶を返した。


「ありがとう」


βは聞こえるか聞こえない程度に言い、少し両手を組みながら煤野木に顔を合わせない。


「・・・・何故照れる?そして別に気にしてない」


煤野木は思い切り溜息を尽いて、またジュースを飲む。

そして空を見上げてみれば、澄んだ青空。

ふと、煤野木は前々から思っていた事を口に出す。




「なぁ、生きている事に何の意味があるんだろうな?」

「え?」




βはふわりと空中で静止しながら煤野木を見る。


「いや、βがロボットっていうならこういう答えが分かるか・・・なんてふと思っただけだ。

気にしなくて良い。いつものように流してくれ」


無理に笑って煤野木はごまかそうとしたが、βは返事をしない。

その顔はうつ伏せており、どことなく暗い。



「β・・・・?」



いつもの軽口がない分、何となく煤野木は嫌な予感がした。



(やばいな・・・・もしかして何か地雷でも踏んだか?)



煤野木は少し模索してみるが、元々βの事をよく分かっていない為。

考えても無駄なのだが。

だが、そんな嫌な予感とは裏腹に。βは笑顔で顔を上げた。




「・・・・煤野木。未来に答えはあるよ」

「未来?」




聞きなれない単語に煤野木は少し戸惑う。


(未来・・・?あぁ、そういえばβは未来からやって来たんだったな)


丁度煤野木の猜疑心(さいぎしん)が無くなり始め、βとの関係が柔らかくなってきた頃。

煤野木はβ自身から素性(すじょう)を聞いた事がある。

その時一緒に聞いたはずだ。


「私は一応一人ぐらいなら未来に連れて行ける機能があるんです」


嬉しそうに話すβに、煤野木は朗らかに笑いながら。


「そんな便利な機能があったのか」


興味半分で返事をした。

すると、βは続けざまに喋る。


「今すぐ行けるけど、行って見る?」

「今すぐ・・・か」


持っているジュースをまた飲もうとすると、もう既に空になっている。

そして煤野木は軽く笑った後に。




「行ってみるか」

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