end.code:「マーセナリー」
「・・・・・」
煤野木は無言でモニターを見ている。
モニターには、黒色の煙が、紅色の炎が。巻き散っていた。
そしてそれを正面から受けた敵の姿も、また同じような運命を遂げている。
「・・・・・・あぁ。隊長さん。受け取った」
煤野木は付けているヘッドセットを取り外し、椅子から立ち上がった。
「・・・絶対に。忘れない」
最後を。歯茎から血が出るほど噛み締めて。
隊長の決意や遺産を。決して忘れないように。無駄にしないように。
『・・・・・カミカゼ。っぽいですね』
先程言った隊長の台詞が。どれほど皮肉と、どれほどの無力さを秘めているのか。
煤野木は嫌でも分かった。
「隊長さんも。ついに終わったのね」
揖宿が、いつものように。いつの間にか部屋にいる。
その瞳には、哀愁が漂い。しかしどこか嬉しそうな感じがした。
(・・・・・彼女は。誰の味方なのだろうか)
少し思ったが、煤野木はやがて考えるのをやめる。
そしてその場を後にする直後。
聞いた。
すれ違うように。言葉が確かに耳へと入ってきた。
「・・・・貴方は。隊長の願いしか聞き入れないのね」
「ッ!」
思わず。煤野木は揖宿の胸倉へと掴みかかっている。
表情には前と違い、はっきりとした決意を持って。
少し服を持ち上げられながら、揖宿は表情を一切変えない。
だが。
目の奥では。
彼女は何か別なものを見ていて、煤野木を見下している。
何故。気づかない。と。
いつまでも胸倉を持ち上げたままで、歯軋りする煤野木に対して。
揖宿はいたって冷静に右手を払った。
「・・・・・殴りたければ殴ればいい。それで気が済むならやればいい。
私は受け入れる。それが理不尽であっても。
そして、貴方は足りない。気づかない。最後までそうしているつもりなのかしら?」
揖宿の提案に。煤野木は何も言えなかった。
(・・・・ここで殴れば俺は所詮その程度で。反論する程の正義や理由なんて俺にはない)
特に言わない煤野木を、揖宿は一瞥した後に。
「・・・・・・・・次は。私が戦う番」
ぼそりと言ってそこを立ち去ってしまった。
立ち尽くす煤野木に対して、ひょっこりとβが顔を出す。
煤野木を見ながら、βは軽く悲しそうにした。
声を掛けようにも掛け辛い雰囲気となってしまっている。
すると。
「・・・・・なぁ、β」
黙っていた煤野木が急に喋り、少しβが驚いたが。
煤野木は続けて喋っていく。
まるで。一度口を閉じてしまったら。もう言い出せないような。
そんな焦燥を感じた。
「・・・・俺はカミカゼに乗る」
その単語。ある一語。
意味するのは。煤野木がいた過去へ戻らない事と。
自分自身の存在を消し、この世界を守る事だ。
(・・・・・佐伯。隊長さん・・・。消えてしまった。人。
その事を思えば・・・・。せめて。この世界を俺が守らなければ・・・)
しかし。実行出来なかった。だろう。
もしも。ここで煤野木の決意をβが否定。していれば。
煤野木自身も。そこまで強要的にやれる程。
精神的に強くは無かった。
だが。煤野木の決意を聞いたβは。
さっきより少し。ほんの少しだけ悲しそうな顔をして。
「・・・・・・うん。煤野木。頑張って」
煤野木の決意を受け入れてしまった。
そして。顔には無理に。笑顔を作っている。
引きつった口元を見れば。辛そうな表情を見れば。
誰にでも分かる。誰だって分かる。
(・・・・・悪い)
それでも尚。決めてしまったので。
煤野木は、心の中でそう謝っておいて。
「ありがとうな」
口に出して。お礼を言った。
そうして。自分を殺す運命を。受け入れてしまう。