表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ロク-
29/66

end.code:「マーセナリー」

「・・・・・」


煤野木は無言でモニターを見ている。

モニターには、黒色の煙が、紅色の炎が。巻き散っていた。

そしてそれを正面から受けた敵の姿も、また同じような運命を遂げている。


「・・・・・・あぁ。隊長さん。受け取った」


煤野木は付けているヘッドセットを取り外し、椅子から立ち上がった。


「・・・絶対に。忘れない」


最後を。歯茎(はぐき)から血が出るほど噛み締めて。

隊長の決意や遺産を。決して忘れないように。無駄にしないように。


『・・・・・カミカゼ。っぽいですね』


先程言った隊長の台詞が。どれほど皮肉と、どれほどの無力さを秘めているのか。

煤野木は嫌でも分かった。


「隊長さんも。ついに終わったのね」


揖宿が、いつものように。いつの間にか部屋にいる。

その瞳には、哀愁(あいしゅう)が漂い。しかしどこか嬉しそうな感じがした。


(・・・・・彼女は。誰の味方なのだろうか)


少し思ったが、煤野木はやがて考えるのをやめる。

そしてその場を後にする直後。

聞いた。

すれ違うように。言葉が確かに耳へと入ってきた。


「・・・・貴方は。隊長の願いしか聞き入れないのね」

「ッ!」


思わず。煤野木は揖宿の胸倉へと掴みかかっている。

表情には前と違い、はっきりとした決意を持って。

少し服を持ち上げられながら、揖宿は表情を一切変えない。

だが。

目の奥では。

彼女は何か別なものを見ていて、煤野木を見下している。

何故。気づかない。と。

いつまでも胸倉を持ち上げたままで、歯軋りする煤野木に対して。

揖宿はいたって冷静に右手を払った。


「・・・・・殴りたければ殴ればいい。それで気が済むならやればいい。

私は受け入れる。それが理不尽であっても。

そして、貴方は足りない。気づかない。最後までそうしているつもりなのかしら?」


揖宿の提案に。煤野木は何も言えなかった。


(・・・・ここで殴れば俺は所詮その程度で。反論する程の正義や理由なんて俺にはない)


特に言わない煤野木を、揖宿は一瞥した後に。


「・・・・・・・・次は。私が戦う番」


ぼそりと言ってそこを立ち去ってしまった。

立ち尽くす煤野木に対して、ひょっこりとβが顔を出す。

煤野木を見ながら、βは軽く悲しそうにした。

声を掛けようにも掛け辛い雰囲気となってしまっている。

すると。


「・・・・・なぁ、β」


黙っていた煤野木が急に喋り、少しβが驚いたが。

煤野木は続けて喋っていく。

まるで。一度口を閉じてしまったら。もう言い出せないような。

そんな焦燥を感じた。


「・・・・俺はカミカゼに乗る」


その単語。ある一語。

意味するのは。煤野木がいた過去へ戻らない事と。

自分自身の存在を消し、この世界を守る事だ。


(・・・・・佐伯。隊長さん・・・。消えてしまった。人。

その事を思えば・・・・。せめて。この世界を俺が守らなければ・・・)


しかし。実行出来なかった。だろう。

もしも。ここで煤野木の決意をβが否定。していれば。

煤野木自身も。そこまで強要的にやれる程。

精神的に強くは無かった。

だが。煤野木の決意を聞いたβは。

さっきより少し。ほんの少しだけ悲しそうな顔をして。


「・・・・・・うん。煤野木。頑張って」


煤野木の決意を受け入れてしまった。

そして。顔には無理に。笑顔を作っている。

引きつった口元を見れば。辛そうな表情を見れば。

誰にでも分かる。誰だって分かる。


(・・・・・悪い)


それでも尚。決めてしまったので。

煤野木は、心の中でそう謝っておいて。


「ありがとうな」


口に出して。お礼を言った。




そうして。自分を殺す運命を。受け入れてしまう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ