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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ロク-
27/66

code:9「悲壮」

(むせ)るような血の匂い。

部屋にこびり付いた血肉と、鮮血。床には大量の死体があった。

各々がどこかしら致命傷の傷を負っており。

避けられようの無い死を迎えたことを証明している。

しかし、奇妙な事に争ったような形跡は一つもない。

もそもそと(うごめ)く一つの人影。

それは隊長だった。

奇妙な空間にしゃがんでいた隊長が立ち上がる。

隊長はぶつぶつと死体達に呟いた。


「・・・・私は隊長だから・・・・」


動かない物に対して、感情を向けているのか。

それとも、自分自身に言い聞かせているのか。


「ごめんなさい・・・」


(・・・・ごめんなさい。ごめんなさい・・・。仕方がない訳がないんです・・・)


一言。だが、心の中で何度も謝罪して、自身の持つ拳銃の銃口を。

自分自身の肩に密着した状態で当てた後に。


(これから、私は罪を受け入れます・・・)


その引き金を躊躇(ためら)いも無く引いた。

反動で右腕が吹き飛びそうになるが、影は抑える。

背中側では、赤い色の血色の良い血が後ろに飛び散った。


「静香。じゃないんです・・・・隊長なんです・・・」


隊長は誰にも聞こえないぐらいの声で。

作業をするように持つ銃を死体の一つに持たせる。

彼は。隊長とは直接的な知り合いではない。

だが、彼自身も、非常な運命をわたってきた一人だった。

彼だけではない。ここにいるカミカゼを使うはずだった人間は。

全て。例外なく。


(・・・・私は償えないです。だから、貴方達は私を絶対に許さないで下さい。

私の事を。絶対に許さないで。私は。最低だから・・・・)


頬を伝っていく冷たい水が。ぽとりぽとりと、死体にかかった。

けれどいつまでもここにいては怪しまれる。

そして、隊長は死体塗れの部屋を後にした。

タンタンタン。と一定のリズムを刻みながら廊下を歩く。

怪我した方の肩を壁に擦り付けつつだ。


(・・・・・・うぅうぅううぅうう)


当然傷口が開くので、血がべったりと筆で塗りつけるように残る。


(ごめんなさい。ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・)


朦朧(もうろう)とした意識の中、それでも尚少しでも歩ければ歩いた。


(私は隊長・・・。隊長だから。私はこの任務を成し遂げる)


その行為に意味はなさそうなのだが。

血を、怪我をしているという事が重要なのだから。


(これだけ。血がついていたら、もう大丈夫ですよね・・・・)


「・・・・もう無理」


ペタン。と倒れた隊長は。そのまま体重を壁に掛ける。

壁はひんやりとしており、隊長の心を映しているかのようだ。


「・・・・・まだ、まだ終わってない」


機械的に告げる隊長は、端から見れば不気味だ。


(・・・・そう。まだ終わってない。けれど。私の役目はここまで)


隊長は自身の懐にある拳銃を右手で取り出した後に、それを持ったまま。


「・・・・もう、後は勝手に」


ぽつりぽつりと人形が喋るように口ずさむ隊長。


(・・・誰も。悪くない。誰も。・・・そして)


「・・・・成功する」


そう呟いた後、隊長の口元が大きく釣り上がった。


(大佐。これで私は隊長になります。

・・・・そして、彼らを殺した私は。罪人。大佐である貴方は関係ない。

泣いて詫びても許されません。許されてはいけない。

絶対に。私は許されてはいけない存在。彼らが覚えている限り・・・)


「ふふふふ。あはははははは!」


闇の中、奇声を上げるかのように笑う隊長は。

どこか言い知れない悲しさと。喜びを併せ持っていた。


「これで、カミカゼ。は成功する。

この出来事が、私を私でいらせてくれる・・・・」


(隊長・・・。隊長で。隊長になってしまう。隊長だから。

・・・・・皆、ごめんなさ)


カクン。と力の抜けた左腕。

それとは対照的に掲げ上げられた右腕。

血なまぐささと、鉄の入り混じった通路には。

横たわっている隊長だけが取り残された。


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