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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ロク-
26/66

code:8「隙間」

ウィイイイィンゴトンッ。軽快な洗濯機の音が室内で響く。

真四角であるその室内は壁紙が白。地面は木造となにやら変わっている。

白色の壁に沿うようにして数個の洗濯機が置かれており。

ドライクリーニングをやる為のコインロッカーなども一部あった。

因みに横には網膜状に張り巡らされた茶色のざるが、重ねて置いてある。

隊長は当番だったので、いつものように洗濯室にいたのだが。


「・・・・・・・?」


隊長は壁に貼り付けてあるホワイトボードを見つめて。

ふと疑問を感じていた。


「・・・・・・・空きがあいている?」


隊長の視線の先には、七つに区切られた枠。

一列目と二列目とに分断されており、一列目には名前が入っている。

二列目にはどのような作業をするか。などと大まかに書かれているのだが。

一列目に三箇所ほど、真っ白な空欄があるのだ。

通常誰かがその中に配置されており、絶対に空きが出来るわけが無い。

そういう風にスケジュールするはずであり。

覚えているはずなのである。


「・・・・・何故。なのでしょうか?」


腕を組み、隊長は頭の中に残る記憶を辿って見ると。


気づく。


だが、それが答えなのだろうが。答えではない。


(・・・・・頭に霧がかかっているかのように、誰だか分からない・・・?)


そう。隊長はある程度までは理解できる。

「誰か」がこの枠組みの中に当てはまっていて。

その「誰か」が靄の様に。「誰」という答えを出させない。


結論で言うなれば。


「いない人がいる・・・・・?」


若干隊長の言葉に語弊(ごへい)はあるのだが。特に気にしない。

隊長はその場で、首を傾げながら腕を組んで考える。


(存在しない。・・・・存在していた。・・・・消えた?消える。消えるのなら)


隊長の中で結論とも呼べないような結論が出た。


「・・・・カミカゼの操縦者」


ぽつりと漏らしてしまった言葉に。隊長は僅かに自嘲(じちょう)して。


「・・・・結局。誰か分からないのですね」


口元を歪ませると。


――隊長の瞳から何故か涙が数滴零れ落ちた。

ぽと。ぽと。と隊長自身の胸元へ染みを作っていく。


(・・・・悲しい。ですね)



悲しい。隊長の心はそれが占めているというのに。



隊長には。

その悲しさの意味が分からない。

その悲しさがどういう物か分からない。

運命やカミカゼが嘲笑うかのように。

涙が。記憶と共に抜けて落ちていく。



「数日前も・・・・確か。貴方は泣いていましたね」


隊長は、自分の体に投げかけるように呟いた。


数日前。

隊長は個室の中一人っきりになりながら。泣いていた。

枕を濡らし、嗚咽は止まらず。体は小刻みに震えさせ。


(私は・・・・「誰か」の為に。泣いていた・・・。んですよね)


隊長はその場で立ち尽くしながら。第三者のように解析していく。

しかしそれは最も新しい記憶であり、その体験は一度だけではない。

何十とまではいかないが。

何回も何回も。理由もなく泣いていたのを隊長は覚えている。


そしてそれらは共通して。

「誰」の為なのか。「何」の為なのかすら。

隊長は覚えていないというより。記憶にない。


それは正しく。変えられない物で。

同時にとても悲しいものなのだと隊長は思う。


「だからこそ。私は犠牲なんてしない」


確認をするかのように。残酷な連鎖を終わらせるかのように。

その場で拳を握り締める。


本当ならこの決意には。

「あの子達の為に」というのが前置きに来るのに。

隊長は覚えていない。





世界がそうさせた。運命がそうさせた。

全ては救えない未来を救う為に。

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