code:8「隙間」
ウィイイイィンゴトンッ。軽快な洗濯機の音が室内で響く。
真四角であるその室内は壁紙が白。地面は木造となにやら変わっている。
白色の壁に沿うようにして数個の洗濯機が置かれており。
ドライクリーニングをやる為のコインロッカーなども一部あった。
因みに横には網膜状に張り巡らされた茶色のざるが、重ねて置いてある。
隊長は当番だったので、いつものように洗濯室にいたのだが。
「・・・・・・・?」
隊長は壁に貼り付けてあるホワイトボードを見つめて。
ふと疑問を感じていた。
「・・・・・・・空きがあいている?」
隊長の視線の先には、七つに区切られた枠。
一列目と二列目とに分断されており、一列目には名前が入っている。
二列目にはどのような作業をするか。などと大まかに書かれているのだが。
一列目に三箇所ほど、真っ白な空欄があるのだ。
通常誰かがその中に配置されており、絶対に空きが出来るわけが無い。
そういう風にスケジュールするはずであり。
覚えているはずなのである。
「・・・・・何故。なのでしょうか?」
腕を組み、隊長は頭の中に残る記憶を辿って見ると。
気づく。
だが、それが答えなのだろうが。答えではない。
(・・・・・頭に霧がかかっているかのように、誰だか分からない・・・?)
そう。隊長はある程度までは理解できる。
「誰か」がこの枠組みの中に当てはまっていて。
その「誰か」が靄の様に。「誰」という答えを出させない。
結論で言うなれば。
「いない人がいる・・・・・?」
若干隊長の言葉に語弊はあるのだが。特に気にしない。
隊長はその場で、首を傾げながら腕を組んで考える。
(存在しない。・・・・存在していた。・・・・消えた?消える。消えるのなら)
隊長の中で結論とも呼べないような結論が出た。
「・・・・カミカゼの操縦者」
ぽつりと漏らしてしまった言葉に。隊長は僅かに自嘲して。
「・・・・結局。誰か分からないのですね」
口元を歪ませると。
――隊長の瞳から何故か涙が数滴零れ落ちた。
ぽと。ぽと。と隊長自身の胸元へ染みを作っていく。
(・・・・悲しい。ですね)
悲しい。隊長の心はそれが占めているというのに。
隊長には。
その悲しさの意味が分からない。
その悲しさがどういう物か分からない。
運命やカミカゼが嘲笑うかのように。
涙が。記憶と共に抜けて落ちていく。
「数日前も・・・・確か。貴方は泣いていましたね」
隊長は、自分の体に投げかけるように呟いた。
数日前。
隊長は個室の中一人っきりになりながら。泣いていた。
枕を濡らし、嗚咽は止まらず。体は小刻みに震えさせ。
(私は・・・・「誰か」の為に。泣いていた・・・。んですよね)
隊長はその場で立ち尽くしながら。第三者のように解析していく。
しかしそれは最も新しい記憶であり、その体験は一度だけではない。
何十とまではいかないが。
何回も何回も。理由もなく泣いていたのを隊長は覚えている。
そしてそれらは共通して。
「誰」の為なのか。「何」の為なのかすら。
隊長は覚えていないというより。記憶にない。
それは正しく。変えられない物で。
同時にとても悲しいものなのだと隊長は思う。
「だからこそ。私は犠牲なんてしない」
確認をするかのように。残酷な連鎖を終わらせるかのように。
その場で拳を握り締める。
本当ならこの決意には。
「あの子達の為に」というのが前置きに来るのに。
隊長は覚えていない。
世界がそうさせた。運命がそうさせた。
全ては救えない未来を救う為に。