code:6「表裏」
隊長は、背筋を伸ばしながら気持ちよく起きる。
しかし対照的に、隊長の脳内では。
(・・・・全部言ってしまったのですが。大丈夫でしょうか・・・)
そうなのだ。
佐伯や他にもいる少女や青年達は全て国に売られた。
という途方もない事実を突きつけられたので。
(一晩で整理が出来ていればいいのですが・・・)
若干煤野木の心配をしながら。ベッドから立ち上がる。
そして鏡の前へと立ち、隊長はパジャマからいつもの服へと着替えていく。
透き通った肌。女性らしくはないが全体的に引き締まっている。
しかしそれが逆に功を奏しているのか、細身が増して。より魅力的になっていた。
その身体に見合う妙に締まった黒服を着ていく。
汚れは特に無く、逆に光沢が見える程綺麗な軍服だった。
そして軍帽を被り、長い髪を茶色のリボンで束ねる。
「・・・・さて、行きましょうか」
独り言を呟いた隊長は、自身の部屋を後にした。
部屋を出たすぐの廊下はやはりどこか研究基地を想像させる。
かなり淡い青色の壁紙に。近未来的なただ、無意味に続いてく直線。
(・・・・・まぁ、私達の物じゃなかったのですから当然ですが)
隊長は廊下を適当に進んでいった後、ふとどこからか声が聞こえた。
音の大きさからして、かなり近くから。
(・・・・今のは、煤野木さん?)
ゆっくりと音源へと近づいていき、角から覗くようにして見れば。
揖宿と煤野木が向かい合って立っている。
そして。
大体の声が聞こえて来た。あくまで大体。だ。
『貴方は隊長さんを信じるのね』
こちらは揖宿。
なにやら煤野木と軽く言い合っているらしく。表情に少し感情が出ている。
『あぁ。そうだ』
そこで一息置いた後、揖宿は疲れたように溜息を尽いて。
静かに続きを言った。
『・・・・確かに貴方の言った隊長の話は間違ってはいない。
だけど、彼女は貴方に言っていない事がある』
(・・・・あら。もう気づいたんですね)
隊長はくすり。と笑いながら煤野木達を見詰める。
それに対して煤野木は過剰に反応した。
『言っていない事?』
揖宿は綴るように答えていく。
『全てが終わった次の日。カミカゼに乗るはずだった男性達が。
混乱や恐怖によって裏切ったのよ。
当然ここにいた大人達は皆射殺されたわ。管理統制するはずだった人々が』
揖宿の言葉に、煤野木は苦々しく簡潔に述べた。
『・・・・混乱による発狂か』
『そうね。自分の国が滅んだなんて信じられる訳がない。
ましてや、これから自分達は無意味な死を遂げるのだと思うとね。
気が気でなかったんでしょう』
『・・・・・・』
黙る煤野木だが、揖宿は続けていく。
『だけど隊長さんは、その日偶然起きていて。
一人で男性達を殺しつくしたのよ』
『一人で・・・・』
多人数対一でどちらが優勢なのかは誰でもわかる。
しかし、隊長は勝った。
『・・・・・その時の隊長さんは酷かった。酷く焦燥していて。
おまけに肩口から血が大量に流れていたわ』
煤野木は考えるのも辛そうに、答えた。
『・・・・・仲間。を殺したんだからな』
そしてまた長い沈黙。煤野木が一方的に黙っているだけなのだが。
揖宿も落ち着きを取り戻したらしく。あまり表情に変化はない。
次の揖宿の言葉。
『・・・・この出来事だけど、恐らく隊長は嘘を付いている』