code:5「軍人」
「・・・・・おとーさん?」
まだ小さな。それも幼稚園生ぐらいの女の子が。
若い大人の男性に対して疑問を向けていた。
「・・・・静香」
重々しい声を口から出す男。
男の服装はどこかの軍隊の幹部を思わせるような黒色の服。
胸には金色からさまざまな勲章が垂れ下がっており。
白帽にも同じような物が付いている。
実を言うなら、この二人は親子で。しかも男は一つの戦争を終えたばかりなので。
会うのは1年程ぶりだったのだが。
男が次に移した行動は。
自身の娘を殴る事だった。
抱きしめる事も無く、喜びを分かち合う訳でもなく。
顔を一発殴った。
「うっ」という声と共に後ろに地面に伏せる少女。
そして顔を上げたその表情は。何故。という疑問が浮かび上がっている。
次に男は、娘に対して非常な怒りを向けながら。
「私の事は大佐と呼びなさいと言ったはずだ」
冷たい言葉を送った。
少女は、耐え切れずその場で泣いてしまいそうになったが。
「泣くな。とも言ったはずだが」
男の強烈な一言に。少女はびくりと驚いた後に。
必死で涙が出るのを堪える。
「・・・・・お前は俺の跡を継ぐ子だ」
それだけ男は言った後に、その場所を後にしてしまった。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
視界が少し歪みながらも、少女は間違った事を言ってしまったのを非常に後悔する。
(・・・・私が、我慢出来ていれば。私が。軍人さんらしくなかったから。
おとーさんは私に振り向いてくれないんだ・・・)
ぐじゅぐじゅになっている鼻水を啜り、少女はゆっくりと立ち上がる。
それが隊長の記憶にある鮮明な最古の記憶だ。
毎日が毎日が。勉強と教育と練習。
生まれた時から毎日がそれで。隊長は大佐と会う事はなかった。
大佐は厳格で、一度も優しくしてくれた事なんてない。
大佐は現在での軍人としてトップの存在だ。頭も良く。
何でも出来たから当然といえば当然なのだが。
昔はただの一平卒だったそうだが、今では才能を開花させている。
そして隊長は。大佐の跡継ぎとして教育されてきた。
社交界からマナー。そして勉学から運動。銃撃戦から接近戦まで。
ありとあらゆる事を叩き込まれた。
毎日がそれで。特に対して変わる事が無く続いていたが。
ある日。高校生の半ばを迎えた頃。大佐が珍しくやって来た。
「お前に任務だ」
短く端的に告げた大佐に、隊長は特に疑問を抱かず了承する。
そして、カミカゼのありとあらゆる事。基地の事。を告げられた。
当初は驚いたが、隊長はその奇妙な任務を受け入れる。
だが、隊長は幾分か引っかかった部分が合ったので。
詳しくそこだけ資料を見せてもらう。
白銀の少女がカミカゼ。と基地の提供。
提供した白銀の少女は口調に難があるらしい。というどうでもいい情報まで。
そして、その基地に住む事となった少女や青年達の状況。
資料に目を通しながら、隊長は呟いた。
「・・・・彼らは。売られたのですね」
そこで少し大佐の表情に変化があったが。すぐさま元に戻る。
「そして、彼らは地球の為に死ね。と。
私はこの人達をまとめる監視役と指令役。とでも言った所ですね」
次々に要点を告げていく隊長に。大佐は唐突に。
「そこまでだ」
遮った。
そして大佐は資料を隊長から取り、またその場所を後にする。
大佐の後姿をみながら、隊長はふと笑い。
「いいです。受け入れますから。つまり部隊長。という役職辺りかな・・・」
手入れしてある制服に手を掛け、隊長もその場所を出て行った。
そしてもう一つ印象に残っている。私達以外が滅びる日。
モニター越しで、隊長は大佐が軍を率いて。黒色の敵に立ち向かっている。
(カミカゼ無しでも倒せると判断したのですか・・・)
隊長は流れていく映像を見つめていた。
黒色の敵に対して、様々な射撃やミサイル。
一個対の敵にしては、過剰な暴力ともいえたが。
その敵は一個体程度で収まる力ではなかった。
玩具を壊すように、周りにいる戦闘機や空母が破壊されていく。
そして、紋章みたいな光る物が正面に出て数秒後。
レーザーのような黄色の光線が画面を覆いつくし、大佐を含めた。
地球最後の軍隊全てを壊した。
次に始まったのは細かい触手による人畜殺害だ。
逃げ惑う人を的確に刺し殺し、隠れている人や狭い路地にいる人も容赦なく殺す。
街中が触手に埋め尽くされているような光景。
そして、ある程度終わった後に。
黒色の敵は倒されていた。
そのような感じの記憶。それが繰り返されて。
今現在に至っていた。