code:2「隊長」
あの後、朝食に煤野木は来たものの。
特に何も言わないまま、無言で食事が始まった。
食事自体は基地の設備で調達から調理までやってくれるので。
取ってくるだけで実質何かをする訳ではない。
そしてその場所を後にするように、隊長は銃を持って射撃演習場に行っていた。
「・・・・・・」
無言のまま、銃を前に構える。
いつもは着けるヘッドホンも、今日は着けなかった。
「・・・・・・・・」
その部屋だけは機械音以外は、特に音はしない。
(・・・・・私は、いつも落ち着いたりしたい時は練習してた・・・)
ウィイイイン。と独特の機械音が鳴り響き、人型の模型が出てくる。
冷徹に。狙いを外すことなく。発砲した。
(・・・・・私は、煤野木さんが困っていても。何も出来る事は無い)
10点。10点。10点。10点。
隊長は的確に胴の中心部分を狙い続ける。
この光景は、隊長には見覚えがあった。
大量に倒れる人々。否。大量に倒した人達。
その上に立ち尽くす自分。
「・・・・・・静香さん。
いいえ。隊長さんと、呼べばいいのかしら?」
隊長の背後から声が聞こえた。
いつの間にか。後ろの壁に背もたれする青年が一人。
揖宿と呼ばれる青年だ。
何故か赤と白の巫女服を着ているツインテールの女。
隊長は後ろに目を配らすこと無く、銃を撃ち続けながら。
「その名前を呼ばれたのは久しぶりです。それと。
・・・・人を詮索するのはやめて欲しいです」
軽く威嚇するようなその口調だが。揖宿は表情を変えない。
揖宿は、黒く透き通った髪を指で梳いた後に。
「それについては謝るわ」
非礼を詫びる様に、直接的に謝った。
しかし、隊長も揖宿と同じように特に表情は変えない。
だが。次の揖宿の言葉。
「・・・・それと、隊長さん。貴方はいつまで隊長でいるつもり?」
一瞬だけ、隊長の顔に変化があった。
しかしあくまで一瞬だけで、今度は隊長の口元に笑みが広がる。
「いつまで。の質問はおかしいですよ?」
そう隊長は言いながら、銃のリロードを行い。
タンタンタン。と作業の如く隊長は事務的に標的を撃っていく。
10点。10点。10点。10点。一切のミスをしない。
その腕は、軍人として素晴らしい物だった。
「・・・・・貴方は。隊長として生きるのね」
悲しそうな目をしながら、揖宿は隊長を見詰める。
瞳には、まだ間に合う。とでも言いたげな。
だが。隊長が出した答えは。
「はい」
否定はしなかった。
その答えに、揖宿は「そう」とだけ答えた後に。
静かに部屋を出て行った。
揖宿が部屋を出て行った後も、一人射撃練習を続ける。
(・・・・私は。隊長。もう決めた事ですから)
マガジンを取り替えつつ、ふと銃を見詰めた。
(・・・・私は銃を手にしているから。軍人として生きる)
隊長は決意を改めて確認し、再び銃を構えて引き金を引く瞬間に。
「ありがとう」
その一言だけ言った後。
珍しく銃弾を標的から外してしまった。