code:1「補習」
「・・・・・まただ」
青年は嫌々しながら黒板を見つめる。
今日は八月一日。
夏休みの真っ只中であるはずが、教室に青年はいた。
ぽたぽたと自然に青年の顔を汗が流れ落ち、その教室は蒸し暑い。
青年は椅子に座りながら、机の上にバラバラに置かれているプリントを一瞥する。
原因は補習。
青年は人並み以上に頭は良い。だが補習を受けている。
青年曰く「意味が分からない」。
決して努力して補習している訳ではない。
わざと、努力していないのだ。
努力をすれば確実に天才のレベルなのだが、彼は努力しない。
「おい、煤野木。聞いているのか?」
かつかつ。と白いチョークが黒色の黒板をリズムよく叩く。
チョークを持っているのは少し肥満気味の一人の教師。
青年に対して冷ややかな目線を送っていた。
「聞いていますよ」
煤野木と呼ばれた青年は窓から外を眺めつつ、心ここに在らず。と言った返事を出す。
そんな煤野木の様子を見て教師は顔を歪めた後に。
「ちっ・・・」
明らかに教師の舌打ちが聞こえたが、煤野木は意に返さない。
相手をするのも面倒だし、した後も面倒だからだ。
ぼんやりとしながら、煤野木は考える。
(生きている意味って何だろうな・・・・)
煤野木は思わず考えてしまう。
煤野木がどれだけ頭が良かろうと、運動が出来ようと。
それが生きている事に意味があるのだろうか。
煤野木には、よく分からない。
(きっと、「意味がない」と答える奴もいるんだろうな)
しかしそれはそれで「矛盾」していると、煤野木は思う。
(意味がないのなら、何で生きているんだ?って聞かれて。
ちゃんとした答えを返せる奴がいるんだろうか・・・)
そこで、煤野木はすぐさま否定する。
(そもそも、そんな奴に聞いても真っ当な答えが聞ける訳が無いか・・・)
煤野木には分からない。
答えすらないのかもしれない。答えがあるかもしれない。
無限ループに近かった。
そんな風に、煤野木が感情に耽っていると。
途中でふと気づく。
いつの間にか、煤野木自身の唇や瞳がカサカサになっていた。
(・・・・この暑さだしな・・・)
そんなどうでもいい事ばかりを考え。
結局煤野木は最後まで話を真面目に聞く事はなかった。