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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ロク-
19/66

code:1「記憶」

煤野木(すすのき)さんー。起きていますかー?」


こんこん。と煤野木の寝ている部屋の扉をノックする隊長。

しかし特に返事が無いので。


「・・・・ふふふふふ。入ってしまってしまいますよー?」


にやりと隊長に似つかない笑みを浮かべながら、再度問いかけるが。

相変わらず返事が無い。

なので隊長は部屋に入ることにした。


「・・・・お邪魔しちゃいます」


ドアノブを掴みながら、差し足踏み足で入る隊長。

若干罪悪感がないかと聞かれれば、隊長は。


(・・・・殿方(とのがた)の寝顔を・・・寝顔を・・・うふふふ)


色々と何かやばい想像を繰り広げている。

ところが、隊長の予想に反して煤野木は起きていた。


「あら、起きていたのでしたら返事して下さってもいいのに」


煤野木はベッドの上で、上半身だけを出している状態。


「あぁ、すまない・・・・」


溜息を尽きながら煤野木は返事をした。

(かす)れた声からは、とてつもない疲労感が感じ取れる。

そして、彼の眼の下には(くま)が出来ていた。


(・・・・何かあったのかもしれません)


隊長は何故かそんな事を考えて。笑顔でベッドの端に腰掛ける。


「大丈夫ですか?」


煤野木の顔を見ながら隊長はそのまま聞く。

それに対して煤野木は、対して感情の起伏(きふく)を見せないまま。


「・・・佐伯は。本当に。幸せだったんだと思う」


ぼそぼそと口を動かし始めた。

しかし隊長は煤野木の言う内容が、よく掴めない。


(・・・・佐伯?)


そんな隊長を余所に煤野木はぽつりぽつりと話を進めた。


「・・・・カミカゼを使うことはどういう事か。彼女も分かっていた上で。

それでも彼女はこの星を守るために使った・・・」


小刻みに震える煤野木に対して、隊長は垂直に答える。

もっともありえない言葉を。口から出した。


「佐伯って。誰ですか?」


隊長の本当の本気の本音が出た途端。煤野木は唖然としながら。


「・・・は?」


同じように疑問の声を出した。

しかし隊長は笑顔のまま答えていく。


「いえ、佐伯って。もしかして煤野木さんの知り合いですか?」


にこにこしながら喋る隊長に対して、煤野木は一層拳に力を入れながら。


「・・・・何言ってるんだ。この前の戦いで・・・」


思い出したくないように、途中途中を途切れさせながら答える煤野木。

対照的に、隊長はある単語に引っかかっていた。


(・・・・この前の。戦い?)


隊長は笑顔を少し崩した後に。


「・・・もしかして、カミカゼを使った一人ですか?」


煤野木の瞳の奥底まで覗くような、強い視線を送る。

少し煤野木が驚いた後に、答えてくれた。


「・・・・あぁ。人生をエネルギーにするあの機械だよ」


隊長の脳裏には、透明のケースのような機械。


(・・・・カミカゼ)


そして、隊長は気づく。


(・・・・彼はまだ本質的な意味に気づいていない。

ここで、答えていいのでしょうか?)


隊長は煤野木に教えるべきか悩んだが、答えてあげる事にした。


「・・・・煤野木さんは」


わざわざ区切りながら。一つ一つ答えていく。


「煤野木さんは、気づいてないのですか・・・。

人生というのは未来だけではないという事を・・・」


(・・・・そう。未来。だけではない。

あれを使う代償は。未来だけじゃない・・・)


少しの間。緊迫した空気になった後に。

その、本当の意味に気づいた煤野木は。


「過去・・・も。代価か・・・・!」


更に憤りで震える煤野木に、隊長はまだ言葉を繋げる。


「・・・・あれを使った人は。ありとあらゆる世界の記憶から消えます。

未来から現代から過去まで全ての世界の」


隊長の言葉に。煤野木は顔を伏せながら。

隊長が続ける言葉を聞いていた。


「その人の存在を示すような物から何から何まで消えます。

・・・・ただ、世界を完全に入れ替えるわけではないから。

今までの歴史が変わったりするわけではないですが。

誰にも、都合の良い様に修正されます・・・・」


隊長は少し長い文を言い終えた後に、溜息を尽いた。

そしてカミカゼの由来を思い出す。


(・・・・カミカゼは。戻れない。記憶に残されない。

意味のない戦い。・・・・当時の神風から取ったのも。そこから・・・)


隊長が休んでいると、煤野木が。


「・・・・佐伯が。消えた時に。何一つ残らなかったのも」


最後の言葉を確かめるように聞いて来たので。

隊長は、敢えて直接的に言った。


「・・・・はい。使用者がこの世界にいたという証拠の物や。

どんな理由で守りたかった。だとかという事を含めた何から何まで。

・・・・一切。残りません」


やけに。最後の言葉だけが重かった。

そして隊長はベッドから立ち上がり。


「・・・・すいません。私は余計なことをしましたね・・・」


隊長は自身の軍帽を更に深く被り、苦笑いをした。

それに対して煤野木は。


「いや・・・助かった」


脱力した状態で、無理に笑っていた。


「・・・・朝食までは。時間があるので。・・・・・・・」


その後の言葉までは、隊長は言わない。

ここは。言うべきなのだが、隊長は言わなかった。

煤野木に背を向けた後、隊長は部屋を後にする。

部屋には一人。また煤野木だけが残った。

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