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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ナナ-
17/66

end.code:「バトンタッチ」

モニター越しで見ていた煤野木は、硬直していた。


「・・・・嘘だ。嘘だろ・・・・」


信じられない物を見るかのように。

戦いは至極優勢とまではいかないが、ある程度は勝ちを信じてた部分もある。

だが、最後は。

佐伯が貫かれた所で、現実味がまるで沸かなかった。


(そうだ。どこか。現実だとは思わなかった)


うわ言のように考える煤野木。


(これは、紛れもなく。戦いだ・・・・)


今更ながら、客観視しすぎた自分に反吐が出そうになる。


「そ。そうだ。あいつの本体は・・・!」


煤野木は急いで管理室から抜け出し、隣にある部屋へと走った。

カミカゼ。の置いてある特殊な部屋だ。

煤野木は勢い良く部屋に入って、カミカゼを見れば。

何もない。

佐伯の死体も。何もかもがない。

煤野木はガラスの壁をどう見ても、どこを探しても。

佐伯を見つけることは出来なかった。

気づくと、部屋の扉の近くには隊長がいる。


「隊長・・・。一つ聞いていいか・・・」


充てのない悲しみを、自分への憎しみを織り交ぜた言葉。

どう考えても八つ当たりのそれを、煤野木は隊長に投げた。


「何で・・・・あいつの身体がない・・・」


項垂れる煤野木に対して。


「簡単です」


隊長は、無表情のまま答える。


「カミカゼを使うには、自分の人生が。エネルギーですから」


項垂れていた頭を上げて、煤野木は隊長の顔を見る。


「自分の人生・・・・?」

「はい。自分の人生をエネルギーにして。戦うんです」


その隊長の言葉を聞いて煤野木は引っかかる。


(自分の人生をエネルギー源に・・・している?)


「・・・・おい。まて。と言う事は」


それに対して、隊長は相変わらず表情を変えないまま。


「はい。・・・・切れたら消えるってことです。跡形もなく」


消える。と言う事は死ぬ事よりも更に恐ろしい。

死んだという痛烈な実感が襲い掛かり、しかも受け入れられなくなるからだ。


「なら、最初から死ぬ前提で、お前達は戦ってるのか・・・」


その質問に対して、隊長は無言のまま答えない。

理由は簡単だからだ。


「ふざけるな・・・!!」


激しい憤りを、どこにぶつけていいのか分からなくなる煤野木。

近くにある壁をとりあえず殴りつけた。

反動で拳が痛いのが分かる。

隊長が、煤野木が壁を殴った後に。独り言を呟く。


「・・・・佐伯ちゃんに。両親はいません」


その言葉に、煤野木は反応する。


「は・・・・?」


隊長は、言いづらい事を言うかのように続ける。


「・・・正確にはいるんですが。

・・・・彼女は両親に望まれて生まれたわけじゃないんです」


隊長の視線はどこか空を泳ぎ、どこに向けていいのか分からなそうだ。


「・・・・彼女は、ある一家の父と。不倫相手との子なのです。

確かに不倫相手の女性に育てられてはいたのですが。

両親の愛を一度たりとも受けた事がなかったらしいです・・・」


最後の部分を、特に(にご)らせて言う隊長。


「望まれて生まれず、両親の愛を受けずに生きてきた・・・」


煤野木は確かにそういう子供を何度だって聞いた事はある。

しかし、いざ現実となると。信じられなかった。


「あの後に子供が出来たことを、本当に喜んだらしいです。

自分が注がれなかった分の愛情を、この子に与えてあげるんだ。と。

・・・・ですが、残念ながら・・・」


隊長は完全に最後では口が濁っていた。

その話を聞きながら、煤野木は歯を大きく噛み締めていた。


「・・・・なんで、こんな、不幸ばっかりなんだ」


吐き捨てるように言う煤野木。

静かに、その言葉だけが耳に残ったが。

ふと隊長が切り出す。


「次の戦いがあります・・・。そろそろ休みましょう」


隊長は煤野木にそう声を掛けたが、返事がないので。

残ったのは煤野木と、煤野木にのみ見える。

βだけだ。


「煤野木・・・・」


βが心配そうに近寄ってきたが。


「くそ!」


威嚇するように、どうしてようもない憤りをぶつけるかのように。

怒りに打ち震える煤野木。


「・・・・未来は。まだ続くよ。煤野木」


そんな煤野木に、βは小柄な身体で煤野木の背中に抱きついた。

βは右頬を当て、まるで音を聞くように。


「・・・・煤野木はまだ見届けないといけない」


(なだ)める様に、言い聞かせるように(ささや)くβ。


「分かってる・・・・まだこの戦いが終わりじゃない。事だってな・・・。

だが・・・。こんな、結末はないだろう・・・!」


不意に涙腺(るいせん)が緩むのが分かる煤野木。


「生きた事すら、認められない・・・」


頬から冷たい水が流れていき、拳に自然と力が入っていくのが分かった。

煤野木を、βは悲しそうに強く抱きしめる。

ここで何かをしても変わる訳ではない。

だが、それでも何とも言えない(わだかま)りが煤野木にはあった。




そして、次の戦いはまた。幕を開ける。

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