表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ナナ-
16/66

code:12「終演」

触手によって都市の建物に減り込み、そこで佐伯は止まってしまう。

ところが、それだけでは触手の勢いは止まらなかった。


「ぁあああああああ゛あ゛ぁあ゛あ゛゛!」


ゴギュギョギュググ。という液状の音がした後に。

佐伯の腹部を大きく貫き、建物ごと佐伯を突き刺す。


「あ゛あ゛あ゛あぁあ゛・・・!」


痛み悶える佐伯に対して、触手は止まったままだ。

しかし、まだ敵は生きている。


(お腹が・・・お腹が完全になくなぁああ!)


どろりと液状の血が大量に開いた穴から出てきた。

周りには鮮血がほとばしり、佐伯の服は所々血に染まっている。

すると佐伯は急に吐血した。

大量の赤い色の液を見た佐伯は。


(お腹がぁあ・・・ないのにどっからこんな血が・・・ぁああ!)


混濁する意識。極度の吐き気。強烈な痛み。

それらは佐伯の精神を真っ黒に染め上げていき、壊していく。

佐伯の視界は、涙によって歪に歪んでいった。

しかし、佐伯の脳裏に少しずつ浮かんで来たのは。

あの時の青年との会話や、隊長との日常。煤野木との最後の日。

そして、自分自身の生まれる事がなかった娘。


(わたしが、まもらないと。このほしは、こわれる)


それだけで、我慢できた。


(痛い、痛くて痛くてもう苦しい。やめてしまいたいよ。

でも、私は、この世界を・・・)


「守って・・・みせる・・・」


今だ口から流れ続ける血を、吐き出しながら佐伯は喋る。

その瞳は(けが)れていて、汚れているが。

どこか優しい炎と共に、決意の証があった。


「・・・絶対に。私は。みんなのこの世界を」


力の入らない右腕を上に上げると同時に。大きな注射器が出現する。

その照準を、虫の息の敵に狙いを定め。


「守るんだああああああああああ!!!」


佐伯が大きく叫び振り下ろすと、注射器の先端は的確に敵を捉え。

注射針は敵の身体を貫通し、刺さる。

しかし、それだけでは敵は死なない。むしろ殆ど効いていない。


「・・・・まだ。まだだよ!」


佐伯は大きく右腕に力を入れ、前へ突き出す。

それに呼応するように、注射針のピストン部分が、前に進んでいく。


「う、ああああ、あああああああああ゛あ゛あ゛゛!」


佐伯は歯肉から血が出るほど、力強く噛み締める。

突き出す腕がぷるぷると小刻みに震えた。


「ああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛!!!」


佐伯の小柄の身体から出るはずのない声が出た後に、ピストン部分は完全に前へと動く。

そして。最終部分まで到達すると。

敵は見事内部で膨張した後に、砕け散った。

その様子を見ながら佐伯は、完全に力が抜ける。


「おわ・・・た・・・よ。え・・・へへ・・」


目は虚ろになり、声は誰に向けているのかは分からない。

佐伯を突き刺す触手は消え去り、佐伯を支えていたものもなくなる。

ゆっくりと、佐伯は地面へと落ちていくのが分かった。

視界に一瞬だけ入っていた、青色の空は消える。

と同時に、今までの経緯を示す映像へと変わっていった。

一つ一つを食い入るように見ていた佐伯は、ゆっくりと落ちながら考える。


(私は、不幸だったのかな)


誰が見ようと、恐らく不幸。といわれるだろう。

佐伯自身それも分かっていた。

しかし。


(・・・・なのに。私は幸せ・・・だな)


近づいてくる地面を見詰めながら、佐伯は少し思った。


(あのね。・・・私の赤ちゃん。一つ報告したい事があるんだ・・・)


その瞳はまるで少女のように、澄んでいる。


(・・・私。ね。・・・好きなひ)


佐伯が。最後の言葉を紡ぐ直前に。急に彼女の身体は消え去った。



まるで、最初(はじめ)からいなかったかのように。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ