code:11「戦場」
(・・・・・ついにやってきたね。敵が)
深呼吸しながらカミカゼで待機する佐伯。
透明なガラスケースで部屋から遮られているそれは。
外から見れば、遺産物を入れる箱のようだと。佐伯は思った事がある。
「X.....Y.....場所は、北海道寄りの太平洋だね」
脳にインプットしつついつでもいける準備をする佐伯。
(これから始まるのは・・・・孤独な戦い。私一人だけの戦い)
やはり心臓は相変わらず高鳴りしており、中々落ち着かない。
そんな時は。
(あの首飾り・・・)
胸ポケットにいつも入れてある首飾りを取り出し、昔を思い出す。
(色々な事があったなぁ・・・)
ふと感傷に浸って、時間を忘れそうになってしまったので。
もう一度深呼吸をして覚悟を決めた。
そして、指定座標の。敵より少し離れた場所へと瞬間移動。
『はーい。佐伯ちゃん。声は聞こえてるー?』
耳から聞こえるのは隊長の声。
こくり。と頷く佐伯。
『あ、はい。煤野木さんは知りませんね。
実はこっちからはモニタリングと指示は出来るんですけど。
むこうからは一切こっちに関わる事は出来ないんです』
声からして、どのような様子なのかが分かる佐伯は。
思わず笑ってしまいそうになった。
(変わらないなぁ)
そして、佐伯より少し先に見える黒い敵。
端から見れば黒い色のスライムにでも見えそうなその敵は。
一体だけで国を殺せる化け物だった。
その大きさはまるで一個の大陸を思わせそうで、海に浮かんでいるのが不思議だった。
『あれが・・・佐伯の言っていた敵・・・』
煤野木の喉を鳴らす音が聞こえる。
(いや・・・・大きすぎて海底まで足が届いてるのかな?)
どうでもいい事を考えていた佐伯の思考は、急に途切れる。
何故なら、敵が触手らしき物をかなりの速度でこちらに飛ばしてきたからだ。
「・・・・!舐めて欲しくないよ!」
佐伯は前かがみになり、空中を大きく蹴り飛ばす。
一瞬にして避けつつ数十キロという距離を詰めて、至近距離で手に持つ武器で殴る。
使っている武器は俗に言うガラガラだ。
軽快な音と共に、黒色の巨体は大きくめり込む。
(どうかな・・・・!?)
しかし、直後に大きく後ろへと吹き飛ばされた。
腹部に当たっているのは先程の触手で、突如前から出現したのだ。
「い・・・・ああああ゛あ゛!」
先程の数十キロの比ではない距離を飛ばされ、北海道にある市街地まで叩きつけられる。
『佐伯!』
煤野木の叫ぶ声が聞こえた。
建物にめり込まされながら、なんとか片腕に力を入れながら立ち上がろうとする佐伯。
すると、既に敵は海辺近くまで移動している。
(早い・・・!)
それを見た佐伯は、ふと笑い出し。
「ふふ・・・・・いいよ。私も、本気でいくからさ」
身体を空中に浮かせ、両手を大きく開く。
突如、ほぼ佐伯の周りにある建物や土地は一瞬にして。
遊園地へと変わっている。
そして佐伯の両手には突如巨大なガラガラが二つ。
彼女の後ろには、それぞれオモチャが飛んでいる。
「・・・遊ぶよ」
佐伯は大きく息を吐き出した後に、距離を詰める。
黒い敵が大きな紋章を前に突き出し、光が集まっていく。
「遅いよ」
佐伯は右手を大きく前へ出し、それと同時に一斉に周辺に浮かぶオモチャが勢いよく前へ飛ぶ。
その結果敵は後方に吹き飛ばされ、更には爆発音と煙が周辺を包む。
「まだまだぁ!」
佐伯は煙の立つ中へ突っ込んで行き、左手を大きく空中へと掲げ。
振り下ろす。
直後、敵の身体が地面へと減り込まされた上に。
「終わってない!」
佐伯に、もう片方の腕を振り下された。
地面が咆哮するような軋む音。と共に大規模な揺れ。
「はぁ・・・はぁ・・・」
息切れしながら、佐伯は頬を右腕で擦る。
『終わったか・・・?』
煤野木が安堵するような声が聞こえたが、
佐伯は同時に距離を取りつつ、再び戦う準備をした。
(まだ・・・全然効いてない・・・)
佐伯の予想通り、敵は多少はダメージを受けている動作はするものの。
致命傷までには至っていなかった。
『・・・・嘘だ』
煤野木の信じられないような。声を出す。
『あれが普通なんです』
隊長の至極冷静な声も聞こえた。
「・・・遊園地。使いたくなかったけど使うしかないなぁ」
佐伯は、諦めたような顔をしながら構える。
「次は夢の世界で遊ぼうね」
佐伯は、親が子に夢を持たせるような。そんな優しい声で言った。
突如後ろに待機してある、遊園地が戦闘には向かないテーマソングを流し始める。
「さて、お待ちかねの皆さん。大好きなショーの始まりですよ!」
佐伯は急にアナウンスのような機械的な喋りをした後に。
遊園地の中へと消えていく。
『・・・何が始まるんだ?』
煤野木の疑問の声とは対照的に。隊長は。
『ふ。ふふふふふ』
急に笑い出していた。
そして敵は佐伯に誘われるように、遊園地へと近づいて行く。
直後。
「まず最初に始まるのはジェットコースター!」
嬉しそうな佐伯の後ろにそびえるのは、巨大なジェットコースター。
「死にながら楽しんでいいよ」
口元が歪みながら、佐伯は敵を指差す。
そしてジェットコースターが動き始めたかと思うと。
敵を大きく弾き飛ばした後、空中で円周しながら何度も何度も弾き飛ばす。
「次はティーカップ!」
カップ状の乗り物が敵に直接突っ込んで行き、壊れた。
数秒たってそれらはまた元に戻り、直ぐに突っ込んでは壊れていく。
「でもやっぱり最後はメリーゴランド!」
佐伯が叫ぶと、敵の垂直線上に巨大なメリーゴーランドが現れる。
「さよなら」
佐伯が平面的にそう呟くと、メリーゴーランドは空中でひっくり返り。
かなりの勢いで真下へ落ちていって爆発した。
黒色の煙と共に、佐伯は勝利を確信する。
(終わった・・・・)
『・・・・何だか、拍子抜けしてる気がしなくもない』
『気のせいですね』
煤野木と隊長の、遠まわしに勝利を祝う声が聞こえた。
佐伯もそれで余計に肩の力が抜け、脱力するのが分かる。
しかし安堵も束の間。
『・・・・いや、待って!佐伯ちゃん!』
緊迫した隊長の声。
『そいつはまだ生きてる!』
「え?」
佐伯の気の抜けた一声と同時に。
佐伯は触手によって大きくまた後ろへ突き飛ばされた。