code:10「決意」
佐伯と煤野木は、花畑で並んで座っている中。佐伯が喋る。
「・・・・これね。私のお守りなんだ」
佐伯は胸ポケットから何かを取り出した。
それを自らの手のひらに置き、煤野木に見せる。
星が半分欠けた状態の。半分だけの星。
「あのお兄さんから、最後に会った時に貰ったんだ・・・」
きらきらと光る首飾りを嬉しそうに見つめる佐伯。
しかし少し経った後、佐伯は煤野木を見つめて。
「・・・・煤野木は、この世界をどう思う?」
真顔で煤野木に聞いた。
それに対して、煤野木は悩んだ末に出した答えは。
「・・・悲しい。世界だと思うんだが」
「そう」
佐伯は悲しそうな顔をしながら、どこか遠くを見つめた。
「私はね。この世界はとっても綺麗だと思うんだ」
それに対して煤野木は顔を顰めながら、佐伯を見つめる。
「綺麗?」
「うん」
佐伯の頬に、何か光るものが流れていた。
煤野木は黙って佐伯を見詰めたまま。
佐伯はまた喋り始める。
「・・・・・本当はこの世界はとっても綺麗なんだけど。
私達が汚れたり、見失ったりしてるから。誰にも気づいてもらえない。
たとえどんなにそれが価値のある物だろうと」
佐伯は空に浮かび上がる月を眺める。
それに浮かび上がるのは誰なのか。それとも、何なのか。
「ついでに言うと、私はあの後。助かったんだ。
そして、赤ちゃんを身篭ってる事が分かったの。
あの子は父親が誰かも分からないけれど。だからといってあの子は悪くない。
他の人から見れば、不幸だったのかもしれないけれど、私はとっても幸せだよ。
お兄さんにも会えたし、あの子を授かれたし。
・・・・何より隊長達にも出会えた」
そして、佐伯は自身の持つ首飾りへと視線を移した後。
煤野木の顔を正面から見詰める。
「私は戦う。この美しい世界を守る為に。それが不幸だとしても。
私にとってのそれは、幸せだから」
そこで佐伯は立ち上がり、無邪気に笑っていた。
何者にも毒されない、何者にも汚されない、純粋な笑み。
煤野木には、それが眩し過ぎた。
「・・・・俺は今も生きる意味が分からない。考えれば考えるほど分からない。
生きていても、無意味じゃないか?理由なんて物があるのか?と考えてしまう。
世界には不幸のまま死んで行く人もいれば、幸せのまま死んでしまう人もいる。
分からないんだ・・・・何もかもが」
そして煤野木は言い終えた後に、気づいてしまう。
言ってはならない言葉を言ってしまった事に。
この場でもっとも慎むべき言葉。
けれども佐伯は笑顔のまま。煤野木に微笑むように答えた。
「・・・・私の、赤ちゃんは確かに不幸のまま死んじゃったかもしれない。
それに意味がないって言われると。本人にとって確かにないのかもしれない。
だけど、私はだからこそこの星を守りたい。彼女が生まれるべきはずだったこの世界を。
自己満足かもしれないけれど。・・・・私は、守りたいんだ」
佐伯の瞳には、決意とも取れる炎が宿っている。
「これは、前々から決断してた事なんだけど。煤野木に改めて伝えたかった・・・からね」
ふらりくらりと横に揺れる花達。そして月夜に照らされる少女。
そして、彼女は、戦う。
大切な物を失っても、尚。大切な物の為に。