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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ナナ-
13/66

code:9「幻想」

あの日から、青年の姿を見ることはなくなった。

それどころか、まともなご飯すら与えられる事も少なくなっている。

そういった異変があったがが。

佐伯は相変わらず狭い牢獄にいた。

佐伯の所々に痣があり、べとりとした液体が染み付いている。

口からは、ぽたりぽたりと赤色の液体が下に下にと線を引いていた。

佐伯の髪は最初の頃に比べ異常に乾燥しており、又部屋と同じぐらいに汚れている。

眼はどこを向いてるかもしれず、だが

ふと、佐伯の口元が少し釣りあがる。


「今日は、何回目だっけ・・・?」


暗く、じめじめとした笑み。

けらけらけらと道化師のように笑った佐伯は、少しして咽てしまう。


(眩暈がする。苦しいけど。頑張らないと。でも)


「あは。あははは。もう、今日が何時なのかも分からないや」


眼を少し見開き、佐伯はいつも通りの風景に変化がないか探した。

ぽた。ぽた。と水が天井から落ちてくる音が響いてるいるだけ。


「。あは。ははは」


(何の変化もない。いつものここ・・・)


佐伯は、骸骨とまではいかないが()せ細った体を小刻みに揺らす。

着ている服は、もう服どころか、ぞうきんと呼べるかも怪しい。

ふと、唐突に佐伯は口元を両手で押さえつける。

そのまま前向きに体を倒し、体から異物を全て外へと出す。

吐き出した物は、食べ物かどうかも分からない物。

まともな食事すら与えられていないので、栄養不足などの身体に影響が大きい。

しかし、彼女の頭に浮かんだのは別の事。


(・・・・きっと)


「こど・・・・もかなぁ?」


佐伯は空虚に話しかけるが、答えは返ってこない。


(・・・・私)


「嬉しいな・・・・。こども。もう、私はお母さんになっちゃったんだ・・・」


辛く苦しい現実。少女のように幻想を抱く者も少なくはない。


(・・・私は、使い捨て。ポイ捨て。その単語だけが私の存在価値)


ふとそんな事を考えていると、この前に会った青年の事を思い出した。


(・・・・あのお兄さん、たぶん。消されちゃったんだな・・・)


そんな事を考えていた少女は、少しずつ眠気が出てきているのを感じた。

頭がぼんやりとしてきており、思考判断が鈍くなってきて。

佐伯は、確実に。それでいて少しずつ眠くなっている。


「お母さ・・・んかぁ・・・」


(きっと、この瞳を閉じれば、彼と同じ場所に行くことに・・・。

頑張らなくちゃ。でも、眠いよ・・・・)


ごしごしと目を擦っても、一向に眠気が取れない。


(私は・・・絶対に生き残る・・・のに)


佐伯は、ゆっくりと下りてくる瞼に。

抗っていたが、ついには一番下まで下りてしまった。




(そう、これが私の過去なんだよね・・・)


佐伯は温かいシャワーを浴びながら、過去を振り返っていた。


(・・・30分ぐらい。経つか・・・な。そろそろ)


佐伯は危うく逆上(のぼ)せそうになる前に、シャワーから上がる。

脱衣所でタオルを使い、身体を拭いた後に着替えた。

佐伯はいつもの学生服姿に戻る。

そうして隊長達がいる部屋に戻ってみれば。

険しい顔をする煤野木が待っていた。

重々しい顔付きから、どのような事だか分かる。


「・・・・話を、聞いた」

「・・・・・あ、あぁ。そうなんだ」


佐伯は曖昧な返事をした後に、どこか適当な場所へ座る。


(・・・たぶん、そうだと思ったけどね・・・)


「・・・・すまん。無闇に聞いてしまって」


煤野木が、深く詫びるように。佐伯へ頭を思い切り下げた。


(・・・・煤野木。違うよ。私が悲しいのは)


佐伯はぼんやりとそんな事を考えながら、煤野木を見つめる。


「分かってない。全然分かってないよ」


佐伯ははっきりと告げた。


「・・・・」


煤野木は黙りながら、頭を上げたままだが。


「・・・・隊長さん。煤野木をちょっと借りるよ!」


あんまりにも佐伯はもどかしくて、隊長にそう叫んだ後。

煤野木の右手を掴んで、外へと走っていく。


「・・・・ふふふ、子供の成長って早いです」


隊長は手を頬に置きながら、もう片方の手を振る。

それに対していつの間にかいた揖宿が。



「・・・・時間は、良くも悪くも早く。進むものだから」



小声で、本当に誰にも聞こえない程度に。

呟いていた。


そんな光景があっという間に消えていき、通路を走りながら。

煤野木が驚いた顔をしながら佐伯を見ていた。


「・・・・いや、何も俺は勘違いしてないと思うが」


真顔でそんな顔をしながら、答えた煤野木に対して。


「それがそもそも勘違いしてるのに・・・」


佐伯は溜息を尽きながら尚も外に向かって走り続ける。

暫くその状態が続いた後、基地の外へと出た。

そこは相変わらず破壊されつくした街並みで、変わりはなかったが。

夜というだけで、大分雰囲気が違う。

佐伯はとりあえず、出入り口の近くに置いてある懐中電灯を取り出し。

自分の周りを明るくした後に再び歩き始めた。


「・・・・何が勘違いだって言うんだ?」


水没したり陥没したりしている都市を歩きながら、煤野木は佐伯に聞いた。

歩きながら佐伯は答える。


「・・・・後で答えるよ」


俯きながら答える佐伯に対して、煤野木は若干口ごもった後に。


「・・・・・そうか」

「ごめんね」


佐伯はそう言いながら歩き続ける。

すると街並みが変わってきて、少し開けた場所へと変わった。


「ほら、見えてきたよ。私の秘密の場所(おきにいり)


佐伯は笑顔のまま、煤野木を大きく引っ張りながら前に見える場所へと走る。

見えた風景は。


「・・・・・花畑」


煤野木はつい呟いてしまった。

そう、佐伯の今現在立っている場所は一面の花畑。

しかも一つ一つが綺麗に咲き誇っており、月に照らされて幻想的に見える。

佐伯は煤野木を掴む手を離し、嬉しそうに走り始めた。

花と佐伯が交わっているその姿は、いつになく神秘的に見える。



その光景を見ながら煤野木は、つい頬が緩んでしまうのが分かった。


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