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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ナナ-
10/66

code:6「古傷」

煤野木が、ここに暮らし始めて一週間が経った頃。

夜中の時間に佐伯はシャワーを浴びていた。

立ち込める白色の煙、佐伯の体の所々には泡が立っている。


(・・・煤野木は、地味にこの生活に溶け込んでるなぁ・・・)


佐伯はタオルを使い丁寧に肩のラインや、背中まで綺麗に洗う。


(・・・・まさか。本当にここまで慣れるとも思ってなかったんだけど)


煤野木が応じたあの後。

煤野木は本当に何でもやってくれて、元々手が回らなかった作業まで出来た。

といっても、戦う時以外は基本的に生活に関する事しかやる事がなかったのだが。


(たった男手一つでここまで変わるんだね・・・)


ふと佐伯は思い出す。


(・・・・男といっても、色々いるのかもなぁ)


それについては後で煤野木に謝っておこうと思った佐伯である。


「ふふーふふーん」


佐伯の鼻歌がバスルームに木霊する。

シャワーを浴びる時だけ佐伯は異常にテンションが高い。

温かいからか、それとも、温もりを求めてるのか。

それは佐伯自身にも分からなかったし、彼女は答えを求めようとはしない。

ふと、佐伯は気づく。


(あれ?気のせいか今煤野木の声が聞こえなかった?)


バッ!と後ろを振り向けば、扉越しに煤野木らしき声が。


「あ、開けたらだめえええええええええ!!」


佐伯は、大声を出して煤野木を牽制しようにも、時すでに遅し。


「あ」


結果として煤野木は開けてしまったし、佐伯も隠していない。


「あ・・・あ・・・」


佐伯の口はあんぐりと開いて、その場で動けなくなってしまう。

その顔はシャワーの熱のせいか、はたまた恥ずかしくてか。

茹蛸(ゆでだこ)のように真っ赤になってしまっている。

数秒。この空間の時間が止まった。と思われたが。


「悪いな。先客がいるとは思わなかった」


しかし煤野木は対して焦らず、冷静に扉を閉めた。

硬直している佐伯を残してだ。

そして煤野木の冷静な状況判断について、佐伯は咄嗟(とっさ)に答えが出る。


(にゃろぉおおおおおお!まだ私がお子様だと言いたいのかぁああ!)


まだ佐伯は小6だし、確かに発展途上だったりする。

燃え盛る怒りをどこにぶつけてやろうかと。佐伯は考えたが。


「・・・・馬鹿らしい。な」


冷静に考えると、その程度の事だという結論に至った。

そして再びシャワーの続きを満喫(まんきつ)しようとした瞬間。


「佐伯!」


勢いよく煤野木がバスルームの扉を開けた。


「にゃ、にゃぁぁあ・・・・!」


佐伯としては、これは完璧な不意打ちだったし。

まさか二度も開けるとは思わなかった。

猫語になるぐらい頭がこんがらがってしまっている。

しかし煤野木の顔は焦燥で満たされていた。


「どどどどどうし――」

「お前、その体の傷・・・どうしたんだ!?」


佐伯の声を遮る形で、煤野木は怒声を発する。

そして勢い良く佐伯の両手を掴み、広げて佐伯の体を見る。


「・・・・・・な」


その顔は、恐怖なのか。驚嘆なのか。悲しさなのか。

いや、いっその事全てが混ざってしまったような顔だ。


「・・・・・なんだ、これは」


煤野木が見ているのは、佐伯の体。

所々に、えぐれているような大きな傷跡。

蚯蚓腫(みみずば)れした所に更にやられたのか、紫色に変色していて。

一定の間隔を刻むように、体に鋭利な傷跡。

暴力。その程度ではすまない力の。虐待だった。


「・・・・離してよ」


佐伯は俯きながら、煤野木に吐き捨てる。


「何が、あった・・・!?」

「・・・・離して」


佐伯の心が、ゆっくりと冷たくなっていくのを感じた。

いや、元から凍っていたかのように。体温が下がっていく。


「・・・・まてよ、これは――」

「離して!」


煤野木が喋っている途中に佐伯は掴まれている両手を振り払い、後ろに突き飛ばす。


「・・・・あ」


突き飛ばし後、佐伯は口からその言葉が()れた。

佐伯の顔はまったく普段とは変わらないのだが、目は濁っている。

瞳の奥底にある物は、何か。煤野木以外を見ていた。


「・・・・ごめんね」


人形が言葉を喋るように、口を紡いだ佐伯。

異様な空気。互いに無言のまま喋らない。


「いや、俺が悪かった」


手を後ろに置きながら、ゆっくり立ち上がる煤野木。


「・・・・すまん」


それだけ、小声で言った後に。煤野木はバスルームから出て行った。


「・・・・・・」


佐伯はその後姿を見つめる。



相変わらずシャワーのお湯は温かかった。


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