6.閑話とも言うべき攻略中の図
エリアが変わればレートも変わるという、実にゲーム臭い罠にはまり、現在もまだまだ、予定額等考えるもおこがましい状態。
現在は、宿屋で朝食をとりつつ、今後の算段をしているところであった。
蛍が分かっている利点といえば。
「とりあえず、稼いだ分をマイナスにするまでは行ってないってことだよな」
何とも志の低い、最低ラインであるが、ここを割り込むと目も当てられないのは確かで、蛍のもっぱらの頭痛の種は、これをいかに保存したままで、少しでも上積みを作るということであった。
「なんか、このままいくと家計簿でもつけそうな勢いで嫌だ」
我がことながら、切り詰めた生活を余儀なくされ、借金苦から生活苦に蛍の気分は移行中である。
「金銭を知るということは、己が力量を知るということでもありますし」
相変わらずのおっとり顔で、巫女は言う。まさに他人事であるから、気楽なものだ。
けれども言っていることに偽りはない。魔物を倒して金銭を得るということは、倒した魔物のランクで金額が変わるということだ。それを知るということは、今の自分の力量を知るということに他ならない。
そこまで理解していたとしても、感情は別だ。
「無性に腹の立つっ」
この借金苦のような生活はあくまで蛍が自分で引き起こしているだけで、巫女は関係ない。表面上は。
そうなる原因そのものは、巫女とか異世界とか魔王とかであるが。
そのため、なんとなく巫女に当たり散らすわけにもいかず、蛍は日々鬱積し続けていた。
「さらに気に入らないのは、こっちのが充実してるように感じることだよなっ」
辛くて怖くて、できることならすべておっぽり出して逃げたいところであるが、帰る手段を人質に、強制奉仕中の身の上。
それでも、元の所での口癖を、ここにきてから一言も呟いてはいなかった。
目標があるというただそれだけのこと。それだけの違いで、多分、今自分は充実しているのだと、気が付いてしまい、蛍は苦虫をかみつぶしたような表情になった。
なんとなく、どこかの誰かさんの思惑通りのような気がして気に入らなかったのだ。
「とりあえず、今日も魔物退治だな」
別名、小銭稼ぎであるが。
「勇者様」
今までおとなしく、隣に控えていた巫女が、不意に居住まいを正し、真っ直ぐに蛍を見た。
「なに?」
基本ろくな言葉の飛び出さない巫女の言葉ではあるものの、時折役に立つから始末に悪い。
無視することも出来ずに、一応聞くだけ聞いてみようという気になってしまうのだ。
「そろそろ武器と防具を新調された方がいいのではないかと」
エリアが変わり、確かに、店に並ぶ武器も防具も格別によくなった。回復薬の類も効き目が高くなった分お値段もそれなりになったし。
「これでもまだ何とかなるだろ」
「いえ。物には耐久年度といいますか。そういうものがございまして」
言葉を濁す巫女に、蛍は満面の笑みを浮かべた。
「なんだってそんなとこばっかり現実見を帯びさせるっ」
魔器やら、エリアやらと、設定が妙にゲーム臭く、また、回復薬の効き目も、ゲーム並みに出鱈目で、現実にこんなこと起きたら、確実に頭がおかしいんじゃないかと、まず自分自身を疑うと思うほどのものだった。
大体、内臓いっちゃってるんじゃないかというような怪我が、回復薬を飲めば治るのだから、出鱈目以外の何物でもない。
「勇者の体と防具、武器はまた違いますので」
この回復薬の効き目もまた、勇者特典だったらしい。
細かいところで便利なんだかなんなんだかと、蛍は一つため息をついた。
それなら、長老が出し渋ったのも分からなくはない。
これだけのもの、壊してしまうのは蛍にしても少しばかり忍びなかった。
とはいえ。
「現状無理。も少し考えてみるよ」
蛍はそう言うと、宿の一室に引きこもった。
魔物が活発に動き始めるのは夕方からだ。昼も出てくるが、エンカウント率が著しく下がるが、逆に夜は鬼のようなエンカウント率になる。
犬も歩けば棒に当たるなんていう可愛いものではない。一歩歩けば魔物に当たるという、鬼畜エンカウントだ。
「ゲームバランスが悪すぎる」
がっくりと蛍はうなだれるが、ここで回復薬をちょっと買いだめて、夜の間に前のエリアに移動して、宿をとれば、物価レートは低くなる。
食事も、宿もだ。
「夜のあの鬼畜エンカウントを生き抜けばもしかしていけるか?」
真夜中ごろに出て、朝方に戻り、昼ごろまで寝て、こちらに移動。夜の間は魔物を警戒して、門を閉じられてしまうので、今までも、門が閉じられる前に外に出て、開く時間に戻ってきていたのだから、基本行動は変わらない。
魔物も強くなっているから、こちらの方が稼ぎはいい。
それを続けていれば、武器防具を新調できるくらいの余裕はひねり出せるかもしれない。
結果、まるで通い妻の用に行き来する蛍がいるのだった。
「なんというか、涙ぐましい努力過ぎて」
ほろりと、涙をぬぐうふりをする巫女に、いらっとした声で蛍は答える。
「うるさいっ。俺だって、一円でも安いスーパーに、自転車で全力疾走する主婦っぽいとか思ってるんだよっ」
むしろ本人評価のほうが低かったもよう。