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14.振り出しに戻された

 やっと最上階に辿り着いた。魔王の前にあのうざったい魔物を相手にしなければならないわけだが。

 「巫女さん。あれ倒せば、勇者雇える額貯まるよな」

 「はい」

 「よしっ。俄然やる気出た」

魔王攻略寸前ではあるが、これでやっと念願が叶うわけであるから、蛍としては、別段文句はなかった。

 「ずいぶんと苦労をしたようだな」

クスクスと笑う魔物に、苦労したのは、稼ぐためだけだと教えてやろうかとも思ったが、面倒くさいことになりそうなので、蛍はそれ以上の会話を放棄した。

 「私と争うのを恐れて、こそこそと頑張っていたようだが、その努力も無駄というものだ」

目の前にいる魔物は、確かに今までで一番強かった。

けれども、そうそう簡単に負けるとは思えない。だが、この余裕を見ると、なにやら仕掛けがあるのだろう。

 「めんどくさ」

思わず本音が零れる。

 「とりあえず、正面突破だろう」

知略を巡らせるのは得意ではない。罠があるなら蹴散らすまでと、蛍は剣を抜くと、そのまま突っ込んだ。

案の定、床にトラップをしかけていたようで、四方から攻撃が来る。それを半身を翻して確認すると、剣でなぎ払う。

完全に振り向かなかったのは、目の前の魔物の攻撃を見るためだ。

 「なかなかに、引っかからないものだな」

 「読みやすい性格してるだけだろ」

剣を持ち替え、ロスを消すと、迫ってきた剣を弾く。

さすがに左では、たいした攻撃も出来ないが、ただ単にこの一撃をしのげば良いだけであるから問題はない。

崩れかけた体制を剣を薙ぎながら、回転することで、立て直すと、すぐに両手で構えを取る。

 「さすがは勇者と言うべきなのかな」

まだまだ余裕を見せる相手に、奥の手が幾つかあるらしいことを蛍は感じ取る。

相手をするだけでもうざったくて面倒だというのに、どうやら戦闘もそこそこ長引きそうである。

 「とっとと決着付けたいんだけどな」

ぼそりと呟いたのが聞こえたらしく、魔物の表情が一変する。

どうやら蛍にかなり余裕があるという事に、ここに来てやっと気が付いたらしい。

 「五体満足で魔王様の所まで行けると思うなっ」

必死さが変わる。

こうなると実に戦闘はやっかいだ。

 「慢心しててくれた方が楽だったのに」

自分で気が付かせておいて、蛍はそんなことを言う。

 「まあ、なんとかなるけどなっ」

魔物なら魔器を使えると、彼女に聞いていたのが功を奏した。

必ず背後からの攻撃があるだろうと読んでいた蛍は、あらかじめ、巫女に魔器のありそうな場所を特定して貰っていたのだ。

動くときにはその導線上に、魔物も来るようにしていた。もっとも、即興でそう上手く行くはずもないと思ってはいたから、失敗したところで気にも病まない。

気配を感じて、蛍は、どう逃げるかを考える。

自分が巻き込まれないと考えれば、拡散タイプは後からの攻撃はない。そうなれば、横に逃げるのがセオリーだが、ここには幾つかの魔器が仕込まれているのだ。よって選択は上か下。

上に逃げれば、それ以上の逃げ場はない。

それでもあえて、蛍は上を選んだ。

 「よしっ」

ここまでダンジョンの構造などを吟味して、下の方にトラップがあると踏んだ。

まさかオーソドックスな落とし穴だとは思わなかったが。

そこでバランスを崩したところを魔器からの攻撃で殺す気だったのだろう。

しかし、上に逃げるのもまた予測済みだったようだ。

にいっと魔物が笑う。

それは、勝利を確信しているようにも思えた。

いや、多分確信していたのだろうとは思うが、読み比べは蛍の勝ちだ。

 「悪いな」

けれど、剣の打ち合いのみであるなら、蛍はこの魔物に負けるとは思えなかった。

蛍は、剣を魔物の方に突き立てると、自らに向かってくる剣を右足で押さえ込み、左足で手首を蹴る。

重力に従って落ちて行くままに剣と一緒に下に降り、痛みに剣を取り落としそうになっている魔物に向かって、下から上に切り上げた。

無防備になった体は、蛍の剣によって易々と切り裂かれ、よろりと数歩後に下がる。

まだ生きていることに、内心、感心しながら、蛍は容赦なくとどめの一撃を入れた。

すると、ざらりと、形がそのまま金属に変化していった。

 「やった」

長い長い道程であった。

これでやっと蛍は、魔王討伐というやっかい事から解放される。

 「終わってみると感慨深い。かな」

何となく、余韻に浸りきれず、蛍は巫女を見た。

 「額は?」

 「十分です」

 「なら一度ここを出て、勇者を雇ってから、またこよう」

このまま魔王を倒しに行くより、堅実な方を選ぶと、蛍は巫女にそう言った。

 「それでは」

そう言うと、巫女は短い詠唱を口にする。

聞き慣れた転移の術だ。

ダンジョン脱出にも使えたのか。と、蛍は呑気に考えていたのだが。

 「なんで、ここかっ」

眼を開けるとそこは、一番最初に蛍が現われたところだった。

よくよく考えなくとも、神力では、前に進めない。

という事は、あの道程をもう一度歩くと言う事だ。

 「なんで迷宮の前じゃない」

 「あの辺りは、魔の気配が強すぎて無理です」

至極もっともだ。

けれど、そこでなくとも手前のエリアでも良かったのではないかと蛍は思う。

 「なんでここなんだ?」

精神衛生上、実はこのまま放置したい気はするのだが、もしかしたら、蛍の知らない何か理由があるのかも知れないと、一縷の望みを掛けてみた。

 「やはりお迎えするならはじまりの場所がよいかと」

 「ここじゃなくても呼べたんだな」

その言い方に引っかかって、蛍は確認するように問いかける。

 「当たり前です」

巫女はさも当然と言いきった。

だったら何故にわざわざここに。と言うか、転移する前にここで良いか一言聞けばいいものをと、蛍は頭の中で色んな言葉をぐるぐると回す。

そして結局。

 「ドアホーっっ」

容赦なく、蛍は巫女に手刀を入れていた。

毎度の事ながら昏倒した巫女を見て。

 「あ」

巫女がいなければ、召喚出来ないという事に気が付いて、蛍は大変間抜けな声を出したのだった。


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