本当を見るとき見えるもの(1)
こういう話が嫌いな方もいるかもしれませんが――変えようと努力はしましたが――我慢して読んでいただけるとありがたいです。
下手な文(駄文というんでしょうか?)を読んでいただいて、本当にありがとうございます。
ゐつが連れてきたのは依頼人だった。同じ2年生のおとなしそうな女の子だ。ぼそぼそとか細い声で話す依頼人の話にしばし耳を傾ける。話の途中で泣き出し、しまいには話が支離滅裂になったが、最後に「――お願いします。あの教師をどうにかして!」とはっきり言った。そして、泣き崩れる。
困ったような顔をする森羅、びっくりしておろおろするゐつ。僕は依頼人の背中をなで、低く静かに囁く。
「分かったよ。だから泣かないで、いや泣いてもいい。好きなだけ泣いて・・・・・・そのほうが楽になれる。泣いて・・・・・・」
優しさと、穏やかさ。低く、静かな声。ほぼ本能的に身につけた慰めかただ。すこしずつ、依頼人の感情が静まっていくのが分かる。
でも、僕の意識の中には微塵の優しさも、穏やかさもない。
――石山聡介。年齢36歳、身長188cm、体重76kg(健康診断時)。町外れのアパートで1人暮らし。現在彼女無。我がT高校体育教官兼、生徒指導部指導員。野球部顧問。以前にセクハラ疑惑有。当時は証拠不十分で処分はなかった――
セクハラならまだしも、といっては悪いが、今回の依頼が本当だったならそれは立派な犯罪だ。処分どころの問題ではない。逮捕、それでなくとも免停は免れないだろう。
依頼人の話から見えるものは。
十分レイプに相当する。
しかも手口から見て常習犯である可能性もある。
僕たちの組織で処理してもいいような内容だ。倶楽部で解決できるかどうか、分からない。
「よくそんな辛いこと僕たちに言ってくれたね。えらい。その勇気は・・・・・・」
真正面から依頼人を見つめる。
「僕らが、引き継ごう」
この依頼人は確か寮生活のはずだ。本来相談できるはずの親も近くにはいない。最近では減少したと聞くけれど、まだセカンド・レイプ――事件後、警察の事情聴取や心ない人々の誹謗中傷によって行われる、精神的レイプ――は残っている。それが怖いせいもあって誰にも言えなかったのだろう。同情するわけではない。そんなものはとっくの昔に捨てた。
「今からならまだ間に合うんじゃねえ?あの先生、呼んだら?」
森羅が僕にそう呼びかける。
「そーするつもりでした。えっと、ケータイケータイ・・・・・・」
「誰を呼ぶんですか?先輩」
ゐつが依頼人にお茶を勧めながら聞く。
「この手の問題に明るい女の子」
いわゆる先生みたいな人、と説くと依頼人は不安そうな顔でこちらを見た。
「大丈夫。僕が信頼してるいい人だから。・・・・・・もう来たみたいだけど」
「へ?」
ノックもなしに扉が開く。
「はろろ~ん。お久しぶり。対価は隼が払ってくれるんだって?」
ショートボブというのか、そんな髪型の女の子が僕らの言う先生だ。
「払うよ。前払いはこっちにきたらやる」
「今回はなにかなぁ♪」
のこのこ近づいてきた先生の腕を捕らえ、引き寄せた。
「とりあえず、これで勘弁」
悪戯っぽく囁く。
抗議しようとして半開きになった先生の唇に自分の唇を重ねる。3人の目の前で。ほんの一瞬抗った後、先生は身体をこちらに預けた。薄く開いていた目をゆっくり閉じる。先生が喉を上下させるのが分かる。
古びた振り子時計がくぐもった音で時間を知らせた。先生から唇を離す。こぼれた唾液を人差し指で掬い取り、舐め取る。それを、緩慢とした動作で嚥下した。
「前払いになったか?」
3人が口をぽかんと開けている中でにやりと笑い。
「悪くないね、隼ご自慢の紅茶の味がしたし」
「足りないか」
「あとで足りない分をもらうからいい。後のはちゃんと物でちょうだい。中毒になっちゃうから」
声を立てて笑う。
「僕のキスは毒なのか?今までそんなこといわれたことない」
「隼の存在自体が毒よ。自覚してるくせに、意地の悪い子」
いまだに3人は口をぽかんと開けている。
「いつまで口開けてんの。ドライマウスは虫歯悪化の原因」
「お、おまっ!人の目の前で何して」
「ん?キス。悪かった?」
悪びれずに僕はそういうと、爽やかに笑ってみせた。