話の中から見えるもの
よく、振った女の子から聞かれることがある。「あなたは同性愛者か」と。「別にそーでもない」と返せば「ならどうしてアイツとは」と迫られる。
「おい、おーい森羅。テスト、どうだった?」
「いいよなあ、お前は勉強する必要がなくて――イタッ、背中叩くな!」
「しっかりしろって。今日の放課は部活オリエンテーションだぞ?1年生を2人ほど確保しないと」
数奇屋橋 森羅。森羅と僕は2才からずっと親友だ。いわゆる竹馬の友というやつ。森羅こそ、僕が同性愛者と間違えられる原因となっている。登下校が一緒、休み時間は大抵2人でいる、ご飯を一緒に食べている、どこに行くにも何をするにも2人。実際は違うのだが、そんな噂がまことしやかに流れている。
「そういや、今日女の子と登校してきたんだって?学校中が沸いてたぞ」
おれを置いて行ってさ、と森羅。
「むくれんなよ。ゐつは新しい見習い。住み込みだから一緒に来ただけ」
「本当にかぁ?んじゃ俺が狙っちゃうぞ?ずいぶん可愛いみたいだし」
持っていた英和辞書で頭を殴る。
「ぐっ・・・・・・!辞書で殴ることねえだろ!」
「あほなこと言うからだよ。僕は色恋沙汰に興味・・・・・・あるけどさ。ゐつはただの見習い。部下。それ以上にもそれ以下にもならない。ちさ姉と一緒だよ。ちさ姉は所長。それ以上にもそれ以下にもならない。敢えて言うなら『家族』って部類に入るくらいだろ」
「お前ってホントに優しいのか冷酷なのか、天使なのか悪魔なのか分かんなくなるよ」
「とにかく部活オリエンテーションのことだが」
「話変えんなよ!」
森羅の道化じみたツッコミに、新しい教室は盛大に沸いた。
『では、最後の部活です。どうぞ!』
司会の女の子の声に押され、前に出る僕ら。いまは部活オリエンテーション。
「はじめまして、新入生の皆さん。僕たちはさまざまな問題の解決を専門とする――」
「通称探偵倶楽部です!」
「先に通称言ってどうするんだよ。T高校内特設総合問題解決倶楽部です。ずいぶん名前が長いということで探偵倶楽部と呼ばれています。活動内容は――」
「頼まれたことならなんでもやります。犯罪以外。あ、色恋沙汰の相談には乗りますが、成就させてくれというのは無理です」
「まだ設置されて1年しか経っていませんが、やりがいのある部です。社会に出て問題にぶつかったとき、ここでの経験が役立つはず!」
「活動日は部長――つまりこの隼君が学校に来ているときです」
「活動場所は本館3階一番奥の旧相談室です。居心地はとてもいいので、気軽に来てください」
「運がよければときどき部長が作ってくるおやつにありつけます。これがおいしいんです」
「打ち合わせにないこと言うなよ。また、何か相談事があるというときも僕たちのところに来てください。円満解決になるよう僕らが尽力します。匿名希望の方はどこにでも置いてある相談ポストに内容を書いて入れてください」
「また、イタズラで入れたような内容に関しては、その方の良心に問題があるとして匿名でも――」
「僕らが探しあてて部室にお呼びして強制的に問題を解決させていただきます。クーリングオフは適応されませんのでご注意ください」
「では。T高校内特設総合問題解決倶楽部でした!」
ちょうどいい速さで喋り、2人で華やかに笑ってみせる。僕はともかく森羅は我が高校の2番めのミスターに認定されたやつだ。効果がないわけはなかろう(多分)。プラス、僕が付け加えたし。
後でゐつに聞いた。僕らが去った後、新入生たちはしばらく赤い顔でぽうっとしていたらしい。男も、女も。
僕らといえば。
「あんなに打ち合わせ通りにって言ったのに、約束破ったな!」
「でもウケたでしょ。客の増加にもきっとつながるぜ」
「客とか言うなよ、依頼人だろ。まあ、森羅めあてに女子は来るね、絶対」
「アホ言え。お前めあてだろ。ミスターの1番取っといて自分がカッコいいことも分かってねえな。いつも俺に告白してくんのはお前にフラレてそれじゃあ森羅君、って女ばっかりだぞ!」
「僕は森羅みたいに好きでもない女と付き合う趣味はないよ。フリならしてもいいけどさ」
消しゴムが飛んできた。片手でとって投げ返す。幸いにも紅茶はこぼれなかった。
「筆記用具は投げるものじゃありませんよー。小学校で習わなかった?」
「俺は別に好きでもない女と付き合ってるわけじゃない!お前みたいに簡単にフレないんだよ。あ~っ、俺って本当に優しいわ。というわけでクッキー頂戴」
コンコン
「あ、依頼人かな。どうぞ」
ノブを回して廊下を見れば。依頼人でも見学者でも野次馬でもある人がそこにいた。
「どうも、先輩!綱手ゐつが部活見学に来ました!あ、そこで隠れてた人も一緒に連れてきちゃいましたよ。いいですよね」