どんなときでも見えるもの
つくづく思う。所長を怒らせてはいけない。
その目が、見たくもないのに見えるからだ。
「ごめんよ~、ちさ姉。謝るからさ~」
涼と陸が半べそで草むしり。ちょうどいいからとやらされている。可哀想にとは思うが、手伝う気はない。
「これ終わったら、窓拭きもお願いね。・・・・・・分かった?」
氷の瞳。冷たい。冷たすぎる。
「助けてくれよ~、ゐつちゃん。隼はどーせ助けてくれないんだよ」
「あい?なんか言ったか、2人とも」
目線には自信がある。人が思わず見蕩れるようで、でも拒みたくなる目線。
「うわっ!やめろやめろ、お前は仲間を毒牙にかけたりするのか」
成功。2人とも真っ赤になって向こうを向いた。別に男を誘惑する趣味はないが、反応を見ているのは実に面白い。恋する乙女のようにさっと顔を赤らめ、少し目が潤み、困ったように苦笑いをする。
「やめなさい、隼。あなたの目は私より怖いんだもの」
所長にとめられる。いじめるのが趣味でもないので、やめておく。
「はい、コーヒー。ごくろーさん」
雑用という雑用をほとんどさせられ・・・・・・いや、快くした2人にご褒美を。
「わっ!サンキュー、隼。お前のクッキー大好き!」
さすがに良心が咎めたのだ。2人の大好きなクッキーを焼いてやったら、このとおりだ。すぐに2人の前の大皿からクッキーが消えていく。所長とゐつには分けて配った。
「先輩って料理上手いんですね・・・・・・うらやましいな」
ひと口かじってゐつが言う。パッチリとした目がくりりと大きくなる。
「いや、冷凍してあった生地を焼いただけだし。そう難しいものじゃない」
今度やってみるかと問えば、ゐつは苦笑いした。
「あたし、料理の『り』の字も知りませんし」
後日知る。それは謙遜でもなんでもないということに。
「ほらほら、明日からまた学校でしょ。隼、宿題終わってるの?ゐつ、あなたも課題があったんじゃなかった?明日の準備だってあるんだし。さきに準備してきなさいよ」
「それじゃ俺たちは――」
「――ここで!」
玄関からそそくさと逃げようとする涼と陸。その背中に、槍が刺さった。
「待ちなさい。まだ話は終わってないのよ?せっかちねえ。買い物リスト、渡してないじゃない」
・・・・・・まだ働かせるつもりのようだ。