それは憎い鉄色
晴れている。なんだか外に出るのが億劫で、僕はただリビングでぼうっとしていた。
「……なんだかなー」
「なんだ~、阿○快~?」
茶化してくる声も日常すぎる。これじゃあ、これじゃあ。
「違うよ、なんだか僕このごろ、変わっちゃってるなと思って」
変わってしまった。弱くなっている。弱い、本当、よわい。
「お前はさ~」
「え?」
「強くなろうとしすぎなんじゃないかなー」
「は?」
いつもの、涼と陸らしくない。いつもなら、こんな僕をほうっておくのに。
「強くなろうとしすぎてー」
「その鎖にがんじがらめにされすぎて~、逆に潰れそうになってる~」
「涼、陸?」
「潰れたまま、立ち上がろうとするから」
「余計につらくなっていくんだよ」
「それなら、一度捨てればいいのに」
「それなら、忘れてしまえばいいのに」
「隼は忘れないんだね、どんなことも」
「その記憶すらも忌まわしいと思っているのに」
「囚われて、いや、違うか、自分で自分を捕らえて戒めて」
「自分を『殺して』、閉じ込めて、兵器になりさがって」
「それがつらいとは思わないの?」
「それが悲しいとは思わないの?」
「「そうしてまた落ちていって」」
なんだよ、これ。
「「また潰れて、また立ち上がって、落ちて、潰れて」」
「「そうして、お前はどうするんだ」」
突然、視界が開けた。
「先輩?」
「紫苑?」
僕は、そうだ。
何のために、ここまでしてきたんだ。
この世界に身を投じざるを得なかったのは、なんでだ。
それを自ら進んだ道だと決めさせたのは、その目的とは、なんだ。
「彼岸への復讐、だったんだ……」
「紫苑?」
目の前の、糸で縛り付けられた彼岸。ああ、うん。やっぱりそうだ。
「僕は、この彼岸が憎い」
「しお……隼?」
「憎い。なんで僕の親を殺した。なんでそのとき僕を殺さなかった。ねえ、憎いんだ、美智。この彼岸が、とても憎い」
美智は、何も言わずにただ先を促す。
「そりゃあ?僕の親が殺されたのは仕方ないことかもしれない。あんな優しい顔をしていても人を惑わせといわれたら惑わしたし、殺せといわれれば殺してた。でもそれはさあ、彼岸も同じことだろ?ここにいる人間みんな同じことだろ?なんで僕の親だったんだ?なんで僕は一緒に逝けなかったんだ?不公平だろ。何もかも不公平で不平等で。神様なんていないし。願ったって届かないし。自分でかなえるしかなくて。かなえたいんだよ」
美智は、黙ったままだ。片眼鏡の奥の、縦に裂けた瞳孔が僕を見つめる。
「どうしたら、いいのかな……自分を止めることが、できる気がしないんだ」
下を向く。眼鏡のつるに、手をやる。
眼鏡を外す。
「彼岸の精神、破壊しちゃ、いけないのかな」