それは遅い桜色
このごろ短い&遅い&暗い展開でごめんなさい。
ただいま違う原稿を書いているのですが、
頑張って更新していきます。
これからもよろしくお願いします!
まさに、静寂。
何の音もしない。
静か、では言い表せない。
まさに、静寂。
誰も何も言わない。
誰も少しも動かない。
誰も……誰も。
「……ねえ、ごめん、美智」
理由が分かった。恐る恐る、乾いた舌を動かす。
「なに?紫苑」
美智がこちらを向いた。大事に使っているらしい銀の片眼鏡越しに見られる。
「彼岸が答えられないのってさ――そのガムテープ外してないからじゃ……」
片眼鏡の中の目がこれ以上ないほど大きくなる。
その目が、彼岸を見る。
彼岸の口元に貼りついたガムテープを見やる。
僕のほうに向き直る。
重々しく、厳粛に。
「――――そうかもね」
静寂が再び続くこと、たった3秒。
みんながそろえたように吹きだし。
「ちょっ、美智!そこは……ああ!お腹痛い!」
「そこは、なによ!」
「み、ち、っなんで、そんなとこで、ふふっ、抜けて、ははっ」
「ダメ、だ、腹が、よじれる――!」
「今すぐ笑いをやめなさい。早く!」
「すいませ、ふふっ、いま、笑うの……ッ!あははっ!」
「げほっ、かはっ、むせる、美智、それは、かふっ、ないだろ」
「そんなところで、抜けないでよー、くくっ!」
「いやあ、さすが大物ッ!小事は、気に留めないご様子で……」
「ぐふふ、ふへ、はぁ、むふっ」
『気持ち悪い笑い声出すなアラン』
「なんで僕にはみんなからツッコミがくるの!」
アランの笑い声のおかげで一気に冷めた。彼、生涯最初で最後のいいことが人の笑いを止めることだとは……。
「ちょっと紫苑!僕だっていいことはするんだからね。なんたって僕の座右の銘は『一日一膳』なんだから!」
「漢字が違う、『一日一善』だろうが。お前一日一食しか食べないのかよ」
「あんたら……」
ひんやりとした空気と共に、一陣の風が吹いた。
「いっぺん黙れ」
恐怖の――恐怖としかいいようがない――美智様降臨。
一気に静寂が駆け戻る。
「ねえ、彼岸っていうの、めんどくさいの。原 貴史。これから原ね」
どんなに調べても突き止められなかった、彼岸の素性。
「もしあなたがこの裏社会から足抜けするっていうんだったら、それなりの司法取引くらいしてあげる。少しでも早く娑婆に戻りたいでしょう。殺し屋なんてふざけた職業のあなたにも、大切な人、いるんじゃなくって?ここで喋られるのは、困るんじゃなくて?頷くか首振るかどっちかになさいよ」
どんな感情を孕んでいるのか分からない声が、静まり返った部屋に響く、響く。
彼岸――原は、ゆっくり、うなずいた。