それは易い花色
ふ、と。
「え……?」
「兄ちゃんも優しいんだなー。氷の刃にいるなんてもったいない」
「おい、アラン、だっけか?その糸引いてみな、お前が取り返したがった彼岸の五体を刎ねることになるぜ」
一般の人たちに巻きついたはずの糸は全て、いっさいの表情を表さないマスクの男の体中に巻きついていた。かわいそうなほどぐるぐる巻きだ。
「彼岸にはうちのやつらも何人かやられてるもんでね。意趣返しするのは氷の刃だけじゃない」
「私ら『三羽の鳥』だって、彼岸には恨みがあるのよ」
あれ、一般人、だったよな。
「よぉやってくれはったなぁ、AAAはん」
「わざわざ俺らを呼びつけるなんて、何の騒ぎかと思ったよ、Aquila」
「その呼び方好きじゃないわね……普通に美智って呼んでよ」
「いいじゃないか。誇り高き鷲。君を象徴する鳥。似合いだと思うけれど?」
「似合うのと好き嫌いは違うの」
「なあ、Corvus、君もそう思わないか」
「似合うとは思いますが、人の好き嫌いとは別ですよ。ちなみに私もその呼び名は好きじゃありません。きちんと智恵と呼んでください」
「ふむ、美しき鴉も好きじゃなかったか。じゃあ君は?Ulula」
「僕はどうでもいいよ。でもやっぱり名前のほうが好きかなー、ね、真紀って呼んでね」
「……賢者の梟も、駄目かい……」
とことん女子にふられている彼のことは一旦放っておいて。
「――聞いていいかい?美智、もしかしてここにいる人たちって……」
「全員三羽の鳥に決まってるでしょう。ここは三羽の鳥の集会所なんだから」
「ですよねー……」
だよな、一般人が来るところに美智が僕らを連れてくるわけないよな。
でも、この人たち凄いな。一般人にしか見えなかった。
さすが、三羽の鳥といったところか。
こういうところからも、格の違いが出るような気がする。
「喧嘩両成敗……っていいたいところだけれど、どう見てもこれ、悪いのってAAAよねー」
「ですね」
「思う」
しかもリーダーが勢ぞろいとは。絶世の美女の両脇に、美しい彫刻のような少女と、可愛い花のような少女がいると、そこだけがスポットライトに当てられたように輝く。
「三羽の鳥って、怖いんだねー……」
持っているものを、考慮しなければ。
美智が持っているのは……カッターだ。むき出しのの刃を器用にくるくるもてあそんでいる。
智恵が持っているのは……鉛筆か。勤勉な彼女らしい。
真紀が持っているのは……ペットボトル。先ほどから全く飲んでいない。
……確かに、怖い。
「さて、刻まれたい?」と美智。
「それとも、突き刺されたいですか?」と智恵。
「何なら、木っ端微塵になるって選択肢もあるけど」と真紀。
「なるほどー、美智はナイフ、智恵は針、真紀は……ねー、爆弾?」
「うん。僕の特製爆弾だから、被害は最小、でも確実に一人の人間を死に貶めるっていう夢のような爆弾だよ!」
無造作にペットボトルを振り、にっこり笑う。ああ、聞いたことがある。三羽の鳥の中で、『梟』と呼ばれる夜明真紀は、組織の中でも指折りの。
「この爆弾魔が……お店少しでも壊したらちゃんと弁償するのよ?」
「大丈夫だよ!信じてて!」
……なにが大丈夫なんだろうか。
「ふふ、どうする?」
三人の女神が、三様に微笑む。
「「あー……」」
最高に美しい脅し。敵対していたボスたち。顔を見合わせる。困ったように笑う。
両者、顔を引きつらせた。