見たくなくても見えるもの
それが真実なら・・・・・・
「ちさ姉!!何言ってんだよ!」
ゐつに来るよう言って僕は二階から駆け下りる。三段飛ばし。そのまま台所にひとっぱしり。
三十過ぎのおば――いやいや、お姉さんが朝ごはんを作っていた。ゆうゆうと作業を続けながらこう言ってくる。
「別に?隼ならゐつちゃんを襲うこともないでしょう?他のバカなやつらよりずっとましよ。なんたって隼は」
「もういい。どーせ僕は童貞ですよ」
「あ~、拗ねた」
鈴木智佐子。僕らが勤める組織の日本の所長である。とても三十路過ぎとは思えない容姿ではあるが、中身が古い。なんせ古すぎて壊れているくらいなのだ。そう、思春期の男女を同じベッドに同衾させるくらい。
「ちょっと、なんか頭の中で変なこと言わなかった?」
鬼が、こちらを、振り向く。こ、こわっ・・・・・・
「べ、別に」
目を合わせないようにすっとフライパンのほうに目をやると。
「あーっ!ベーコンエッグ焦げてんじゃねえか!ちゃんと見ててよ、ちさ姉!」
・・・・・・その後、朝食にはパン、スープ、サラダ、そして焦げたベーコンエッグが並んだ。
「ふぁぁ。んで、どうだった?初めて女の子と寝た感想は?」
「あ、それオレも聞きたい。それにお前が珍しく洋服着てるわけも」
黙々とご飯を食べている僕に、他のエージェントたちが冷やかしを入れてくる。
「涼、それは年齢制限つきのほうなのか、付いてないほうか分かんないけど。僕はゐつには何もしてないよ。あと陸、僕だっていつも和服着てるわけじゃあないんだからね。――てか2人とも、もうすこしキレイに朝飯食べろよ!」
ぼろぼろとパンのくずを落とし、耳を食べない涼。たまごの白身とベーコンだけを食べ、黄身を残す陸。
「今日の掃除は涼と陸がやってくれるわよ、きっと。」
所長の一言で2人は家中の掃除をする羽目になったのだった。