それは重い灰色
「まあ、幸せモードに浸るのもこれでしばらくお預けってことで。全面戦争といこう」
「リル……」
全面戦争、か。
「僕は休学届けだすかな。んー。ゐつはどうしよう」
本当に、戦争だ。
「あ、あたしも」
「その成績で休学届けだすと、確実に留年するぞ」
ゐつは、休学届けを出すべきでないし。
「じゃあどうするっていうんですか」
「こっちにおびき出せばいい。もう隠せないから」
「何を」
「僕が標的だってこと。分かっててリルはここに来たんだろ。分かっててきて、自分から言わせようとした。違うか?」
「さあな」
「そうなんじゃん」
ちょうどそのとき、控えめな電話のベルが鳴った。
「はい、鈴木です」
《リルか隼出しなさい》
「……どちらさまですか?」
《智佐子も鈍ったわねー。あたしのこと、わすれたの?》
「いや、だから」
《いいから代わって》
「俺が出る。どっかで聞いたことある声だ」
いきなりのわけが分からない人物の登場である。マジで困るから。
「はい、代わりました、リルです」
《すっかりしおらしくなったこと。覚えてないの?あたしのこと。んー、違うわね。あたしたちの、こと》
「《忘れた?金田一美智。よく遊んだじゃない、組織同士で》」
がちゃり、万全なはずのセキュリティをくぐり抜け。
「忘れたって言ったらぶん殴って思い出させてあげるけど」
僕は久しぶりに、懐かしい顔を見た。すっかり、変わってしまっていたけれど。
「――もうとっくに死んだとばかり思っていたんだが?Holmes」
「やめてよ、その名前。あたしは名探偵じゃない」
まるで神様が創りあげたような女の子だ。……綺麗だ。
でも、特徴は変わっていない。肩甲骨まで伸びるポニーテール、右目には銀の片眼鏡、右足の動きがすこしぎこちない。色に例えるなら燃えるような、匂いたつような、艶やかな赤。
「情報屋から聞いたわよ。AAAと戦争くむんですって?」
「あ、この子がゐつちゃん?綱手ゐつ。戦闘能力にかけては横に出るものはいない、とかいう」
「うわー、リルも老けたもんね。そんなんじゃあたしたちにやられちゃうわよ?」
「あー!隼だ、ますます可愛くなってるー!どれどれ、眼鏡を外すとー?」
眼鏡をいともたやすく外される。そうして僕の目を、
直視した。
「ふーん、強くなってる。あ、でもこれでもね、あたしだって強くなったから。そう簡単には貴方に飲まれないわよ」
「やめてくださいよ、買いかぶらないでください」
「……あたしに敬語使うんだ」
「――死にたくないから、撤回する」
「よろしい」
金田一美智。探偵。かつてその右目と右足をなくし、目のほうは移植、足のほうは義足を使って、通常の人よりも優れた動きをする。彼女は他に、2人の少女と共にある協会を開いた。
「『三羽の鳥』が、何の用だ」
『三羽の鳥』。彼女たちを鳥に例え、三頭政治のように力を分散させて部下を率いる、強大な組織だ。彼女たちがこの協会を作ったのは、まだ僕が7歳、彼女も7歳のときだった。
「彼岸に会うんだって?無茶無茶。止めときなさい」
「何でだよ」
「あいつはあたしたちが片付けたから。会う?」
「……は?」
「彼岸は、こちらが片づけました。お会いになりますか?っつってんの」
彼女の力はとても強い。金田一美智ただ一人で、僕たち氷の刃が壊滅させられてしまうであろう程に。
「あとAAAにも話し付けといたんだけど、話し合いの場を持ちませんか?」
きっと、彼女一人でAAAも壊滅させられるのだろう。
「あのね、あんたらの領域で何やっても、三羽の鳥は何も言わないわよ?でもね、あんたたちはきっとあたしらの領域にも被害を及ぼす。それは許せないのよ」
「……確かに、被害を及ぼすかもしれないな。それで?飛び火しないように、首を突っ込んだってわけ?」
「そういうこと。分かってるじゃない、隼。だから、話し合いの場を設けてあげたってわけ。のる?乗らない?」
金田一美智っていうのは、僕が一番最初に生んだキャラクターです。右目右足が不自由な、女の子の探偵。この『三羽の鳥』の話も、いつか出していこうと思っています。
というか、ただいま絶賛スランプ中です。誰か助けて。