それは苦い金色
「先輩は言いましたよ?あたしに、『おかえり』って。ねえ、あれは家族だからじゃないんですか?」
「だから、なんだ?」
口先で隼に、紫苑に、勝てるものはいない。
「だから、邪魔者じゃないんです。みんなを傷つけるわけじゃないんです。わかりますか」
「まったく」
「本当の家族なら、その存在を疎んだりはしませんよ。ね、あたしだから、説得力を持つ言葉です」
――そうか。
ゐつちゃんは、親といながらにして家族はなかった。それを気まぐれで前の事件の女が拾って育てた。
ゐつちゃんに、家族といえるような家族はいなかったのだ。
ここ以外。
「それでも、血はどうしようもない。僕は」
「傾城が、何ですか。関係ないです」
関係ないで切り捨てた――
「関係ないで済むことじゃねえんだって」
「関係ないんです。そんなの。だって、傾城じゃなくたって先輩はあたしたちを拒絶するんでしょう?」
「は?」
「先輩は、あたしたちを拒絶してる。あたしたちに心を見せない。本当を見せてくれない」
「何言ってんだ」
「本当です」
「だんだん話がずれてきてる」
「ずれてません。ずらすのは貴方です」
「……」
「前、あたし言いましたよね。先輩はずるいって。何でか分かりますか」
「わからない」
「それが、ずるいって言ったんです。あたしたちのことは何でも分かってて、助けてくれるのに、あたしたちには何もさせてくれない。自分のことには何一つ触れさせてくれない。それがずるいっていうんです」
「触れて、なんになる?自分で一杯いっぱいになってる、それなのに。触れて、支えられるとでも?知って、どうにかなるとでも?そんな予定調和が、本当にあるって?」
「あります」
「そんなの机上の空論だろ」
「いいえ」
「どっからその根拠はくるんだ」
「経験から、です」
「経験?」
「先輩はあたしを受け入れてくれましたもん。先輩自身が一杯いっぱいだったのに、先輩はあたしを受け入れました。ねっ」
「――別に」
「ね。そうでしょう。先輩は今、自分で自分が抑えられないから、だからみんなに八つ当たりしたいだけです。だったら受け入れますよ。かまいませんよ」
「……はは、やけっぱちだな」
そう言って。
ああ。そう言って。
「ほーら、笑ってくれた」
「だって、っ……ははっ!お前、ど真剣に、無表情で、っくく、ちょ、笑い止まんねぇ、――!」
「ごめん、私には笑いどころが分からない」
「「大丈夫ー、俺たちもだから~」」
「すまん、俺も、わからない」
分からない。笑いどころは全くなかったはずだ。
でも、まあ、いいか。
「はー、なんか、よく分からんが吹っ切れた。何で僕、こんなことをうじうじと考えてたんだろう」
「そうですよー。人間そんなもんです」
「どんなもんだよ」
「えへへー、分かりません」
「うん、僕も分からん」
ちらと隼がこちらを見た。顔には笑みが浮かんでいる。本当、だった。
「俺もわかんねえよ。隼、早く理解して説明してくれ」
「無理だって」
フラグぶち壊しの少女は、いろんなものを壊していく。
俺たちの、隼の、みんなのわだかまりさえも。
どうやらここは仲直りして――というフラグが立っているはずなのだが。
「ね。あ、ゼリー食べましょう!昨日結局食べなかったじゃありませんかー」
……また、ぶち壊した。
「つーか、冷静に考えると隼とゐつちゃんの話、かみ合ってなかったよなあ」
「?森羅、食べないのか」
「いや、さあ」
「お前、時々馬鹿だよなあ」
「は?」
いい。これでも。これが。
「あー、幸せしあわせ」
「次こそっ、次こそはAAAとっ!対決ですよ。彼岸と。んでもっててk(殴」
「何でも喋るな、馬鹿が」
「いったー!ひどいです、紫苑」
「quintが馬鹿なんだろ。仕方ない」
「むー」
「まあ、ええと、お楽しみに……」
「お楽しみにっ!」