それは倦んだ闇色
暗いです。ひたすら暗いです。――でも、それもあるから氷の刃なんだと思っています。人間綺麗なばかりじゃないことを表したかったので、暗いです。
我慢してください。作者がこんなこと、言うべきじゃないですけど。
「しおーん、ちょっと」
「何?リル」
「お前の階級、上げるから」
「は?」
「今日から最上級。あーゆーおーけー?」
「ぜんっぜん。つうかリル、仮にもイギリス人だろ。母国語くらいちゃんと喋れ」
――まただ。
俺と目を合わせてくれない。
「なんとなくー。ってのは嘘で」
いったん言葉を切り、無表情になるリル。
「お前が危険だと、俺が認識したからだよ、紫苑」
「なんで」
「今、どんな目をしてお前は俺を見てると思う?」
「憎悪。すべてのものを拒絶し、排除する。そんな目だ。きっとお前は、隙さえあれば俺を誘惑して、俺を殺すぜ?」
「え?何もいえないだろ。だって本当のことだもんな」
「それは」
「本当、だろ。俺らまで殺すつもりで、お前は突っ走ろうとしてる。はっきり言って、このままじゃお前壊れるぞ。精神的に。分かってんのか」
「そんなこと」
「ある。――うわ、すっごい殺気。主に刃向かう気か?俺に買われてる傾城のくせに」
「…………おい」
「おお、こわ。そんなに傾城って呼ばれるのが嫌か。そうかそうか。自分の血が嫌いなんだ。自分を嫌悪する自分が嫌いなんだ。自分が真っ黒だと、理解している自分が嫌い。エゴの塊でしかない、そんな自分が」
「うるさい」
「うるさかったら?どうする、俺を殺すか?お前ならできるだろうなあ。俺なんてひとひねりか。5年前のミラみたい」
「うるさい!」
「ほら。俺のペースに流された。今のお前に戦うのなんて無理だ」
「……はは、下手に人前で口論すべきじゃないよね、僕たち」
「え?」
「ほら、周りの人たちが――所長だって僕らの気に呑まれてる。ほんと、僕らって厄介だね」
ああ。
形勢逆転だ。
「何が」
「どんな言葉も人を畏れさせる。仲良くしたいと思っても、君は人から畏怖される存在なんだ。そんな中で、一人だけの理解者を持った」
「やめろ」
「それが僕なんでしょう?ばっかみたい。僕は傾城なのにね。人の望んだとおりになる、傾城なのに」
「あ」
「君が散々言ってる傾城の力に、初めから君はほだされてるわけだ。どうりで、先代が死んでから弱体化の一途をたどってるわけだ。君みたいな奴が頭首なんじゃね」
「うるせえ」
「ほら。立場変わったよ?君は僕を侮りすぎてる」
「お前も、俺を侮りすぎたな」
「は?」
は?
「実際は違うだろう?お前の先代である蒼月と赤月が死んでから、この組織は弱体化を始めたんだ。お前の力が強すぎるからと、俺らが押さえつけるのに必死だったからな」
おい、リル、少し言い過ぎだって。
もう止めとけよ、おい!
「……」
「つまり、お前が初めからマインドコントロールを身に着けていればよかっただけの話だったんだ。なのに、小さいお前は心を開かずにいるから、ぐずぐずと時間がかかって。あのな、はっきり言って」
止めろって――
「あっそ。分かった。よおく分かった――」
「二人とも、もうやめて――」
所長がやっと二人を止めにかかる。
遅い。
「そうっすよ、なー?紫苑も、落ち着けよー」
陸も、遅い。
「リル、紫苑は少し疲れてるみたいなんだ~。このごろろくに休めてなくて、だから~、少しいらいらしてるだけなんだ」
涼、も。
でも、たぶん普段なら二人を止められるであろう俺の言葉は、今日は届かない。特に、紫苑には。
「僕は――」
「お前は――」
「「邪魔者」」
「なんだろ」
「なんだよ」
ああ、言ってしまった。
はっと正気に戻ったリルが慌てふためく。心にもないことを言ったのだ、当たり前だろう。
言わせた原因であるやつは、どこでもないところを見ている。
「ほら、僕の勝ちだ。……リルの本心じゃないことくらい分かってる。僕が植えつけたんだから」
「紫苑」
「本当に、ごめん。僕なんかのエゴのために、僕はみんなを傷つける」
「…………」
「公園行ってくるね。すこし頭冷ましたいから」
そうやって去ろうとする背中を、俺たちは追えない。
「先輩は、邪魔者じゃないですよ」
そう思った。
でも、そういえば、こっちにはこの子がいたんだっけ。
立てられたフラグを全て蹴倒すことすらできてしまう、女の子。
「先輩は、大事な家族ですもん」
綱手ゐつ。ただいま15歳。