それは冷たい銀色
んー?ああ、そうだな。俺が呼んだんだもんな。
相談があるんだ。
最近、隼の様子がおかしいと思う。いや、前から変な行動を取るやつではあったけどさ。それは当たり前だと思って俺は許容してるし。
そういうことじゃなくてー、わかる?何ていうんだろ、冷たい……殺気ににたかんじだな。それがずっと出てるんだ。どんなに笑ってても、こっちが薄ら寒くなってくるほどの気を出してくる。はっきり言って、怖いぜ。下手なことしたら、即やられる。
あれは、隼じゃない。
あれは――
「森羅ー?なにやってるんだ?置いてくぞ」
「え、あ、勘弁。お前が行ったら、この部室閉めるんだろ。俺をここに閉じ込める気かよ」
「早く来いよー、僕はもう帰りたいんだ」
「すまん。今行く」
ささっと机の上を片付け、かばんに突っ込む。そのかばんを肩に引っ掛けると、俺は隼のいるほうに走った。
「明朗堂行こ。今日はパーティー開くから。あ、森羅も来るか?」
「いいのか?」
「いいんだよ、森羅だってメンバーなんだし」
優しく笑う隼。
つくづく、作り物の表情だなあと思うよ。
ただの作り物だ。以前は、俺には隼の本心を見せてくれ――ることもあったのにさあ。自信はある。俺は、少なくとも学校中で、誰より隼のことを理解しているって。隼は俺に一番心を開いてくれているって。そんな自信。
なのに。
今、俺に向ける隼の笑顔は、嘘なんだ。
「なに考え事してるんだよ。コーヒーゼリーはいくつくらいにしとくかな……」
「何人来るわけ?全体の3分の1くらいはどうだ」
「まあ、そんくらいだよな。よし、店員さーん」
わかってない。全然わかってない。
怖いんだ。隼が。自分のことが何にも見えなくなってきてる、あの隼が。あの隼のままじゃ、いつかあいつは――
――化け物とは言わねえよ。隼を化け物呼ばわりするやつはたとえ俺自身でも許さない。
でも、俺らが止めないと、そういう風になっちまう、かもしれない。
今のうちなんだ、止めるのは。隼が暴走して、止められるやつなんていない。
もし。もしも、隼が暴走を始めたら。
その光景は、地獄だろうよ。
「森羅、さっきから黙りこくって。どっか悪いのか?荷物、持つぞ」
「いや。考え事。だから、気にすんな」
「――、ふーん」
馬鹿みたいなことだって分かってるよ。
そんなことないって、信じたいよ。
でもな、
それでも、
ありえるんじゃないかって、
そんな下らないこと思っちまったんだ。
親友失格だよな、俺。
それでも、
「そっか」
はっきり、
「じゃあさ、どうして」
信じられないんだよ、
「僕のこと、」
隼が、
「疑ってるんだ?」
壊れないって。
隼は、寂しそうな顔で、優しく笑って、表情を、面みたいに、引き剥がして、言い放った。
「いいよ、別に」
あんとき、俺ってどんな表情をしてたのかな?分からない、分からないんだ。
俺は絶対、あいつを傷つけたんだ。
気にしてないように振る舞ってるけど、きっと。
なあ、リル――俺、どうすればいいんだ?
俺はあいつに、何をしてやれるんだ?
もう、分かんねえんだよ。