そこにないけど見えるもの
現実だった。隣に美少女なんていうゲーム的な展開は、ほっぺをつねっても変わらなかった。
とりあえず少女を着替えさせ、僕も部屋の外で着替える。
「まず、質問しよう」
目の前に座らせた少女は、セーラー服姿だ。僕は、当たり前ながら私服。
「はい、先輩」
「君は誰だ」
朝から大声を出して、僕は疲れていた。肉体的というより、精神的に。おかげで声が低い。
「やだなあ、先輩。忘れちゃったんですか?同じ高校の後輩じゃありませんか」
うちの学校。
「後輩は350人以上いるぞ」
頭がフル活動して思い出そうとしているが、何も思い出せない。と言うか、昨日の夜の記憶がない。つまり、昨日の夜何かあったはず・・・・・・なんだが。
「あと、先輩の勤めてる探偵社の、あたらしい見習いエージェント」
ぼんやり思い出してきた。昨日の夜は確か。
「えーっと、確か名前は――綱手」
「綱手ゐつ。名前はワ行の『ゐ』ですよ」
完全ではないが、全体の骨格が見えてきた。
そう、昨日の夜所長が僕らエージェントを呼び出し、彼女を紹介したんだ。そこから宴会が始まって・・・・・・そして・・・・・・。
「なんで宴会から、僕と君が同じベッドに入ることになったんだ?」
綱手はいたずらを仕掛けた子供の笑顔を見せ、説明してくれた。
「宴会になったとこまでは覚えてるんですね。他のエージェントさんたちがお酒を飲みだしたの、忘れました?しばらくしたら泡の切れたビールを麦茶と間違えて、先輩が飲んじゃったんですよ。ひと口飲んですぐ吐き捨てたのに、先輩倒れちゃって。仕方ないんで、あたしが部屋に運んだんですよ。そのときに所長さんが『あなたの部屋、まだないからそいつの部屋で寝ればいいわ』っていうもんですから」
・・・・・・そんなことしたのか。っていうか、所長!
「それで、一緒に寝たっていうのか!」
僕は盛大に、ため息をついた。