それは深い紺色
薬が効いたのか、眠ってしまった先輩の横で、森羅先輩は小さくため息をついた。
「俺が言ってもせんないことだけどさ、隼はホントに今のこと覚えてないと思う。だから、代わりに謝る、ごめんな」
「森羅先輩は何も悪くないじゃないですか。先輩も悪くないです。……何が悪いとか、きっとないんです」
そうだ。悪いと決め付けられるものが分からない。
「いつもはこんなことないのに――昨日なんかあったのか?」
問いかけではない。純粋な疑問。そういえば、先輩はずいぶん緊張した面持ちで帰ってきた、気がする。そのことを、森羅先輩に話す。
「……隼が緊張してたなんて、そんなこと」
ぶつぶつと考え出す。ときどき「いや、ちがう」とか言っているのは考えに没頭しているからだろう。
「ゐつちゃん、そもそも隼が緊張する相手なんてほとんどいないんだ。あいつが緊張するのは、めちゃくちゃやばい敵か、昔相当酷い目に合わされたやつくらい……」
いるわけねえしなあ、と髪をぐしゃぐしゃかき回して舌打ち。
「本人に聞くっきゃねーけど、秘密主義だしなあ」
眠っている先輩の髪を優しく撫でて、彼は。
また一つ、ため息をついた。
「ゐつー。ちょっと手ェ貸してくれない?タオルも持ってきて」
「はい?」
「いいのかよ、見せることになるぞ」
「別に。隠すほどのもんでもないだろ。もしかして、着替えのときゐつを遠ざけてたのってその理由?」
部屋に戻った先輩から呼ばれた。いつもながら森羅先輩に締め出されていたのだが、今日はいともたやすく扉が開いた。
それでも少し入るのにためらわれて、ゆっくり扉を開ける。
「――――え」
リアクションが遅れてしまったのは言うまでもない。
先輩の背中には。
「ぱっと見直線だろ」
右肩から左の腰に向かって、一本の線が伸びていた。手術痕ではない。痣でもない。鋭利な刃物で切られた痕だ。しかもだいぶ古い。
「これ、一体、」
「切り傷」
「それは分かりますけど」
「そうだな、かっこよく言えば15年前に生き延びた代償?」
「は」
「知りたそうにしてるから教えてやる。森羅にも怒られたし。これは、僕が15年前、両親を亡くしたときに傷つけられた痕」
触ってみるか?と問われ、おそるおそる触ってみた。15年前に付けられたものにしては生々しい。完治したすぐあとのように、他の部分とは馴染まずにあった。おかしい。2歳のときに付けられたものなら、こんな風に背中全体にあるはずがない。
「不思議に思ってるだろ、何で背中全体に傷があるんだって」
「はい……あっ」
「いい。本当のことだ。この傷、何度も開いたり閉じたりしててな、それに加えて、前に1回この傷をなぞられたんだ。ナイフで」
「ナイフ」
「そのことはまたあとで話す。今は両親のときのことだけな。そのあとにも話があるから」
そして先輩は話し出した。まるで他人事のように。彼が体験したことを。