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空を染めて  作者: N.T
それは、どんな、何色?
22/47

それは綺麗な赤色

 えっと、村木隼です。今回からは新しい事件――それとも話?――に移ります。まだまだ未熟な僕たちですが、精一杯動けるように、また、作者が動かせるように努力していくので、これからも読んでいただけるとありがたいです。

 では、どうぞ。

「ゐつちゃん、テストどうだった?結果、返ってきたでしょ」

「……」

「ゐつー。何むくれてるんだよ」

 正式にT高校内特設総合問題解決倶楽部――通称探偵倶楽部に入部したあたしは、部活初日から落ち込んでいた。そこに森羅先輩の無情な一言。

「先輩たちは、どうだったんですか」

「質問を質問で返すか、悪いクセだな。はい、ゐつ。強制されたくなかったら答えなさい」

 先輩が黒い。がくがくと思い切り頷いた。

「国語は?」

「な、75点」

 森羅先輩は頷いている。先輩は、固まっている。

「え、英語は?」

「69点」

「……数学は」

「……え、っとぉ」

 駄目だ。言えない。

 テスト用紙をそのまま見せた。

 大きく、真っ赤な字で、点数が書いてある。

『40』

 森羅先輩も、固まった。

「あ、赤点ギリ……」

「ゐつ、これはさすがに、ちさ姉が」

 全体的に、とても重苦しい雰囲気。

「せ、先輩たちは!どうだったんですか」

 さっき答えてもらえなかった質問を繰り返す。

「俺は順に、90、100、93だな。あ、まだ隼の聞いてなかった」

「僕?僕は……ゐつ、ごめん」

「何で謝るんですか」

 先輩は本当に申し訳なさそうな顔をしている。何だ、先輩もそう良くないのか、と思えば。

「僕は、全部100点」

「…………はい?」

 全部、100点?何を言っているんだ、この人は。冗談だと思った。

「だから、全部、100点。間違いゼロ」

 冗談じゃなかった。森羅先輩はさほど特別なことでもないかのように話を続ける。

「またか~、お前、何の問題なら間違えるわけ」

「そうだな……女性問題?」

 しばらくまじめに考えたあとにやりと笑って先輩がいった言葉に、森羅先輩が大笑いした。

「ククッ、そーかもな、ハハハッ!女性、問題」

「森羅、笑いすぎ」

 そういう先輩も、森羅先輩を見て笑っている。

 2人を見ていたら、なんだかこっちまで可笑しくなってきて。3人でげらげら笑い続けていた。

「ただいま」

「ただいまですっ!」

 家に帰ると……ちさ姉さんがにこやかにお茶を飲んでいた。その笑みが怖いと思うのは、気のせいだろうか?

「ちさ姉、お風呂開いてる?今日はちょっと早めに休みたいから、入りたいんだけど」

 先輩はその雰囲気を知ってか知らずか、片手でネクタイを緩めながらいつも通り中に入っていく。そんな先輩に、ちさ姉さんから。

「お風呂は沸いてるわ。テスト、どうだった?」

 き、来た。

「え?いつも通り」

 ちさ姉さんの作り笑いが消える。心配そうな表情になった。

「どうしたの、早めに休むだなんて。具合悪いなら言いなさいよ?」

「大丈夫。ちょっと、んーと、身体が動かしにくいだけ。だから、いつもの出しといて」

「……そう。ならいいけど、辛かったら言いなさいね」

「分かってるって」

 苦笑いを浮かべながら、ぽんとあたしの肩に手を置く先輩。

「気をつけろ、悪い点数(ヤツ)から見せてけ。僕は、ちさ姉に怒られたくないし、身体痛いからいないけど、頑張れ」

 低く囁かれるのは別に構わないが……そんな。

「じゃあ、お風呂入ってくる」

「ゐつは?テスト、どうだったの?」

 このあとあたしは、小一時間こっぴどく叱られた。


「あ、ゐつちゃ~ん。隼ったら一つ薬忘れてったから~、持ってって」

 食後のことである。頼まれた薬と水差しを載せたお盆を手に、あたしは先輩の部屋へ向かった。

  コンコン

「先輩、薬忘れてますよって、陸さんが」

 返事がない。

「先輩?もう休んじゃいましたか?」

 すると、電子音がして部屋のドアが勝手に開いた。中は真っ暗だ。

 ぽつりと明かりが灯った。サイドテーブルのランプだ。先輩の顔がかろうじて分かる。眠そうだ。どうやら休んでいるところを起こしてしまったようだった。

「何……?ごめん、今薬効いてて、ぼんやりしてるんだ」

 部屋に入り、先輩にもう一度言う。

「薬を一つ忘れているそうです。これ飲んでください」

 ああそうと危なっかしげに上半身を起こす先輩。薬を飲み、また布団の中に戻ろうとする。

「ぁっ!」

「先輩!?」

 いきなり背中を弓なりに反らし、先輩は苦痛の表情を浮かべた。みんなを呼んでこようとすると、服の端を掴まれてしまう。

「だい、じょうぶ。何とも、ないから、いつもの、ことだから、みんなは呼ばなくていいよ。……ごめん、ちょっと疲れた。おやすみ」

 掴まれていた服が離されるのが分かる。先輩はゆっくり息を整え、目を閉じた。

「おやすみなさい」

 あたしは小さくそう言って、部屋から出て行った。

 また、拒絶だ。

 何も必要ない、というような雰囲気。先輩と人との間に、造られた壁。

 敵の間にいたときはそれも当然だと思っていた。しかし今、仲間となったというのにこの拒絶感は。

 少し、ほんの少しだけ、胸が軋んだ。

 信用されていないのだろうか。……先輩を殺そうとしたのは事実なのだからそれも当然なんだけれど。でも。そんなにあたしは信用できないだろうか。いつになったら信用してもらえるんだろうか。どうしたら信用してもらえるだろうか。そんなことを考えているからいけないのだろうか。

「ゐつ?何考え込んでるの」

「あ……」

 お盆を戻し、部屋に戻ろうと思ったときだ。ちさ姉さんが問いかけてきた。先輩は、ちさ姉さんには全幅の信頼を置いているように見える。涼さん、陸さん、森羅先輩にも。逆に言うと、その人たちにしか。

「え、っと――先輩のこと、なんですけど」

「隼のこと、か。座りなさい、長くなりそう」

 言われるままにソファに座る。

「で、隼が?」

「何だか、ホントに心を開いてくれてないっていうか、信用してくれてないような感じがするんです」

 数秒、ちさ姉さんはびっくりした顔をして。

 哀しそうに、笑った。

「それは、仕方ないわね。あれでも前よりは人を信頼するようになったんだから」

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