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空を染めて  作者: N.T
見えるもの
19/47

ナイフの切っ先に見えるもの

「っと」

「どーしました?」

 違う。この気配は、2人分じゃない。紛れるようにもう1人、いや、2人。全部で4人分だ。

「森羅、怪我ないか?」

「おう、だいじょーぶ。お前こそ、顔色悪りいぞ」

 正体不明の足が止まる。殺気が伝わる。僕だけに向けられている、はずだ。

「森羅、ちょっと入り口付近で待ち合わせな。東口に。逃げ切ったら電話する」

「あたしもついて」

「ダメだ。森羅を守れ。僕らエージェントに任せられた仕事の一つだ、quint」

 目隠しでは見えないが、悔しそうな顔をしているに違いない。多分。こういうときに暗号名を使うのはずるいと、分かっていたが、使う方が楽だった。

 低く、静かに僕は言う。

「行け」

  *****

「隼は逃げなれてるから。心配することない」

 森羅先輩は楽そうにコーラを飲む。今あたし達がいるのはファミレス。ご飯を食べて待とうという話になったのだ。

「でも、先輩、目が見えてないのに」

「見えてないと思うか?」

 問う声に肯定すると。

「それじゃ、まだまだだぜ?ゐつちゃん。あいつは、そんな程度で倒されるやつじゃない。ハンデつけても30人は普通に倒すぜ」

「え、強いとは思ってましたけど、そこまでなんですか」

「ああ、そういや、ゐつちゃんは57人だっけ?隼が分析したところによると」

「その微妙な数字、なんですか」

「何かしらのハンデをつけて戦わせたら、何人倒せるかっていう話をしてたんだ。それで、隼が弾き出した数字」

 どんな話をしていたんだ。

「隼って元々理系でさ。何でも頭ん中で計算する癖があるんだな。身体動かすときも、いかに無駄な動きを減らし、かつ計算的に見えないかを常に計算してるって言ってた。病気のとき意外はな」

「そういえば先輩って身体弱いですよね。虚弱体質だって」

「俺が出会ったときからずっとそうだったぜ。1ヵ月に1回は絶対寝込んでた。怪我してた。イギリス留学してたときもそうだったんじゃねえか?」

「イギリス留学してたんですか、先輩。あ、本部はイギリスにありますしね」

「それ。で、大学まで終わってから帰ってきた。すっげー変わったけどな。今の隼になれるのに、俺ずいぶんかかった」

「え」

 つまり、前は先輩はこうではなかったということか。

「前の隼は――」

  *****

「あんたたち、一体何?えー、あー!」

 リーダーであるらしい人間のところまで跳躍し、耳元で囁いた。

「そっちから来てくれるとは、嬉しいなあ。まだ僕に御執心なの?」

 ブラックジャック。

「危ないな。こんな玩具(オモチャ)は、殺せる相手に使いなよ」

 人気のない路地に誘い込むと、数は15人にまで増え、凶器もどんどん物騒になっていた。倒したのは10人。あと3分の1。

「さーて、仕事だ。君をシメたら、吐いてくれる?君たちの望み」

 4人、一気に片付ける。最後のヤツが僕に殴りかかる。よけきれずに右頬に鈍い痛みが広がった。

「さあ、答えてくれる?殴られちゃったもんだから、ちょっと僕イラついてるんだ。痛い思いしたくなかったら早く吐きな」

「話します!話しますから!」

 ありがとうの意味を込め、優しく笑ってやる。

「今日の仕事減ったわ。ありがと。じゃ、答えて?」

「美佳です。貴方が前に振った、女の名前なんですが」

「んー?振ってる女なんていっぱいいるからな」

「え、えっと、30代後半の、泣きぼくろがある、3ヶ月前に貴方が振った女です」

「ああ、あのやけに淫乱な女性(ひと)か。で?自棄になって僕らの組織に手を出そうとしたの?」

「は、はぃ」

 そうか。あの女か。僕への逆恨みから組織に手を出すとは、何も考えていなかったらしい。

「いいこと教えてやるよ。あの女から手を引け。明日くらいに崩れるぞ」

 あの厚い化粧と共にな、と僕は吐き捨て、路地から消えた。


「おい、森羅、ゐつ。お前らファミレスでどんだけ食ってんだよ」

「おい、隼。その頬、どうしたんだよ」

「え、先輩。殴られたんですか」

 3人の台詞がかぶった。

「かえろ。僕疲れた。所長に報告することもあるし。明日は仕事になるし、早く休むことになるから」

「へえ、仕事片付きそう?」

「ああ」

「仕事ですか!」

「quintにも出てもらうよ。これは組織にかかわるから。徹底的に潰しとかないと」

 僕は小さくガッツポーズを作った。ゐつに何か仕事を与えなければと思っていた、ちょうどその頃にでかい仕事だ。僕は何て運がいい(?)んだろう。

「うわー、隼が黒い」

「わあ、先輩が黒い」

「そこ!聞こえてるぞ!」


 仕事は仕事。僕は割り切って仕事が出来る方だ。ゐつもそうなのかどうか。それを見極めなければいけない。仕事というものの奥へ奥へ進むたびに、こうも気苦労が増えていくのははっきり言って嫌だ。でも、これもなかなか。


「うん、楽しくなりそうだ」

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