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空を染めて  作者: N.T
見えるもの
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ドーナツの穴から見えるもの

「説明しなきゃいけないなあ」

「え、ゐつちゃんに?」

 帰り道のこと。坂道を歩きながら唐突に先輩はいった。

「何のことですか?」

 あたしが聞くと、森羅先輩が冷ややかな目を先輩に向ける。

「そう怖い顔すんなって、森羅。僕の能力の話。説明しなきゃいけないだろ?」

 先輩の目がこちらを向く。すると。

「止まれ」

 先輩の声と共に足が止まった。動かない。手も、足も。力を込めて動こうとするのに。ぴくりとも動かないのだ。先輩から目を離せない。開いたままの目は、不思議と乾いた感じがない。

「きをつけ」

 先輩の命令。手足が、勝手に動く。

「礼」

 頭が下がる。

「もういいよ」

 緊張が解けた。自分の意思で体を動かせる。思わず、深いため息をついた。それを見て森羅先輩が言う。優しい口調。

「自分の意思で体が動かないって辛いよな。俺も経験したことあるけど、結構怖かった」

「というわけ。分かった?ゐつ」

 綺麗な顔を右に傾けて先輩が聞く。というわけ、って……

「どーゆーわけですか」

「あちゃ、さすがに分かんないか。――僕はね、人を操ることが出来るんだ。催眠術の場合、本人が受け入れなければ出来ないけど、僕の場合は違う。自分が『こうしてほしい』と願うことを他人の心に植えつける。相手に一分(いちぶ)の隙さえあれば、僕はその相手の心をのぞくことが出来るんだ。そして、思い通りに動かせる」

 自分の考えを、人に植えつける。

「それって……とっても危険なんじゃ」

「そ。たとえば、今僕がゐつに『死ね』って言ってれば、ゐつは死んでた。自分で自分の首絞めたり、頚動脈切ったり、飛び降りたりしてね。で、『○○を殺せ』って言ってれば、ゐつはそいつを殺してた。そんなに簡単じゃないけど、出来る」

 人の力を超えている。そんなこと出来るのは。

「神様じゃ、ないんだから」

「!僕は人間……だよ。少なくとも、神ではない」

 今の間は、いったい何なのだろか。彼は、人間であるはずだ。そうでなければ、何だというのだ。聞きたいが、知りたいが、同時に知るのが怖い。感情を気取られぬよう精一杯笑顔を作る。

「あたしは運動神経がいいんですよ。自信ありますから」

 自分の話にすりかえる。先輩の目を見るのが少し怖い。森羅先輩が普通に先輩を見られるのが不思議で仕方ない。

「俺ら2人でかかったら、どうだ?倒せるかな、隼」

 屈託なく笑う先輩たち。

「そうだな……戦場だったら、森羅死亡、僕瀕死で、ゐつ戦闘不能くらいかな」

 先輩は笑ってそう言うが、話す内容は普通笑えるものではない。冗談でいうならまだしも、声はいたって真剣なのだ。

「俺死んでるの!?んでお前が瀕死って。どんだけ強いんだよ、ゐつちゃん……ゐつちゃん?」

「ゐつ、どうした?」

 学校の秀才2人組、美男子2人組がそろって私を覗き込む。森羅先輩はいつも通りだ。先輩も、いつも通り、優しい瞳をゐつに向けている。

 冷たいときの先輩と、優しいときの先輩。どちらが本当なのか分からなくなる。

「なんでもないです!先輩、なんで殺し合いを想定するんですかっ、怖いじゃないですか。あたし、あんまり戦うの好きじゃないんです」

「お、おう」

 今は、優しいのだ。その優しさを感じるのは……罪ではないはずだ。

「ゐつ、明日買い物行こーぜ。お前、私服少なすぎだよ。服を見繕おう」

「俺も行くー。大丈夫だ、ゐつちゃん。女と付き合えない隼とは違って俺はファッションを理解してるぞ」

 不服そうな顔で森羅先輩を見る先輩。

「森羅と違って僕は自分で女にもなるんだ、僕だって分かってる!それに、僕は『付き合えない』んじゃありません、『付き合わない』んです~。というわけで、明日行こうか」

「え、でもあたし、お金」

「僕ゐつの教育係兼世話役だから。お金も使ってもらった方が嬉しいし」

 お金を使ってほしい?何で?

「お前手術くらいにしか金使わなねーもんな。そのわりに報酬はじゃんじゃん入ってくるし。あ、知ってるかゐつちゃん。隼はプログラムとかの著作権、株の取引で稼いでるんだぜ?玉の輿に乗りたきゃこいつがいい」

「たまのこし……ですか」

「別に、親の遺産で生活してるようなもんなんだから」

 え?

 遺産?

 誰のって。

「ご両親、え、その」

 口がうまく回らない。親の遺産。親が生きてたら、そんなことを言いはしない。

「先輩の、ご両親って、え、な」

「それも言ってないっけ。僕の両親は死んだよ。僕が2才の時に殺された。それからエージェントになって、今月で15周年かな」

「話し出したら何でもばらすなー、お前」

 いたって先輩たちは気楽そうだ。笑って、なんでもないようなことのように話している。


 両親は、いない。殺された。

 どこが何でもないことなのだ。


「……先輩は、おかしいですよ」

「へ?」

 間の抜けた声で森羅先輩が問うた。先輩は片目を細め、持っていたカバンを肩からかける。

「おかしいです。両親を失って、それで笑ってるなんて。しかも殺されたっていうのに。森羅先輩も、友達の親が殺されてるのに」

 ダメだ。これ以上一緒にいたら泣いてしまう。自分は涙もろいのだ。自分が泣いても何にもならないことなど分かっているのに、何故か泣いてしまうのだ。特に、その当事者が強い――泣きもせず、悲観もせずに前に進んでいる――と。

「ごめんなさい、先帰ってます」

「ゐつ……!」

「おいおい、どーしたんだよ」

 あたしが本気で走れば、誰もついてこられない。靴をそろえるのもかまわずに部屋まで走った。制服のままベッドに倒れこむ。

 どうにか、泣かずにすんだ。

 と、思った瞬間。

「いっってぇ!何すんだよ、ちさ姉!僕が何をしたって」

「そーだよ、ちさ姉。俺たちはただ話してただけだって」

「ウソおっしゃい。それなら何でゐつが、泣いてたのよ」

 泣いてる?慌てて頬に手を当てる。濡れていない。やはり、泣いていない。

「何を話してたの」

「僕の能力の話、収入の話、あと……両親が死んでるって話」

「そんだけだ、間違いない」

「あんたたち――!よくそんなこと言ったわ、女の子に。デリカシーなさすぎ」

 あきれた声で言い切る所長。少し言葉を切り。

「ゐつ、聞いてる暇があるならこの2人を徹底的に怒んなさい。2人はちゃんとゐつに謝りなさい!」

  *****

 その後、僕たちは徹底的にちさ姉にしぼられた。ようやく許されたと思ったら今度は能力を使ったのがばれ、さらに僕だけ、涼と陸にいやみをたらたら言われ続け、最終的に。

「これから一週間、目を(さら)すなー」

「アイマスクの上に包帯するってことで~」

「「刑罰決定」」

 いま、僕は何も見えていない。しかし、どこに何があるかは分かる。部屋を出て、隣のゐつの部屋に行った。

「ゐつ、もう寝た?」

「お、起きてます。ちょっと待ってくださいっ!」

「いや、部屋に入るのもなんだからここで話すけど」

 扉の向こうの、あわただしそうな音が消えた。

「ごめんな、僕、何にも考えてなかった。先に説明すんの忘れたんだ。僕は両親を失ったとき、確かに哀しかった。今は哀しくない……って言ったらウソになる。でも、哀しいだけじゃないから笑ってたんだ」

「どういうことですか」

「夜の先にはいつも朝がある。誰が死のうと、誰が生まれようと、それは同じだ。僕は、その夜の先の朝を見てるだけ。朝が来て、人はその前にあった夜を忘れるか?」

「忘れ、ないと思います」

「そう、忘れない」

 沈黙が流れる。……だ、ダメだったか?フォローできてなかった?

「あーっ、僕ってカッコつけが性に合わないんだな。さっき散々怒られてる姿見せたあとなのに」

「そんなことありません」

 強い否定の声が、扉の向こうからした。

「先輩はカッコいいです。姿もそうですけど、心も、何もかも全部、カッコいいです。はっ!あたし、何言ってるんだろ!お、おやすみなさい!明日、買い物楽しみにしてます」

 ベッドに飛び込む音がする。それ以上に。

 僕の心臓の音がする。今までになかったくらいバクバクしている。病気じゃない。でも、頬が熱い。

「なんなんだ。なんなんだ、これ。なんなんだよ」

 朝になれば治るだろうか。この火照りも、この動悸も。

「ね、寝よう。僕らしくもない」

 どこの甘々な恋愛小説だ。女の子の褒め言葉で舞い上がるなんて言語道断だ――!

ういっす。森羅でーす。

長々と書いてしまったことに対するお詫びをしに参りましたー。

……ダメだな、俺のファンがいなくなっちゃ困る。

長々と書いてしまいましたが、読んでいただけて嬉しいです。ありがとうございます!

これからもよろしくお願いします。

次回は俺の秘密が明かされるぜ!

「何言ってんだ、バカ。作者にプレッシャーをかけるなよ」

「隼、こんくらいがいいんだって」

 じゃ、また今度!

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