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空を染めて  作者: N.T
見えるもの
11/47

暗いときでも見えるもの

「……いってきます」

 1人の登校。

「あ、ゐつちゃ~ん。伝言」

「?誰からですか?」

「ゐつちゃんの教育係から」

 つまり、先輩ということだ。

「え~っと、『僕はいけないから森羅と行け。quintができる範囲で調査して来て』だって」

「え……」

「分かった~?」

「はい、涼さん……?」

 一瞬眉をひそめると彼は。

「俺は陸だよ~。まあ、似てるから間違うよね」

 へらと笑った。

「あ、ご、ごめんなさい」

 いいよ、と陸は手を振って。

「いってらっしゃい」

 心を読まれていたらしい。びっくりしたが、うれしかった。

「そ~そ~、そのほうがいいって。ゐつちゃんは笑顔が似合うよ~」


「ごめんなさい、この話するのは辛いと思うんですけど」

「いいです……先生のおかげで結構楽になりましたから」

 女生徒は笑ってそう言った。昨日の事が嘘のように落ち着いている。隣にはその先生。

「へえ、隼はまた寝込んだの。つい一ヶ月前でしょ、前寝込んだのは」

 ゐつは知らない。どうすることもできずにただ黙って聞き流した。それを責めることなく先生は先を促す。

「それで……」

「ゐつちゃんが言ってると日が暮れても終わらないね。俺がやる。君はなんで、あのセンコーにヤられたか、理由分かる?」

 あたしが言えなかったことを、部屋の隅で聞いていた森羅先輩はさらりと言ってのけた。

「それは」

 酷い質問だと思う。酷い。

「ふ~ん、俺は分かった。君がそんな風になかなか口に出せない性格だと知ったから、あのセンコーが狙ったんだな。気弱な女の子は黙り込むことの方が多いし。どうせ君も最初は黙り込もうとか思ったんだろう?」

「!そんなこと」

「ないって言える?それは本当?本当を見たいなら、そのことに真正面から向き合わなきゃ。君は、それを怠ってる」

 森羅先輩は、女生徒に言葉を畳み掛ける。確かに正論だ。確かに、それは正しい。

 でも。

「森羅先輩、言いすぎだと思います」

「ゐつちゃんは黙ってろ」

「黙りません。この人は被害者です。そんな人に酷い言葉ばっかり投げかけて、それで森羅先輩は悪いとか思わないんですか?一番辛いのはこの人ですよ?女でもない森羅先輩には分からないんでしょうけど――」

「分かるから言ってるんだ。ゐつちゃんこそ、俺のことなんて何も知らないくせにずけずけものを言うな」

 黙った。黙るしかない。あたしは森羅先輩のことを知らない。森羅先輩はきっとあたしのことを分かっているのだろう。その差は、小さいようで大きい。どうしようもない。

「で、どうなの?」

「……そう、かもしれない」


「決定。まあ分かっちゃいたけど、気の弱い女の子に重点的に話を聞いてくか」

 森羅先輩はふうとため息をついてそう言った。あたしは、何もしていない。

「あのっ、森羅先輩、ごめんなさい」

「なんで?」

「だって、あたし森羅先輩の何にも知らないのに、酷いこと言っちゃったみたいで」

 きょとん、と音が聞こえそうなほどの顔。

「ああ、あのことね。別に、俺も悪りいこといった」

 そう言うと森羅先輩は息をつき、ゐつの正面に向き直り。

「俺の母さんさ、レイプされて気ィ狂ったんだよね。だから、分かるつもり。しかもそれ、俺の目の前でヤられたからさ。『見るな』って隼が俺を気絶させなかったら、俺も狂ってたかもな」

 笑っている。ペットボトルのお茶に口を付け、吹かない程度に笑っている。

「母さんの治療もこのごろうまくいってるみたい」

「でも、森羅先輩はどうやって立ち直ったんですか?」

 聞いてみた。森羅先輩の表情が、固まった。

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