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目を開いても、閉じても、見えるもの
「ねえ、知ってる?」
君はいきなりそう言い出した。僕らの目の前には赤、橙、白、青、藍と色を変えている空がある。寝転がった草の匂いが鼻をくすぐる。とても静かで平穏なはずなのに、どこか不安がぬぐえない。君はちゃんとそこにいるのだろうか。
「ん?」
僕は空から目をそらさない。そらせない。君の姿を見ることができない。おかしい。冷静になろうとした。本当に君がそこにいるのか、分からなくなる。
「空の色が変わるのは、世界が関係してるんだって」
「なんじゃそりゃ」
とりあえず、苦笑。君の声が聞こえているのだから、きっと君はそこにいるのだと信じて。
「本当よ。空が赤に染まるのは、世界中の人が笑うから」
視界の端に、空の赤を指す君の指が見える。ああ、やっぱり君はそこにいるんだと安心した。
「空が藍に染まるのは、世界中の人が眠いから」
「空が橙に染まるのは、世界中の人が嬉しいから」
「空が青に染まるのは、世界中の人が笑うから」
「そして。空が白に染まるのは、この世の誰かが悲しいからなんだよ」
君の、顔が、見えて。にっこり、笑って。
君が、何か、呟いた。