↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

与太話

教室の"あれ"は何故そこにいるのか

作者: 与太郎
掲載日:2026/09/06

 私の教室には何かがいる。


 何かは知らないが、何かがいる。


 "いる"という表現が正しいのかさえわからない。もしかしたら"ある"の方が正しいのかもしれない


 存在してはいけないものがあるのだ。


 存在してはいけないと思うのは烏滸がましいのかもしれないと"それ"を見ていると思う。

 そのくらい"それ"は、さも当然のようにそこに"ある"のだ。


 教室の隅に吐瀉物のような色をしたドロドロとした"それ"がうずくまっている。


 摘希は静かにそれを見つめた。教室のスピーカーからはホームルームの終わりを知らせる鐘の音が流れていた。

 「つみちゃんどうかしたの?」

 「いえ、なんでもありません。これでホームルームを終わります。みなさん、気をつけて帰って下さいね。」

 ”それ”に気を取られて鐘に気づいていなかった。女生徒に声をかけられ我に返った。

 「やっと終わったー。なんか今日は長く感じたわ。」

 「わかるー。私、世界史のけみやんとかダルいんだよねー。コロンブスがアメリカ大陸を発見したか、到達したかなんて正直どうでもいいんだよ。」

 「知っていないと大人になってから面倒なんじゃない?地雷踏むとキレる人最近多いし。地雷の位置知っとこみたいなノリで聞いてる。」

 

 「やっと部活だ。正直それしか楽しみないよ。」

 「マジで?割とキツく無いか?」

 「体動かせるだけいいよ。」


 「つみちゃんばいばーい。」

 「先生、さようなら。」

 「はい、さようなら。」

 ホームルームの終わりを告げると同時に教室は騒がしくなった。教室では生徒が好き勝手に話をしながら各々帰っていく。一人の生徒が摘希のところに来た。

 

 「あっ、つみちゃん。わからないとこ聞きたいんだけどさ、つみちゃん今時間ある?」


 摘希:つみき"先生"ですよ。まぁ、大丈夫ですよ。でも先生他にも仕事ありますからね。あと、直前言うより出来れば朝や昼に一声かけてくれると有難いですよ。

 女生徒:あーごめんね。忘れてた。

 (女生徒は頭を掻く)

 女生徒:ここなんだけどね……


 生徒にタメ口で話され自分は敬語を使っている図に違和感を覚えたが、もう注意するのもくだらなく感じてしまった。必要になったらこの子達も勝手に覚えるだろう。実際に"それ"と話をする時はみんな気をつかっている。

 それに……生徒と距離が近いのは私としても嬉しい。心を開いて貰えているのだろう。

 ただでさえ中学生の教員1年目で不安だというのに、”それ”は私の気持ちを重くした。


 「ねぇ先生。」

 突然真剣な顔立ちで女生徒は摘希に聞いた。

 「"あれ"さ、どう思う。」

 "あれ"とはきっと"それ"の事だろう。

 「なんでこの教室に来てるんだろうね。」

 「さ、さぁ」

 "それ"がいつからそこにあったのかはわからない。気付いたらそこにあった。

 "それ"について他の先生に相談した事もある。けれど何もしないならほっとけばいいと言って、取り合って貰えなかった。

 

 「実は……部活の3年生の先輩に聞いたんだけどさ、1年前、このクラスで降霊術をした子がいるって噂があるんだ。それで、呼ばれたのが"あれ"なのかなって。」

 「降霊術って?コックリさんだとか、ひとりかくれんぼみたいなのですか?」

 「うん……」

 「それにしても、今時降霊術?先生が小学生の時に流行ったかな。」

 「でもね、普通の降霊術じゃなくて、自分で考えたオリジナルの降霊術なんだって。」

 「自分で考えたって……そんなもの効果あるんでしょうか。」

 「でも実際いるじゃん。みんなできるだけ見ないようにしてるけどさ。あれの正体つみちゃんはなんだと思う?」

 「集団幻覚?」

 「あんなにはっきり見えるのが幻覚?」

 「でも他に説明しようがありません。」

 「まぁ、いいや。教室はもう帰る。つみちゃんありがとね!」

 「はい、さようなら」

 摘希は"それ"に向きなおる。そしてそれに近づいた。「そろそろ教室の鍵を閉めたいのですが……。」そう言うと"それ"は地面を這うようにして、教室からの出ていった。摘希は鍵を閉めて"それ"が学校の外に向かって行くのを眺めた。あれが何処に向かっていくのか、摘希にはわからなかった。

 "それ"は毎朝教室にいて、学校が終わると何処かに向かっていく。体育の移動とか、放課後は毎回"それ"に声をかけて教室の外に出す必要がある。"それ"を放置したまま鍵をかけてはいけない。この教室を担当した時にそう言われていた。

 理由はわからない。

 廊下を先輩の男性教員が歩いてきた。摘希ははっとして挨拶をする。

 「お疲れ様です。」

 「ああ、お疲れ様。授業には慣れてきましたか?」

 「はい……生徒もいい子達ですし、ただ、教室にある"あれ"にはまだ慣れません。」

 ”それ”は何もしない。けれど、何もしないからといって気にならない訳ではない。生徒だって”それ”に神経を使っている。どうにか出来るなら教室の外に出してしまいたいのか。学校から締め出すなり、お祓いするなり、なんだっていい。

 「まぁ、そりゃそうだ。」

 「どうして毎回外に出さなきゃいけないのですか?外に出しても何故また朝になるとこの教室に戻ってくるのですか。」

 「毎回外に出すのは、前に閉じ込めてそれで怒らせた人がいたからだ」

 「怒らせた、怒らせるとどうなるんですか?」

 「あまり噂話は良くない。怒らせる可能性がある。実は、前に"あれ"にの話をしていたのが”あれ”にバレた人がいてね。”あれ”を怒らせてしまったんだ。」

 「だから怒らせると何が起きるんですか。」

 「言えない。何が原因で"あれ"を怒らせるかわからない。迂闊に"あれ"について話す事はできないんだ。けれどおかしな事しなければ”あれ”も怒らない。摘希先生は今までどうりにしてればいいから。」

 「保護者からクレームが来たりしないんですか?」

 「気付いて無いの?学校の外に出るとみんな"あれ"の事忘れてしまうんだ。なんでかはわからないけどね。もう行きます。それじゃあ、摘希先生も気をつけて。」

 

 学校の外にでると”あれ”の事を忘れてしまう?そんな筈は無い。私が初めてこのクラスを受け持った時に、"それ"は既にいた。そして今日まで毎日、"それ"は私のクラスにいる。

 

 私は"それ"を覚えている。


 朝、時計の針は8時を指していた。摘希は教室にいる”それ”を見つめた。摘希は今まで、"それ"の事を忘れていたのだ。なんんとも言えない不気味さがあった。何故自分は”それ”見るまで存在を忘れていたのだろうか。こんなものを忘れる筈が無いのに。摘希はそれを見つめた。確かにそれは見えている。これが幻覚だとは思えなかった。そして不思議と違和感は無い。これだけ気持ちの悪い存在なのに、当たり前のようにこの場所にいるのだ。


 「あの、昨日言ってた、降霊術の話詳しく教えてくれないかしら?」

 摘希は昨日話をした女生徒に話しかけた。彼女は”それ”について摘希よりも詳しく知っていそうだった。

 「……いいよ。やっぱり気になるよね。3年生の先輩で、ノゾミさん?て人が昔いたらしい。その人が去年このクラスにいた時、降霊術をみんなの前でやったらしい。それで霊が乗り移っちゃたのが、"あれ"なんだって。」

 「じゃあ"あれ"は人間だって言うの?去年このクラスの生徒だったノゾミさん?」

 「降霊術をやってるのを見たっていう先輩がそう言ってたんだよ。女生徒がいきなりおかしくなったて。

 「その降霊術をみったって先輩は誰なの?」

 「あの……先生。あまり詮索しない方がいいですよ。先生は来たばかりで知らないと思いますけど、”あれ”の噂話をするのは危険なんです。」

 「ええ、そうですね。でもちゃんと知っておきたいですから。」

 「先生、先生にはあれなんとか出来ない?」

 「ごめんなさい。私にはなんとも言えないわ。」

 「そっか」


 それから数日経った。この学校の鐘の音はどうも不気味に感じてしまう。放課後の鐘の音が鳴った。教室の外に出す為”それ”に声をかけなければいけないのが億劫だった。 その時、女生徒が真剣な顔で摘希の元に来た。意を決したように彼女は言った。

 「先生。相談があるんです。」

 「どうしたんですか?」

 「女生徒:"あれ"が私の家にくるんです。先生助けてくれませんか?」

 「どうして”あれ”があなたの家に?」

 「わからない。もしかしたら……噂話をしたからかも。ノゾミさんって言っちゃったし。私怖くて。」彼女は目に涙を浮かべていた。もう”あれ”を放っておいてはいけない。”あれ”をどうにかしないといけない。そう考えながら摘希は話を聞いた。

 その時彼女の後ろに”それ”がいた。”それ”は床を這いながら彼女に近づいていた。

 「何をするんですか!」

 摘希は近くの椅子でそれを殴りつけた。グチャっと音を立ててそれは潰れて、あたりに飛び散って言った。それに触ったのはこれが初めての事だった。それは動かなくなった。

 

 次の日の朝、時計は朝8時30分を指していた。


 「お前まさか先生を生贄にしたのかよ。」

 「"あれ"の事知らない女の子は先生だけだったんだもの。嫌ならアンタが探してくれればよかったのに。」

 「あ、つみちゃん、おはよう。」

 摘希は全身の穴から吐瀉物のような液体を出し続けていた。摘希はそれに気づいていない。

 一人の女生徒以外みんな下を向いている。今見えているもに、それに気付いていると、悟られてはいけないというように。

 摘希は教室を見渡した。"それ"はもう教室には無かった。

 その事に安心して摘希はホームルームを始めた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。