表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

第7話 高校一年生 秋 reika

  玲香 reika


 ゆいちゃんと私は、とにかくお互いの予定が合わなかった。


 平日の昼は、お互い学校がある。

 夜は、私がバイト。

 休みの日は、ゆいちゃんが昼間都合がつかないのは知っている。

 夜はまた、私がバイトだ。


 ゆいちゃんは、夜中まで起きているような人じゃないみたいだし、私もバイト終わりに雑談して帰ったら、早く寝ないと朝起きられない。

 ただでさえ遅刻が多くて、夜更かしするようになったら、いよいよ単位がやばい。


 バイト終わり。

 制服をロッカーにしまい、私は事務所の壁に掲示されたシフト表に目をやった。


 夕方のシフトに毎日いる「三上」とかいうやつ。

 こんなやつ、他にいない。

 かつて昼間のシフトにいた「三上」は、多くても週5くらいだったはずだよね。


「週7って、おかしくないですか?」

「あ、そこ気づいちゃう感じ?」


 事務所のパソコンに向かっていた店長がそんなことを言う。

 画面を覗き込むと、来週のシフト表を作っているみたいだとわかる。

 まず、夕方のシフトに「三上」を全埋めするところからのスタートになっている。

 テンプレートがもうそうなっているんだ。

 だって、シフトの希望、もう何か月も訊かれていないから。


 再び、今週のシフト表に目をやる。


 「俺」って書いてあるのが店長だ。

 早朝、夕方、深夜、たまに昼間にも登場する。

 「俺」がいない日もある。


「店長は週休1日あるじゃん。私も週休欲しい」


 店長は、はぐらかすかのように「ん?」とか言いながら、振り返って応じる。


「人が足りない。新人、入るまで待って」

「そもそも、4月に私が夕勤になってから、夕方に新人、入れてなくないですか?」


 痛いところを突かれたという顔で、店長は苦笑いを浮かべる。


「夕勤は竹丸のせいで、人が定着しないんだよねえ」


 昼間のシフトに入っていた頃は、夕方の時間帯にも、たくさん新人さんを見かけた。

 みんな長くは続かなくて、すぐに辞めてしまう原因が、竹丸さんとの相性にあるということは、店長が教えてくれたことだ。

 私とも合うかどうか不安だったらしいのだが、私は特になにも思わなかった。

 ギャンブルの話ばかりしてくるけれど、雑談はそれなりに盛り上がる。


「三上さんが夕勤に回ってくれて、助かってたんだよね。竹丸とこんなに長くやっていけるやつ珍しいから」

「もうひとりくらい必要ですよ。まさか店長も竹丸さんと組みたくないとかですか?」


 私は折れずに店長に促す。

 店長は弁明を続ける。


「変なやつ入れたくないんだよね。変なの入れると蜘蛛の子散らしたみたいに、みんないなくなって、シフト崩壊するから」


 深夜帯が崩壊していた時代を私は思い出す。

 あの頃の店長は、いつも寝不足で、事務所のパソコンを操作しながら、居眠りしたりしていた。


「最近、面接にくるの変なのばっかりなんだよ。特に夕勤希望は。夕勤はなぜかバックれるやつも多いから、慎重に選びたい。レジの金抜いたり、バックルームにあるタバコのカートン盗んだりするやつとか、普通にいるし。そういうことされると、余計な仕事が増えるんだよなあ」


 竹丸さんが入る前、夕方のシフトの主力だった大学生の男の人が、タバコやらお菓子やらを、毎日ちょっとずつ盗んでいて、問題になったことを私は思い出す。

 あの頃の店長は、証拠集めのために防犯カメラの映像を何度も見返したり、現場を押さえようとバックルームの段ボールの山に隠れていたり、バックルームにもカメラをつけると言って、工事の手配をしたりと忙しそうだった。


「廃棄の弁当食ったりするやつとかは、窃盗ではあるけどまだ可愛げある。食べ物がもったいないって気持ちも理解できるし。だけど、ガチ犯罪者はなあ」


 信頼していた大学生の裏切りが、店長の心の傷になっているようだった。

 私はゆいちゃんと遊ぶため、あきらめずに説得を続ける。


「変なやつでも、人間を入れてくんないと、私も店長も週休が増えないですよ。どんどんチャレンジすべきです。明日なんて店長、夕方から早朝までシフト貫通してますよ。休みたくないんですか? もうひとりいてくれたら違いますよね?」


 私は怒涛のごとく、店長に力説した。

 店長は、なかなか首を縦には振らなかった。


 ◇


「『蠱毒』って言葉、知ってます?」


 いくら正論をぶつけても、考えを曲げない店長に、私は作戦を変えることにした。

 訝しげな顔をする店長に、スマホで意味を検索し、差し出す。


「古代中国の呪術だって」


 店長は笑いながら読み進める。


「俺に呪い師になれってこと?」

「もっと詳しく読んでください」


 私のスマホを指でスクロールする店長がどっと笑った。

 壺の中に毒を持った動物を次々に投入し、共喰いさせると説明されている。


「毒をもって毒を制すってやつか」


 私は店長からスマホを受け取る。


「より強い毒を持った動物が、最後に生き残るんですよ。いわば、蠱毒の勝者です」

「最後は、そいつを神の御霊として祀るわけね」


 私は深く頷く。


「残ってくれたら、それは神以外の何者でもないじゃないですか。神降臨ですよ。現時点では、竹丸さんが神そのものである可能性も否定できないですけどね。誰も勝てなかった場合」


 げらげらと店長が笑う。


「おもしれー発想だけどさあ。俺、人いないからって、やべーやつ店に入れるの嫌いなんだよね」

「でも、選り好みしてると過労死まっしぐらですよ。店長が」


 店長はまんざらでもない顔をしはじめる。


「少子高齢化だし、選り好みしてられる時代でもないのかねえ」

「時代は変わったんですよ」

「確かにここ数年、特に夕勤希望はやばそうなやつしか面接来ないしなあ」

「竹丸さんより、強い個体を選別して、あの人をわからせればいいだけなんですよ」


 店長は、竹丸さんがわからされる光景をイメージしたのか、にやにやしはじめる。


「試しにやってみるかあ」


 私もにやにやしながら、店長と見つめ合う。


「俺と三上さん、竹丸と新人のペアでシフト組ませて、新人を取っ替え引っ替え。竹丸が癇癪起こせないような、より強い毒を持ったやつが現れれば、この店は安泰ってわけだ」


 私たちはなぜか握手を交わして、蠱毒の成功を祈りあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ