第7話 高校一年生 秋 reika
玲香 reika
ゆいちゃんと私は、とにかくお互いの予定が合わなかった。
平日の昼は、お互い学校がある。
夜は、私がバイト。
休みの日は、ゆいちゃんが昼間都合がつかないのは知っている。
夜はまた、私がバイトだ。
ゆいちゃんは、夜中まで起きているような人じゃないみたいだし、私もバイト終わりに雑談して帰ったら、早く寝ないと朝起きられない。
ただでさえ遅刻が多くて、夜更かしするようになったら、いよいよ単位がやばい。
バイト終わり。
制服をロッカーにしまい、私は事務所の壁に掲示されたシフト表に目をやった。
夕方のシフトに毎日いる「三上」とかいうやつ。
こんなやつ、他にいない。
かつて昼間のシフトにいた「三上」は、多くても週5くらいだったはずだよね。
「週7って、おかしくないですか?」
「あ、そこ気づいちゃう感じ?」
事務所のパソコンに向かっていた店長がそんなことを言う。
画面を覗き込むと、来週のシフト表を作っているみたいだとわかる。
まず、夕方のシフトに「三上」を全埋めするところからのスタートになっている。
テンプレートがもうそうなっているんだ。
だって、シフトの希望、もう何か月も訊かれていないから。
再び、今週のシフト表に目をやる。
「俺」って書いてあるのが店長だ。
早朝、夕方、深夜、たまに昼間にも登場する。
「俺」がいない日もある。
「店長は週休1日あるじゃん。私も週休欲しい」
店長は、はぐらかすかのように「ん?」とか言いながら、振り返って応じる。
「人が足りない。新人、入るまで待って」
「そもそも、4月に私が夕勤になってから、夕方に新人、入れてなくないですか?」
痛いところを突かれたという顔で、店長は苦笑いを浮かべる。
「夕勤は竹丸のせいで、人が定着しないんだよねえ」
昼間のシフトに入っていた頃は、夕方の時間帯にも、たくさん新人さんを見かけた。
みんな長くは続かなくて、すぐに辞めてしまう原因が、竹丸さんとの相性にあるということは、店長が教えてくれたことだ。
私とも合うかどうか不安だったらしいのだが、私は特になにも思わなかった。
ギャンブルの話ばかりしてくるけれど、雑談はそれなりに盛り上がる。
「三上さんが夕勤に回ってくれて、助かってたんだよね。竹丸とこんなに長くやっていけるやつ珍しいから」
「もうひとりくらい必要ですよ。まさか店長も竹丸さんと組みたくないとかですか?」
私は折れずに店長に促す。
店長は弁明を続ける。
「変なやつ入れたくないんだよね。変なの入れると蜘蛛の子散らしたみたいに、みんないなくなって、シフト崩壊するから」
深夜帯が崩壊していた時代を私は思い出す。
あの頃の店長は、いつも寝不足で、事務所のパソコンを操作しながら、居眠りしたりしていた。
「最近、面接にくるの変なのばっかりなんだよ。特に夕勤希望は。夕勤はなぜかバックれるやつも多いから、慎重に選びたい。レジの金抜いたり、バックルームにあるタバコのカートン盗んだりするやつとか、普通にいるし。そういうことされると、余計な仕事が増えるんだよなあ」
竹丸さんが入る前、夕方のシフトの主力だった大学生の男の人が、タバコやらお菓子やらを、毎日ちょっとずつ盗んでいて、問題になったことを私は思い出す。
あの頃の店長は、証拠集めのために防犯カメラの映像を何度も見返したり、現場を押さえようとバックルームの段ボールの山に隠れていたり、バックルームにもカメラをつけると言って、工事の手配をしたりと忙しそうだった。
「廃棄の弁当食ったりするやつとかは、窃盗ではあるけどまだ可愛げある。食べ物がもったいないって気持ちも理解できるし。だけど、ガチ犯罪者はなあ」
信頼していた大学生の裏切りが、店長の心の傷になっているようだった。
私はゆいちゃんと遊ぶため、あきらめずに説得を続ける。
「変なやつでも、人間を入れてくんないと、私も店長も週休が増えないですよ。どんどんチャレンジすべきです。明日なんて店長、夕方から早朝までシフト貫通してますよ。休みたくないんですか? もうひとりいてくれたら違いますよね?」
私は怒涛のごとく、店長に力説した。
店長は、なかなか首を縦には振らなかった。
◇
「『蠱毒』って言葉、知ってます?」
いくら正論をぶつけても、考えを曲げない店長に、私は作戦を変えることにした。
訝しげな顔をする店長に、スマホで意味を検索し、差し出す。
「古代中国の呪術だって」
店長は笑いながら読み進める。
「俺に呪い師になれってこと?」
「もっと詳しく読んでください」
私のスマホを指でスクロールする店長がどっと笑った。
壺の中に毒を持った動物を次々に投入し、共喰いさせると説明されている。
「毒をもって毒を制すってやつか」
私は店長からスマホを受け取る。
「より強い毒を持った動物が、最後に生き残るんですよ。いわば、蠱毒の勝者です」
「最後は、そいつを神の御霊として祀るわけね」
私は深く頷く。
「残ってくれたら、それは神以外の何者でもないじゃないですか。神降臨ですよ。現時点では、竹丸さんが神そのものである可能性も否定できないですけどね。誰も勝てなかった場合」
げらげらと店長が笑う。
「おもしれー発想だけどさあ。俺、人いないからって、やべーやつ店に入れるの嫌いなんだよね」
「でも、選り好みしてると過労死まっしぐらですよ。店長が」
店長はまんざらでもない顔をしはじめる。
「少子高齢化だし、選り好みしてられる時代でもないのかねえ」
「時代は変わったんですよ」
「確かにここ数年、特に夕勤希望はやばそうなやつしか面接来ないしなあ」
「竹丸さんより、強い個体を選別して、あの人をわからせればいいだけなんですよ」
店長は、竹丸さんがわからされる光景をイメージしたのか、にやにやしはじめる。
「試しにやってみるかあ」
私もにやにやしながら、店長と見つめ合う。
「俺と三上さん、竹丸と新人のペアでシフト組ませて、新人を取っ替え引っ替え。竹丸が癇癪起こせないような、より強い毒を持ったやつが現れれば、この店は安泰ってわけだ」
私たちはなぜか握手を交わして、蠱毒の成功を祈りあった。




