第21話 高校三年生 冬~春1 reika
玲香 reika
ゆいちゃんのことは、もちろん、女の子だというていで付き合ってきた。
内心、ネカマなのかもしれないなという思いが拭い去れなかった部分はあったけれど、そこを疑うのは無粋だと考えて、気にしないようにしていた。
ゆいちゃんはゆいちゃんという概念であって、中の人の性別とかはどうでもよかったのだ。
だけど、女の子だってはっきりすると、それなりの衝撃はあった。
なんか、急にゆいちゃんの解像度が高まったような、画面の中のゆいちゃんが、実体を伴いはじめたような、そんな気持ちが襲ってきたのだ。
一次試験の日は、雪がちらついていた。
試験会場として指定された地元の大学に行き、なにやら過激な活動の隠れ蓑として使われていそうなサークルの人に声をかけたれたりしつつ、教科によって手応えがあったりなかったりしながら、私の一次試験は終わった。
翌日、学校で自己採点をすると、志望校の合格判定としては、中くらいの位置に属していることがわかった。
二次試験の前期日程で、大失敗をしなければ受かるでしょうということらしい。
後期日程にまわってしまうと、合格は厳しそうだった。
ゆいちゃんは、第一志望については、合格もあり得るくらいの判定結果だったらしい。
合格ライン上ではあるけど、二次試験の出来に、だいぶ左右されるということかな。
ゆいちゃんは前期日程を受ける前に、第二志望にしていた私立の大学に合格していた。
私の志望校の沿線上にある学校らしい。
文学部だと聞いた。
ゆいちゃんと繋がっていることは、もはや生活の一部みたいになっていて、自然とお互いの状況について、情報共有していた。
ゆいちゃんは、おしゃべりなほうだと感じるけど、情報通でもある。
なにげないおしゃべりの中で、私が見落としている事実に気づかせてくれたりもして、とてもありがたく、頼れる存在だった。
すごく、しっかりした、お嬢さんだ。
大学進学は、事務手続きとか、やらないといけないことがたくさんあって、ひとりだとスケジュールを上手く管理できずに、私は受験まで到達できなかったかもしれない。
二次試験の前日。
私は、生まれてはじめて、東京という街に足を運んだ。
あまりの人間の多さに圧倒された。
スマホのナビと駅の案内表示に従って歩くばかりで、どこを歩いているのかも、わからなかった。
大学がおすすめしているホテルに宿泊し、翌日の試験本番に備える。
自宅以外の場所で過ごす夜は、なんだか解放感に満ちあふれていて、爽快だった。
自由、だった。
地元を出たら、毎日この気分で過ごせるのかと思うと、期待に胸膨らまざるを得ない気持ちだった。
試験を終えて、家に戻ってきた私は、燃え尽きていた。
これが、燃え尽き症候群というやつなんだなと思った。
「今日くらいは勉強しないことにする」
ゆいちゃんにはそう言って、通話を終えた。
私は、もう合格したようなつもりで、春からの新生活について思いを馳せていた。
◇
私は、お金の心配をしていた。
お金の心配なんて、常に、していた。
バイトを辞め、収入がなくなってからは、心配しかなかった。
時給というのは、精神安定剤なのだ。
週7はおかしいと思った時期もあったが、いまにして思えば、働けるときに、たくさん働いておいてよかった。
収入がなくなった私は、継続的にフリマアプリを活用し、お金を得ていた。
いらないものは片っ端から売り飛ばし、大事にしてきた趣味の物にも手をつけた。
壊れて動かないゲーム機。
その上で動くはずのゲームソフト。
お父さんからもらったレトロゲームたち。
壊れていても、案外、普通に売れた。
思い出だけ心にしまって、物はありがたくお金に変えさせてもらった。
よくよく相場を調べたら、値打ちのあるソフトもあったりした。
もっと早く知っていたら、保存状態だって、よくしておいたのになと思った。
どうせ、ゲームの内容はぜんぶ覚えているから、環境作ってもう一度遊んだとしても、懐かしさ以外の味はしないはず。
お金のほうが、いまとなっては、ありがたい。
大学生活って、どのくらいお金がかかるんだろう。
私はひとまず、家賃というものを調べてみようと思って、大学周辺の不動産情報を調べた。
たまげた。
いや、いくらなんでも。
「これ、無理かもしれないな」
合格することばかり考えて、具体的な生活設計までしていなかったことを後悔した。
私はやっぱり不器用な人間みたいだ。
端的に言えば、生きるのが下手くそなんだ。
私には知恵が必要だった。
知恵を得る手段について考えてみる。
「やっぱり、OBを頼るのが、いいよねえ」
スマホの連絡先に、たったひとつ登録された「店長」という文字を、私は見つめた。
自分から電話をかけたことは、ない。
そもそも、詐欺師以外とは、電話で雑談したことがない。
私はもう、店員じゃないから、店長は店長ではないのだ。
いや、店長だけれども。
あの人が辞めてなければ。
私は、通話ボタンを押せなかった。
詐欺師にだって、自分から電話をかけたことはないのだ。
もはや、部外者に過ぎない私が、店長に電話をかけていい理由が、思いつかなかった。
「売上に貢献すればいいか」
私はお客さんとして、あの店を訪れることで、OB面をして、店長と小粋な雑談を決めこむ作戦に打って出た。




