表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

第13話 高校二年生 冬3 reika

  玲香 reika


 クリスマス。


 私はいつもの時間に出勤し、ロッカーを開けて制服を羽織ると、防犯カメラの映像をぼんやりと眺めながら、始業時間を待つ。

 バックルームの扉が開いた音がして振り返ると、中野さんの姿が目に入った。

 いつもどおりの様子だった。


「体調はよくなった?」


 私は声をかける。


「え? なんでですか?」


 中野さんはロッカーから制服を取り出しながら言う。

 こっちを向いた顔はきょとんとしていた。


「昨日、店長から中野さんが体調崩したから、シフト変わってくれって」

「あ、まじっすか」


 私が代わりにシフトを埋めたことは、知らなかったみたいだった。


「体調不良っていうか、浮気調査? 探偵? とりあえず、身体は大丈夫です。メンタルは最悪ですけどね」

「え、どういうこと?」


 意味がわからず、私は訊ねた。

 中野さんは苦笑いを浮かべながら、説明をはじめる。


「出張とか言って、いないはずの彼氏が普通に街を歩いてたんで、尾行しただけです。案の定でしたわ。泳がせてラブホ入ったところで、とっ捕まえてやりました」

「え、修羅場じゃん」


 それって、えっち漫画だよね、もはや。

 三人ではじまっちゃうやつ。


「ですです」


 私が代わりにシフトを埋めたことで、いろいろな人が助かったことは事実だ。

 ゆいちゃんにだけ、ひどい目にあわせてしまったなと、私は考える。

 中野さんの彼氏とその浮気相手は、知らない人だから、不幸になった人間にはカウントしないことにするとして、だけど。


「既婚者とかじゃなくてよかったあ」

「ん?」


 意味がわからないでいると、中野さんが付け加える。


「あ、彼氏のほうね。女はどうでもいいっす。いや、むしろ既婚者でいてくれたほうが報復としてはありだったか」

「そういうことね」


 結婚詐欺の被害にあうおそれを懸念していたみたいだ。

 男女の関係は経験がないから、いまひとつ、すぐにはピンとこないものがある。


「結婚を前提として、付き合ってたんだね」

「いや、当たり前でしょ」


 中野さんは呆れ半分という感じで笑った。


 呼び出し音が鳴り、中野さんが舌打ちする。


 お店に出て仕事をしながら、私はもやもやした気持ちがわきあがるのを感じた。


 中野さんと彼氏との関係なんて、私にはどうでもいい話だ。

 中野さんはバイトを休めて助かったのかもしれないけれど、じゃあ、私はどうして、ゆいちゃんとあんなことにならなければいけなかったのだろう。

 体調不良は嘘なのに。

 本来、シフトを埋めなければならなかったのは、中野さんのほうなのに。

 「まじっすか」じゃなくないか。

 ほんとうは春休みが終わるまで、ゆいちゃんと遊んでいても、いいはずだったのに。


 ゆいちゃん、ゆいちゃん、ゆいちゃん。


 なんだか、とても、もやもやしていた。


 ◇


 バイト終わり。


 制服をロッカーにしまう順番を譲り合っていると、中野さんが声を弾ませながら話しかけてきた。


「ほんと、先輩が暇で助かりましたわ」

「あのね、私にも予定があるんだよ」


 私はもやもやをふっとばす勢いで、中野さんの毒を払い除けた。

 制服をしまって、ロッカーを譲ると、中野さんは制服を握りしめて固まっていた。


「彼氏できたんすか?」


 彼氏彼氏としつこいなあ。

 それしか頭にないのだろうかと、私は思う。


 はやくロッカーに制服をしまえと思って無視していると、中野さんはさらに口を開く。


「えー、やだ。もしかして、友だち?」

「フ・レ・ン・ド!」


 ぽかんと口を開ける中野さんに、私はロッカーを指さして促す。

 中野さんは握りしめた制服に目をやってから、はっとした顔をしてロッカーにしまい込む。


「なんで英語? 友だちですよね?」

「友だちじゃない」


 中野さんは疑問符だらけの顔で私を見ながら、また口を開く。


「friendくらい私だってわかりますよ。馬鹿にしてません? 友だちって意味ですよね?」

「いや、しつこいよ。中野さん」

「え」


 中野さんはスマホを取り出して、なにやら調べる。

 そして、スマホの画面を私に突きつけてくる。


「ほら、フレンドって友だちって意味じゃないですか。ふざけてないで、ちゃんと教えてください」

「ゆいちゃんは友だちじゃなくて、フレンドなの」

「ゆいちゃん?」


 中野さんが、バックルームに響き渡るほどのでかい声でその名を叫ぶ。

 勢い余って、ゆいちゃんの名前を教えてしまった。


 中野さんは、とても面倒くさい女だ。

 隠しごとをしようものなら、ねちっこく吐くまで食い下がってくる。

 好奇心を抑えられない人間なんだ。

 逃げていった竹丸さんの顔をわざわざ拝みに行くし、探偵ごっこまでして、彼氏のひみつを暴く女でもあるんだ。


「え、むかつく」


 中野さんは、普段から全方位にむかついているが、今まで見たことがないレベルのむかつきが顔に出ていた。

 なにがそんなにむかつくのか。

 私がわからないでいると、中野さんは私を睨みながら言う。


「彼氏いらないとか、友だちいないとか、そんなこと言いながら、それって」


 中野さんはきれいに手入れされたサラサラの髪を、自らわしゃわしゃに掻きむしって続ける。


「先輩、『偏屈』って言葉知ってます?」

「知ってるわ」

「いや、もう一回、意味を調べたほうがいいです。騙されたと思って」


 私が偏屈な人間だと言いたいわけだ。

 私はただ、自分の考えを素直に話しているだけであって、偏屈呼ばわれるされるいわれはない。


「じゃあ、あなたは『エゴ』という言葉の意味を調べてきてね」


 私は中野さんに宿題をつっ返す。


「はあい」


 意味がわかっていないらしい中野さんは、にこりと笑って、奇妙なほど素直な返事を返してきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ