第11話 高校二年生 秋~冬1 reika
玲香 reika
「やってんねえ、黒歴史牧場。放し飼いだあ」
バイト終わり。
私はいつものように店長と雑談していた。
事務所の椅子に腰かけ、パソコンに向かう店長の背中に、ゆいちゃんとやっている遊びを饒舌に話す。
店長はおもしろそうに、時折、野次を飛ばしつつ、笑いながら聞いていた。
「そういえば、クリスマスイブってバイト休めたりします?」
背中を向けていた店長は、突如として椅子をガタって言わせて振り向いた。
「え、まさか彼氏? 三上さんが?」
心底、驚いたという顔をしている。
こんな顔は見たことがない。
しかし、それは誤解なのだった。
「いや、ゆいちゃんがクリスマスイブの夜、いっしょに遊ぼうって」
ゆいちゃんの名前が出た瞬間くらいから、店長は大きな声を出して笑いはじめた。
「ネカマのおっさんとイブを過ごす女子高生って、芸術点高いわ」
私は舌打ちしながら笑ってしまった。
それにつられて、店長もまた笑った。
薄っすら馬鹿にされているような気もしたのだが、それ以上の破壊力を秘めた言葉だった。
冷静に考えると、なにやってるんだろうなって思うけど、間違いなくゆいちゃんと遊びたい気持ちがあるのを、私は自覚した。
真顔に戻った私を見て、同じく真顔に戻った店長が口を開く。
「中野さん、今年のイブは出れるらしいから、休んでもいいよ」
「ほんとうですか?」
私は驚いた。
去年、中野さんと店長は、どっちがクリスマスのシフトに入るのかで、しばらく押し問答していたからだ。
彼氏と素敵な夜を過ごしたい中野さんと、離れて暮らす息子にサンタクロースとしてプレゼントを届けたい店長。
蠱毒の最終勝利者である中野さんが敗れるわけもなく、最後は店長が折れた。
当日、夕方のシフトが終わると、店長は私と雑談することもなく、大急ぎで車を飛ばして、別れた奥さんの住む、駅前のマンションへと向かったのだった。
「今年、サンタクロースは来ないんですか?」
私は店長というより、息子さんに思いを馳せて訊ねた。
「うちのサンタはイブじゃなくて、クリスマス当日に来るんだよってもう言ってある。中野さんがいるから、イブは休めねえだろうって思ってたから。あんまり遅いとうるせえんだよ、これが」
ハンドサインの意味は、別れた奥さんを表しているものと解釈した。
「じゃあ、サンタクロースは来るんですね」
私はほっと胸をなでおろす。
店長は微笑んだ。
それから悪い顔をした。
「知ってる? 中野さんの彼氏。俺、びっくりしたわ」
「なにがですか?」
「35歳会社員だって。しかも、中学のときから付き合ってるらしい」
「中学時代から付き合ってるっていうのは知ってます」
思ったより上だなと思った。
下手したら、親子でも成立する年の差ではある。
「店長と違って、お金持ちでかっこいいんです、だってよ。中学生に手出す大人がかっこいいわけねえでしょうよ」
「そう考えると、やべーやつですね」
言われてから、はじめて気がついた。
そんなの、えっち漫画でも許されないよ。
現実のほうがおかしいなんて、どうかしてる。
「おこちゃまは、男のかっこよさの本質ってもんが、わかってねえんだよなあ。俺に聞いてくれれば、いつでも本質情報をお届けできるってのに」
店長は得意げにそう話す。
どう見ても聞いてほしそうだが、私はもったいぶっておく。
「俺に聞いてくれればなあ」
はやくパソコンの操作に戻れよ。
私は上から目線で、店長をにやにやしながら見つめる。
店長がしびれを切らしそうなのを確認して、ようやく訊ねる。
「教えてください」
店長は満足そうに笑って言う。
「養育費を誠実に払い続ける男だよ。離婚した嫁にな。まさに俺のように」
一理ある。
いや、百億里くらいあるなと、私は深々と頷いた。
「ちなみに、俺の懲役はまだ10年以上残っている」
自信満々にそう言って、店長はパソコンに向かう。
「自分のお店を開く夢。まだ先は長そうですね」
店長は、コンビニの仕事を、それなりに愛している。
雇われ店長ではなく、自分のお店を持つことが夢らしい。
「今年は彼氏が仕事で出張だから、クリスマスはバイト入れていいんだってさ」
「そういうことだったんですね」
「ネカマのおっさんと遊んできていいよ」
「はい」
ゆいちゃんと呼べと思ったけど、この際だから許すことにした。
ゆいちゃんと遊べると思うと、気分がいい。
店長は、そのほうが聞いている分には、話としておもしろいから、ゆいちゃんがネカマのおっさんだと断定しているけれど、ネカマかどうかはさておき、高校生ではあると思うんだよなあ。
生活リズムが完全に高校生というか、学生のそれだし。
私が考えていると、
「絶対、浮気してると思うんだよねえ」
にやついた声で、店長は中野さんの彼氏を疑っていた。
◇
クリスマスイブ。
約束の20時頃まで、なにをして過ごそうかなと、私は部屋でひとり、考えていた。
ゲームはもうずっと、ゆいちゃん以外の人とやる気がしないでいる。
電子書籍でも読むか、フリマアプリでもやるかと考えていると、スマホの着信音が鳴り響いた。
私のスマホに電話をかけてくるのは、店長と詐欺師だけだ。
もうすぐ17時。
体内時計でわかる。
詐欺師にしては珍しい時間なので、店長だろうと直感した。
もちろん、正解だった。
「ごめん、三上さん。今から来れる? 中野さんが体調不良で休むって」
困る。
ゆいちゃんと遊びたいのに。
「はい」
店長だって困っている。
仕方ない。
ネットよりもリアル優先だ。
私は大急ぎで、いつもの動きやすい格好に着替えて、家を飛び出した。




