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第102話 大学四年生 春2 reika

  玲香 reika


「晩御飯の前にさ、ふたりで温泉入ろうよ」

「はい」


 今日はお酒を飲むから、飲んでしまう前に入ろうということみたいだった。


「明日は飲まないからね」

「結衣ちゃん、『休肝日』って言葉、知ってる?」

「人を大酒飲みみたいに言わない」


 そんなことを言い合いながら、鞄から替えの下着を取りだして脱衣所に向かう。


「浴衣も忘れないようにしないと」


 そう言って、結衣ちゃんが押し入れを開けた。

 タンスから浴衣を取りだそうとしている。


「私はMで、玲香はSサイズでいいか」

「なんか馬鹿にされた気分」

「ただの身長の問題でしょ」


 頭の上にぽんっと浴衣を乗せられる。

 そのまま、浴衣を落とさないように脱衣所までバランスを取りながら歩く。


「脱衣所っていうか、おっきな洗面所なんだね」

「内風呂だからねえ」


 壁一面に張られた鏡を見ていると、鏡の中の結衣ちゃんが、鏡の中の私に洗濯かごを差し出すのが見えた。

 現実の結衣ちゃんから、かごを受け取る。


 鏡の中の結衣ちゃんが早速、服を脱ぎはじめる。

 靴下から脱ぐんだと思って、私も真似をする。


 結衣ちゃんは、普段、部屋着のジャージもそうだし、外に着ていく服もそうだけど、肌の露出がほとんどない。

 お育ちのいい、お清楚な所作で、着衣の乱れとかないから、結衣ちゃんの肌をまともに見たのは、家族旅行に連れて行ってもらったときくらいだ。

 一年生のとき、結衣ちゃんと裸で抱き合ったこともあるけれど、あのときは暗くてあんまり見えなかったからなあ。


 家族旅行のときは、ママさんとか妹ちゃんとか、ほかのお客さんもいたし、結衣ちゃんのことも、そういう目で見ていなかったから、それほど気にならなかったけれど、ふたりっきりで裸になるの緊張してきたなあ。


 恥ずかしがって服を脱ぐ手が止まっているうちに、鏡の中の結衣ちゃんがいつの間にか下着姿になってる。


 ひとりだけ裸にさせるのは、結衣ちゃんに申し訳ないと気づいて、私もばたばたと慌てて服を脱ぎはじめる。


 結衣ちゃんの進捗を確認しようとして鏡を見ると、かがんでブラを外すところが見えて、どきっとする。

 身体を起こした結衣ちゃんのおっぱいが目に飛び込んできて、私は慌てて目を逸らす。

 見ちゃだめだと言い聞かせて、自分も同じようにして脱いでいく。

 鏡を見れないと思って、現実の結衣ちゃんの足元に目を落としたら、両足をパンツがくぐり抜けていくのが見えて、急にまた恥ずかしくなった。

 背中を向けて、私もパンツを下ろす。


 裸になって振り返ると、結衣ちゃんと目が合った。

 にこっと笑って、結衣ちゃんがお風呂に続くドアを開けた。


「海が見えるよ」


 結衣ちゃんに続いて洗面所の外に出ると、旅館のサイトで見たオーシャンビューが目に飛び込んできた。


「わあ。夕日がきれい」


 私がいつだか海を見るのが好きだって言ったから、海が見えるこの特別室を結衣ちゃんが選んでくれたんだった。


 洗い場に向かう結衣ちゃんの背中を追いかける。

 結衣ちゃんは両手をあげ、長い髪を後ろでまとめながら歩いている。


 髪が持ちあげられて、あらわになった背中を見て、私はふっと笑ってしまった。


「ん? どうした?」


 結衣ちゃんが気づいて振り返る。


「ああ。下着の跡ついてるなって」


 私が言うと、結衣ちゃんが、ははって笑った。


「多少、締めつけを感じるくらいのほうが、しっかり支えてくれてる感あって好きなんだよねえ。玲香はまったく跡ついてないねえ」


 結衣ちゃんに胸の周辺をまじまじと見られて、恥ずかしくなってくる。


「妹ちゃんのおすすめを使っているからね」


 世間話でごまかしながら、洗い場に並んで立つ。


「ふたりっきりだし、洗いっこでもする?」


 結衣ちゃんが悪い顔をして言う。


「しーないから」


 私はそういうプレイは拒否して洗い場に座る。

 結衣ちゃんが、けらけら笑ってる。


 このあと、なにがあるかわからないし、自分でしっかり入念に洗いたいからね。


 ◇


「先、行ってるね」

「はあい」


 結衣ちゃんは髪が長いから時間がかかるみたいで、私は先に露天風呂を楽しませてもらうことにした。


 夕焼けに染まる海と、その上に浮かぶ船、海岸沿いを走る車を眺めながらのんびりお風呂に浸かる。


「夢の中にいるみたい」


 地元にいた頃は想像もしなかった。


 大好きな人が来るのを待ちながら、お風呂に浸かって、こんな景色を見ている自分がいるなんて。


 大学入ってよかったなあ。

 結衣ちゃんをルームシェアに誘ってよかったなあ。


 ぜんぶ、店長のおかげだな。

 いまごろ、なにしてるんだろ、あの人。


「ほんと、きれいだねえ」


 私の意識が過去に向かいはじめた頃、結衣ちゃんが感動したようにそう言いながら、露天風呂に入ってきた。

 思ったより熱かったのか、そうっとお風呂に入っていく。

 かわいいな。

 結衣ちゃんって、おっぱいおっきいな。

 服着てると、全然わかんないんだなあ。


「ん? どこ見てたんだあ?」


 ようやく露天風呂に下半身だけ浸かり、ゆっくり腰を落としている結衣ちゃんが私の顔を見て笑いながら言う。

 私はいたずら心を刺激されて応じる。


「おっきいなって」


 私が言うと、結衣ちゃんは勢いよく肩まで浸かって、熱さを我慢するように両目をぎゅって閉じた。


 その顔、キスしたい。

 さっきの続きがしたい。

 したいしたいしたい。


 私の中に結衣ちゃんが入ってくると思って身構えてたのに、唇を触れさせただけで終わっちゃったから。


 我慢して唇を噛んでいると、結衣ちゃんがふうっと息を吐いて、目を開けた。


「おっきくは、ないよ」

「え、見せてみて」


 私が言うと、結衣ちゃんがお湯をばしゃってかけてきた。


「普通くらいだし。玲香のがちっちゃいだけでしょ」

「なんだとお」


 私がやり返すと、結衣ちゃんがわあっと声をあげた。


「あ、でも、背ちっちゃい割には、おっきいかも」

「まじめに考察しなくていいから」

「栄養がそこに集まりすぎたのかな」

「それ、ぎりぎり馬鹿にしてないか」


 結衣ちゃんがけらけら笑いだした。

 私も笑っていると、結衣ちゃんがじーっと目を見て言ってくる。


「なんで、そんなに私から距離を取るの?」

「あのね、結衣ちゃん。私のほうが先に入ってたわけ。わざわざ遠くに座ったのは結衣ちゃんのほうだよ」

「あ、そっか」


 普通に気づかんかったという顔をしていた。


「こっちおいでよ、玲香」

「あ、私が行くんだ」

「いい景色だからさ」

「いや、いっしょでしょ、景色」


 私はそう言いながらも、うれしくなって、下手くそな平泳ぎを披露しながら、結衣ちゃんの隣に向かう。

 肩が触れあって、ちょっぴり緊張してくる。

 同じ温度になっているから、柔らかい感触だけが伝わってくる。


 手、繋ぎたいな。


 お風呂の中で結衣ちゃんの手を探してみる。

 指が人肌に触れると、結衣ちゃんが私の肩を押してきた。


「どこ触ってんの」


 結衣ちゃんがはにかみながら言う。


「え、どこ触っちゃったんだろ」


 慌てて私が言うと、結衣ちゃんが小さい声で、


「内もも」


 と言うので、申し訳ないと恥ずかしいがいっぺんに襲ってきた。


「手、探してたの。ごめんね」


 私は、突然の痴漢行為を詫びてみせる。


「ん。謝らなくていいんだよ。急だったから、びっくりしただけ。どこ触ってくれてもいいからね」

「私のようなものが、おそれ多いです」


 結衣ちゃんは、お清楚だし、普段、肌を露出していないから、修道女みたいっていうか、なんか神聖な存在なんだよね。

 ふざけて変態的なことも言うし、えっちな女の子ではあるけれども。


「彼女なんだから、いいでしょ。私だって、いくらでも玲香のこと触ったっていいよね?」

「いくらでもはちょっと」

「そこは、『はい』でしょうが」


 私たちは顔を見合わせて、同時に笑った。


「大事に触れたいかなあ」


 痴漢みたいなのじゃなくてね。

 なんたって、神聖だからね。

 えっち漫画だったら、そういう神聖な女の子が、きたないおじさんにやられちゃうのとか、公衆の面前でえっちな目にあわされたりするやつ、好きだけどね。

 現実はちゃんと心があるから、傷つけないようにやさしく大事に扱ってあげないとね。


 私が考えていると、うふうふ言いながら、結衣ちゃんが片手を水面に浮かべてくれた。

 私はその手に飛びつくようにして、両手で掴んで握る。


「結衣ちゃんの手、好き」

「ふふ。どこが好きなの?」

「ん。たくましいとこ」

「それさあ、まあいいけど」


 結衣ちゃんの手を両手で包みこんで、膝の上に置く。

 結衣ちゃんの指がふとももに触れて、くすぐったい。


「日が沈む前に温泉入って正解だねえ。夜は真っ暗で、海見えないよ、きっと」


 私は景色を眺める結衣ちゃんの顔を見て楽しむ。

 おしゃべりしながら動く唇に見惚れている。


 また、さっきの続きをしてほしくなる。


 私からしちゃおうかな。

 どこ触ってもいいって、そういうことだよね。

 結衣ちゃんがいけないんだよ。

 だって、結衣ちゃんがいきなりキスとかするから。

 そのくせ、すぐやめちゃうから。


 私は勇気をだして、顔を近づけてみる。

 気配に気づいた結衣ちゃんと目が合って、怖気づいてしまう。


 自分は恋愛とか、できない人間だと思って生きてきたから、こういうとき、どうしていいのかわからなかった。

 目の前に大好きな人がいて、その人も私のことを好きって思ってくれてて、それだけでも胸がいっぱいのはずなのに、まだ足りないって思っている自分がいる。


 結衣ちゃんのこと知りたい。

 結衣ちゃんが足りない。

 結衣ちゃんがほしい。

 触れあっていたいし、触れてほしい。


 結衣ちゃんを見ていると、愛情があふれて仕方なくて、それをぶつける先だけが迷子になってる。


 夕日が沈み切るまで、悶々としながら、私は結衣ちゃんと温泉に浸かっていた。

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