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第9話 高校一年生 冬2 reika

  玲香 reika


 お店の脇に、コンテナが積み上げられている。


 中野さんはその隣に歩み寄ると、地べたに座ってお店の壁にもたれかかった。

 私の顔を見上げている。

 私は中野さんと雑談の続きをするため、彼女の隣に座った。


 お尻がひやっとする。

 背中もひやっとしたが、すぐに慣れた。


 看板の照明と、店内から漏れる明かりが、田舎のコンビニの広大な駐車場を照らしている。

 ぽつんとしていて、砂漠の真ん中にあるオアシスみたいだ。

 体育座りのつま先を見つめながら、なにか話し足りないらしい中野さんが口を開くのを待つ。


「先輩って、もう二年以上ここで働いてるって聞きましたけど、歳いくつなんすか?」

「18」


 私は手短に個人情報を開示してみせる。


「うける。二回も留年したってこと?」

「え、留年してないよ。今年の春に入学したから」

「ああ。ん?」


 半笑いだった中野さんが、真顔で困惑しはじめた。


「中学卒業してから、高校行かないでここで働いてたんだけど、やっぱり資格を取るために高校へ行こうかなと思って、受験したんだよ」


 高校に行くことを勧めてきたのは、店長だった。


 あるの日の雑談中、「私って、このコンビニで一生を終えるんですかね?」と聞いたら、「それが嫌なら、高校行って、大学受験して、大卒の資格を取ったほうがいいよ」と言われたからだ。


 普通に、ここで一生を終えるのは嫌だなと思ったのだ。


 高卒だと、またここに戻ってきてしまう可能性があるから、大学まで行くほうがいいと、店長はアドバイスしてくれたのだ。


「俺は大学中退してるから」


 店長は、大学を中退している自分がここにいるということは、高卒だと再びここに流れ着いてしまう可能性が高いと、言いたかったみたいだった。


 働きはじめた当時、昼間のパートさんたちからも「高校行かないの?」とか「高校行ったほうがいいわよ」と、理由も添えず、しきりにそう言われていた。

 それも私の考えに、なにかしらの影響を与えたのかもしれない。

 あの当時のパートさんたちは、みんないまのパートさんの圧に嫌気が差して、辞めていった。

 今頃、どうしているのかも知らない。


「へー。そういう人って、夜間とか定時制とか行くもんだと思ってましたわ」


 中野さんが感心したような調子で言う。


「確かに。中学の先生にも、定時制とかもあるよって言われたわ。やんわり公立高校で大丈夫かって言われてたのかな。まったく気づかなかったけど」


 中野さんが、ふふっと笑った。

 薄明かりの下で見る中野さんの横顔は、お化粧も手伝ってか、なんか儚げで、きれいだった。


「同級生、全員、年下なわけですよね? 気まずくないんすか?」

「気まずいってなにが?」


「つおい」


 そうつぶやいて、中野さんはけらけらと笑った。


 実際のところ、学校の中で特に違和感はない。

 三年生に中学校の同級生が何人かいて、タメ口で雑談していると、一年生のクラスメイトから変な目で見られることはあるけれど、そのくらいだ。

 年齢で言えば、確かに三年生といっしょだけど、今年の春に入学した者同士だから、一年生のほうが、よっぽど同級生感がしっかりあるなと思っている。

 お互い高校について、知っていること、知らないことが、同じだからだ。


「友だちとかいるんすか?」

「いないよ」


 私は即答する。

 中野さんは手を叩いて笑った。


「やばいっすね。じゃあ、普段は中学時代の友だちとかと、つるんでるんですか?」

「ん? 友だちはいないよ」


 いないと言ったのに、いることになっていて、私は思わず念押しする。

 中野さんは楽しそうに、あひゃあひゃ言いながら下品に笑ってみせた。


「先輩って、生きててなにが楽しいんすか?」

「え、哲学じゃん」


 突然の深すぎるテーマに、私は頭を抱えた。

 中野さんは笑いを顔に貼り付けたまま続ける。


「趣味とかないんすか?」

「レトロゲームと、雑談?」


 ゆいちゃんをイケボでメロメロにする趣味については伏せておいた。

 こんなぽっと出の女にする話ではないのだ。


 冷笑と嘲笑が基本スタイルであるこの女に打ち明けて、ゆいちゃんとの関係を、わざわざ笑いものにしていく性癖は、私にはない。

 ゆいちゃんがネカマのボイチェンだとしても、ネット世界ではそんなの関係ないのだ。

 みんな真剣にネカマやったり、イケメンを演じたりしているのだから、茶化されるいわれはない。

 店長だって、夜はVRで女子高生なんだ。


「じゃあ、私と先輩がいっしょに楽しめるのは、雑談だけっすねえ」

「ゲームしないんだね」

「スマホのしかやったことないっす。それもあんまり。彼氏はスマホのゲームいろいろ入れてやっているみたいなんですけど、私はあんまついていけてないっすねえ」


 残念そうに中野さんは言う。


「勉強嫌いだし、頭悪いんすよねえ、私。ゲームって頭使うじゃないですか」


 一概には言えないような気がしたものの、私は反射神経より、頭を使うゲームのほうが好きなので、おすすめできるゲームが思いつかなかった。


「否定するとこっすよ、いまのとこ」

「ん?」


 よっぽどのアホ面をしていたのか、中野さんは私の顔を見るなり吹き出して笑った。

 なんだかわからないけれど、私もいっしょになって笑った。


 ふたりで笑っていると、中野さんのスマホが鳴った。

 特にことわりもなしに、中野さんはスマホを耳に当て、私を無視して通話をはじめる。


「ごめん。まだ帰ってない。お母さん出てきちゃった?」


 笑いながら話す中野さんの横顔を見て、彼氏からなのかなと思った。


「わかった。はあい」


 スマホをポケットにつっこんで、中野さんは立ちあがった。

 雑談の終わりを感じて、私もいっしょに立ちあがる。


「彼氏が呼んでるんで、帰りますわ」

「こんな時間から遊ぶんだね」

「え、だめっすか?」


 中野さんは、私にそんなことを言われるとは思わなかったという顔をしていた。


「いいよ」


 私が応じると、中野さんは今日いちばんの大きな笑い声を発した。

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