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悪役令嬢に転生したので、婚約者として正しく振る舞った結果

作者: 福嶋莉佳
掲載日:2026/02/18

……お、おい……こんな事が信じられるか……?


目の前に、昨日までやってたゲームの登場人物が居るぞ……!!


王太子とアイラをぽかんと見ていると、向こうもこちらに気づいた。


王太子の表情が、わずかに引き締まる。


「……フィーネ。何か問題でもあるのか」


声音が冷たい。

明らかに警戒されている。


――え? 既にハードモード?


隣のアイラが小さく身を引く。

そして、王太子の後ろに隠れるような位置へ。


「……大丈夫、ですか」


妙に遠慮がちで、妙に胸をざわつかせる声。

というか、なんで怯えてるのよ。


……あれ?

今、呼ばれた名前――。


ばっと自分の制服を見る。


見覚えのある意匠。

胸元の紋章。


――王太子婚約者の証。


「えっ……ええっ……嘘でしょう!?」


思わず叫んだ声が廊下に響いた。


周囲の生徒たちが一斉にこちらを見る。

ひそひそとした空気が、波のように広がっていく。


「また何か……」

「殿下の前で……」

「本当に困った方ね……」


王太子が静かに息をついた。


「フィーネ、落ち着け」


感情のない声。

澄んだ声、素敵……じゃなくて!!


その言葉に、アイラが不安そうに王太子を見上げる。


「殿下……」


「大丈夫だ」


まるで彼女を安心させるような声色。


――ああ。


間違いない。


ここは乙女ゲームの世界で、

私は王太子の婚約者で、

そして――


私は“悪役令嬢”だ。


「課金までしたのに……なんでよ!?」



「よりによってフィーネに転生……普通ここはアイラでしょ……」


部屋のベッドで、ごろごろと転がる。


「しかも既に嫌われてるじゃん……というか学園生活後半だしぃ……」


天井を見上げたまま、ゲームのフィーネを思い出す。


学園の廊下で声を荒げ、

王太子の前でアイラを責め立て、

感情的に取り乱す姿。


「いや、気持ちはわからんでもないけど……」


確かに、アイラと王太子の距離感は近すぎる。

ゲームだから仕方ないけど、フィーネから見たら許されないわよね。


「どうしよう……このままでは虐めを突きつけられて、婚約破棄→修道院行き……」


よくある悪役令嬢転生ものって、

だいたい二人に関わらなかったりするのよね……。


それが正解かもしれない。


……でも。


「殿下とアイラのいちゃついた姿、見たくない……」


ゲームで操作する分には楽しいのに。

第三者視点になると、胃がきゅっと縮む。


アイラは平民だったが、聖女の才覚を認められ、特別枠で学園に入った――という設定だ。


人懐っこくて、善意で動く。

誰かが困っていれば迷わず手を差し伸べる。


でも同時に、

自分の正しさを疑わない。


感情を優先し、距離感は近い。

相手の立場や周囲の視線より、

「今、こうしたい」を選ぶ。


ゲームの中では、それが魅力だった。


けれど、現実で見ると、

少し違って見える。


……いや、かなり違う。


「……そういえば……」


今まで色々小説やらゲームで見てきたけど――


「アイラみたいな子って、変わるの?」



翌日。学園の中庭は、いつも通りの賑わいだった。


石畳の道を歩きながら、私は周囲をそれとなく見回す。

――いるはずだ。この時間、あの場所に。


そしてすぐに見つかった。


大きな噴水のそば。

王太子とアイラが並んで立っている。


何度も見た光景だった。


王太子は手にした本を開き、

アイラは少し背伸びをしてそのページを覗き込んでいた。


「この魔法理論、難しくて……」

「基礎式を分解すれば分かる。ほら、ここだ」


王太子が指で文字をなぞる。

アイラの肩が自然に王太子の腕に触れた。


――近っ。


距離近すぎ!


普通なら、ここはスルーが鉄板。


しかし――


私は一歩踏み込み、二人の間に立つ。


「――この距離なら問題ありませんわ!」


王太子とアイラを交互に見て、静かに微笑む。


「では、失礼いたします」


それだけ言って、そのまま去る。


「……え?」


背後で、アイラが首を傾げた気配がした。


「……怒ってたのかな?」


王太子が、苦笑する。


「いや。あれは怒っているわけじゃない」


「そうなんだ。よかった」


アイラは素直に笑う。


「びっくりしちゃった。急に来るんだもん」


王太子は、少しだけ視線を逸らした。


離れた場所で、生徒達が小声で呟く。


「……なんだ今のは」

「今日は叫ばなかったわね」


そう。

私は堂々と注意することにした。

ただし、感情的にならず、事務的に。


アイラと王太子が、私の介入によりどう変化するかを。



後日。


王太子の周囲には男生徒たちが集まっていた。

そして当然のように、アイラ。


私は、その輪に割り込んだ。


「私が入れば問題ありませんわね」


にっこり微笑む。


「殿下のお話の場に女性が一人では、誤解を招きますもの。婚約者としてご一緒いたしますわ」


男生徒たちは一瞬だけ顔を見合わせる。


「フィーネ様も一緒にお話しするんですか?」


アイラは少し驚いた顔をしていた。


「なんだ、怒ってるのかと思った」


……こいつ。


怒りが喉元までせり上がる。

けれど私は呑み込む。


「ご心配なく。私は正しに来ただけですから」


誰も、笑わない。


そして王太子は、何も言わなかった。



ある日。


アイラが王太子の腕に触れるのを、目撃した。


「それで――」


話の途中に、

私は一礼して割り込む。


「失礼します」


そして、王太子の腕に触れる。


内心で叫ぶ。

触ってしまった! 触ってしまった!!

でも顔は無表情を貫く。


「どう思います?」


アイラは驚いて、それから――笑った。


「仲良しなんですね!」


そう来るか……。


私は視線を外さず、淡々と言う。


「あなたがしていたのは、こういうことです。

客観的には、そう見えるのですよ」


「……え?」


アイラは王太子と私を交互に見る。


「違います、私はそんなつもりじゃ……!」


慌てて続ける。


「殿下は友達で、私、ただ話していただけで……」


私はそれ以上言わない。

言えば言うほど、彼女は自分の常識に逃げる。


だから、切る!


「ええ。なら、距離を考えてくださいませ」


それだけ残して、私は去る。


周囲の学生たちから小さな声が落ちる。


「……気づかなかったの?」

「いや、見ようとしてなかったんだろ」



それでもアイラは変わらない。


なんなの、鋼の心すぎない?


ただ、周囲の私への評価は、じわじわ変わっていくのがわかった。


逆に、今まで曖昧だったものが可視化される。


――この距離感は、異常だ。

――婚約者が黙って耐えるものじゃない。

――王太子は、なぜ止めない、と。


そして私は、小さく会釈を返されることが増えた。


気づけば、生徒たちは私を避けなくなっていた。


――ある日の放課後。


学園の回廊で、王太子が一人で歩いているのを見つけ、私は呼び止めた。


「殿下。よろしいでしょうか」


「……なんだ」


「わたくしと、婚約破棄なさらないのですか?」


王太子は眉をひそめた。


「……何を言っている」


「アイラさんがお好きなのでしょう?」


王太子は息を吐く。


「婚約は王家のものだ。

軽々しく扱える話ではない」


……えっ。

なんで否定するの。


学園での行動は、あんなに軽々しいのに。


「では、彼女を遠ざけてください」


王太子の言葉が、詰まる。


「……それは、彼女は何もしていない」


ああ、この人も、何も変わらない。


「それでは困るのです」


一礼し、踵を返した。


――これでわかった。


頑張っても、状況は変わらない。

ゲームのストーリーには逆らえない。


「そっか……」


目を伏せかけたが、

私は前を向き、背筋を伸ばした。



卒業の日。


王太子が、周囲を見ながら呟いた。


「……もう終わりか」


隣でアイラが笑う。


「早かったですね」


王太子が口を開きかけて、閉じる。


「卒業したら、どうするんだ」


「家に帰ります。

父が迎えに来るんです」


「そうか」


アイラが少し照れたように笑う。


「殿下と会えなくなるの、ちょっと寂しいです」


王太子の指先がわずかに動く。


「……俺もだ」


アイラは嬉しそうに笑う。


「また会えますよね?」


「……ああ」


「よかった」


頬を染め、目を伏せる。


「私、殿下とお話しする時間、好きでした」


ここで王太子は一歩踏み出しかける。


「アイラ――」


言いかけたその時、足音が近づく。


私は二人の前に近づき、殿下に言う。


「殿下、お幸せに」


王太子の表情が、そこで初めて固まった。


「……どういう意味だ」


「国王陛下に証言を提出して、婚約破棄をお願いしているの」


生徒たちが私を避けなくなった頃、

私は証言を集め始めていた。


学園内における不適切な接触、

誤解を招く行動、

注意の経緯――


驚くほど簡単に集まった。


王太子は、息を止めたように動かない。


「父上が承知したのか」


「はい」


「そうか……」


隣で、アイラが小さく呟く。


「……え? 婚約破棄?」


そして王太子を見る。


「どうして?」


王太子は目を伏せた。


「私のせいですか?」


周囲の生徒たちが、小さく囁く。


「……やっぱり」

「惜しい方だったわ」

「フィーネ様、まともだったのに」


「そんなつもりじゃなかったのに……」


アイラは、泣きそうな顔で首を振る。


「私、何もしてないのに……!

誤解です……!」


――誰も何も言わない。


私は振り返らず、

そのまま学園を去っていく。


春の風だけが、静かに吹いていた。

スピンオフです。お暇な時にどうぞ。

『聖女と私』

https://ncode.syosetu.com/n9343lu/

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― 新着の感想 ―
まさか続きをいただけるなんて! ありがとうございます(T人T)!
>「婚約は王家のものだ。軽々しく扱える話ではない」 婚約を一番軽々しく扱ってるボケ王太子が何か言いよるwって思いましたw こいつを王太子のままにしてる国王もゴミなのかな…。 王太子としての資質見直し…
もう一押し! もう少しだけ続きを! おバカ2人がどうなったかまで見たかった…(´;ω;`)
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