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ルルル・ラウド

「なに? どうすればいい? いや、分かってる。一番の方法は」

 共感すること。

 目の前に降り立った蒼白の絶世の美少女の姿をした魔女狩りと戦うには共感するしかない。『氷姫』とファルシュが言ってくれたおかげで、この魔女狩りが高校で語られている七不思議の一つに出てくる存在なんだろうことはなんとなく分かる。でも、それ以外になにがある? アミューゼが話してくれた内容のどこにも『氷姫』の感情はない。全ては七不思議――被害に遭った側の視点しかない。

 さっきの一言はなにを意味する? 男性への憎しみか? もしそうだとしても、その部分に私は共感できない。じゃぁ欲望? 性欲とか? 男の欲望を醜いと言っていた。つまりは性嫌悪? そんな単純なもの? 違う気がする。違うだろう、違うに決まってる。分かんない、そんなのはちっとも分からない。

 一瞬だ。間違えたら私は一瞬で殺される。魔女狩りは私が間違えることを待っている。看破される相手か否かの目利きを行っているのが分かる。共感されれば後退し、されないようなら始末する。そういう遊びをしている。

 私が死んだら次はアミューゼにこれをやる。彼女もきっと分からない。私だけの犠牲で済めばそれでいいけど、あの子まで死ぬのは耐えられない。


 だったら――


「あなたはどうして生まれたの?」

 私が生き残る術を探すんじゃなく、アミューゼが生き残るためのヒントになる言葉を引き出す。それが私に与えられた仕事だ。



「ワタシは人から生まれた。人から生じた」



 そんなことは知っている。知らないワケがないだろ。くそ、魔女狩りも私の真意に気付いている。心に余裕が無い側と余裕が有る側では思考の研ぎ澄まされ方にも違いがある。無い側は視野が狭くなり有る側は一種の興奮状態。興奮を逆手に取れたら別だけど、私の狭くなった視野ではその方法が導き出せなかった。



「終わり? 終わり? 終わり終わり終わり?」



 煽ってくる。私の発言が間違いであったことをただただ突き付けてくる。



「サヨナラ」



「死するその瞬間まで、決して目を背けず戦い抜きなさい」

 私が恐怖で瞼を閉じてその瞬間が訪れることをジッと我慢していたが、十秒経ってもその時が訪れないため恐る恐る瞼を開く。


 『氷姫』から放たれたつららは私に届くどころか床に打ち付けられて崩れている。そしてその崩れたつららを足で踏み付けて粉々に砕くのはスマホでやり取りをしただけの先輩魔女だった。


「魔女狩りに弱さを見せては、共感すらできなくなってしまうのですから」

「ル、」

「ルルル・ラウドさん!」

 私がその名を呼ぼうとするとアミューゼが代わりに呼ぶ。逆にそれで良い。私の恐怖で上擦って、どうしようもなくみっともない声を聞かせずに済むから。


 にしても、高校に来る前にお茶会で一度だけ顔を合わせたけど、その時はヴィクトリアンメイド型のロングスカートでしっかりとした給仕服を身に纏っていたのに、なんで今は丈が短くてコスプレやメイド喫茶で使われやすいフレンチメイド型を着ているんだろう。


「こちらの方が動きやすいんですよ。見れば分かりませんか?」

 心を読まれた。顔に出ていたんだろう。つまりはそれぐらい私の顔には恐怖が貼り付いていたし、状況を呑み込めていない呆けた顔もしていたんだ。


 『氷姫』はムシャクシャしている。自身の思い通りにならなかったことに対して感情を隠し切れていない。


「今回のお仕事はあなた方には淫魔の討伐が課せられていましたが私にはバックアップと同時にもう一つお仕事が課せられていました」

 ルルルの鋭く冷たい眼差しは『氷姫』に向けられる。

「高校に潜んでいるであろう魔女狩りの討伐。この『氷姫』と呼ばれる存在を抹殺することです」

「なんで事前に教えてくれなかったんですか?」

 か細い声で尋ねる。

「言ったら、あなた方はあなた方自身で魔女狩りをどうにかしようと躍起になるでしょう? ここの七不思議についてはヒアリング調査したときに『魔女の大釜』に届いています。なんにも知らない状態で魔女を送り込むことはしませんよ」



「どうして? この空間にはアナタを閉じ込めてないのに」



「空間超越は偽装されますので外側からはほぼ探知不可能です。が、教室の扉が尋常ならざる力でぶち壊されておりましたので、起こされた場所さえ特定できれば私以外の魔女でも侵入可能です。淫魔をペットとしてこの高校で転がしていたようですが、それさえ無ければ『魔女の大釜』もあなたを発見するのにもう少し時間が掛かっていましたのに。あなたのその傲慢さによってあなたは自身の寿命を減らしました。さすがに短期間で二十名を襲わせるのは行き過ぎでしょう? ああ、そんなことも分かりませんか。だってあなたは魔女狩りですから」

 挑発に安易に『氷姫』は乗る。ルルルを貫くために無数のつららを滅茶苦茶に降らせる。私はキルトに抱えられてアミューゼのいるところまで一気に避難させられる。

「刻印よ、」

 ルルルが右手でスカートをはたくように揺らし、見えた右の太ももの刻印に右手を返す形で軽く擦る。

(きら)え」

 鞭が目まぐるしく縦横無尽に駆け巡り、つららを意味不明な速度で叩き落としていく。

「魔法の鞭……?」

 ただ叩き落としているわけじゃない。つららの角度、速度、そして叩かれて崩れる弱所。それらを全て見極めた上で正確無比に手元で手繰り、防いでいるのだ。

「今日の私はいつもより調子が良いんです。だって推しの3Dお披露目配信がありますから。分かりますか? 午後八時までにはお仕事を終わらせたいんですよ。アーカイブは無限に見ることができますが、リアルタイムはその一回しかありませんので」

 『氷姫』には全く理解不能な言葉が並べられる。混乱している。私も混乱している。

「ワタシは分かられない」

 非常に面倒臭い言葉の使い方だが、要は「理解されない」と言いたいのだろう。そこは私も危惧している。『氷姫』に共感できなければ、幾ら空間を切り分けることができてもルルルさんは魔女狩りを討ち取れない。


「男性の注目を浴びたい。男性に穢されたい」

 ルルルが呟くように『氷姫』に言葉を紡ぐ。

「もっと傷付けて、もっと冷たい目線を向けて、もっと、もっと、もっと激しく。氷のように冷めた私の体を温めて! 刺激的な恋がしたい! 刺激的に、ボコボコにされたい!! そうでしょう!? だってだって! こんなにも美しい私が穢されるなんて! とっっっっても、そそることでしょう!?」

 感情が過激に、激烈に、強烈にルルルの言葉から溢れ出し、感情の波が増幅する。

「私はあなたに共感可能です、『氷姫』」

 スッと冷静な口調と表情に戻り、さながら死刑宣告かのように淡々とルルルは言い切る。


「ウァアアアアアアアアアアッ!!」


「刻印よ、」

 再び右の太ももを右手の平が擦り、『氷姫』を指差す。

「燃えろ」

 炎の鞭が逃げようとする『氷姫』に巻き付き、絞め上げる。

「七不思議では男性を虜にする絶世の美少女。しかしその内に秘めたるは、支配する側ではなく支配されたい側の凄まじいまでの願望。凍て付いている心を溶かすほど熱く焦がれる欲望です」

 『氷姫』の肌が焼け爛れて、溶けていく。

「ルルル・ラウドの名を永劫にその胸に刻みなさい。あなたを殺す魔女の名です。そして、ミイナ・サオトメとアミューゼ・ドライト。魔女狩りをどのように仕留めるか、教えましょう」

 溶けた魔女狩りから魔力魂が露わになる。この魔力魂はアミューゼでも目視できるらしく、圧倒されている様を感じる。

「刻印よ、喰らえ」

 鞭はその身を炎の蛇へと変わり、魔力魂に咬み付く。そのまま砕いて呑み込んだ。炎の蛇はルルルの意思によって消失し、溶けた『氷姫』は肉塊となって崩れ去った。

 ルルルはスカートの裾を摘まんで肉塊にお辞儀をしたのち、右手の平で刻印を擦って魔力が辺りへと流れる。空間超越は一気に収縮し、私たちは元の空き教室に戻ってきた。

「少しばかり非情ではありましたね。『氷姫』を誘き出すためにあなた方を私は利用しましたから」

 魔女の世界では利用し利用される。こんな使われ方もすることぐらいは頭に入れていたつもりなのに。

「いえ、これは私の甘えです。どこかで調子に乗っていました。師匠の傍にいたときから魔女狩りのことを聞いて、学んで、知ったかぶりをしていたんです。私の手でも討てる、私でも倒せる。その甘え、驕りが、アミューゼから聞いていた話をどこか遠くへと追いやってしまっていました。だからこそ…………次に魔女狩りと遭遇することがあれば、私はこんな風に……弱いところなんて、見せません」

「…………ミイナ・サオトメ。あなたはこれから伸びるタイプの魔女候補生です。そしてアミューゼ・ドライト。あなたも余計なことをしない辺り、好感が持てます。恐怖とは飼い慣らすべきもの。恐怖に対抗するだけが全てではなく、時として足を止める判断材料にもしなければならないのです。あなたが足を止め、動かなかったことで『氷姫』の標的はミイナ・サオトメだけに向けられました。私が駆け付けた直後、明確に彼女を守らなければならないと即座に判断できた。これはとても大切なことです」

 ルルルはファルシュだった物に触れる。

「ホムンクルスはこんなことでは死にませんよ。心臓がなくとも、脳をやられても、そんな物は人間の範疇での生命活動を司る物でしかありません。魔女が造り出す人工生命がそんな脆いわけがないじゃないですか。私の魔力も少し分けましょう。あなたの魔力によってこの子は再び活動を再開します」

 私の手を掴み、ファルシュだった物に当てられる。

「マスター、生きているか?」

「っ! それは、こっちのセリフでしょ!」

 私は頭部だけのファルシュに涙を零しながらそう訴えた。

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